オペラ映像「エフゲニー・オネーギン」「運命の力」「フィガロの結婚」
チャイコフスキー 「エフゲニ・オネーギン」2023年2月7,9日 モネ劇場
なんとロラン・ペリーが「エフゲニ・オネーギン」を演出。ペリーと言えば、コミカルで軽快でユーモラスな演出をする人。カラッとして都会的。チャイコフスキーの田舎の貴族の館を舞台にした哀愁を帯びたこのオペラとは対極にある。どんな演出をするのだろうかという興味でみてみた。
が、ちょっとがっかり。ペリーの良さが現れていないように思えた。さすがに舞踏会の場面などは生き生きとしているが、このオペラの持つ陰鬱でけだるい雰囲気はうまく出せていないし、それに代わるものも提示し得ていないように思える。
指揮のアラン・アルティノグリュについても、私にはこのオペラに特有のえもいわれぬやるせなさ、哀愁、「ふさぎの虫」のようなものが伝わってこない。かといって、豪華絢爛な雰囲気があるわけでもない。演出も演奏も、私には中途半端に思える。
歌手陣は充実している。私が最も惹かれたのは、レンスキーのボグダン・ヴォルコフだった。若い歌手で、自然な発声で、声そのものが美しい。レンスキーにふさわしい素直な歌唱。オネーギンのステファン・デグーもタチアナのサリー・マシューズもよいのだが、ちょっとわざとらしい声に聞こえる。デグーはオネーギンらしく歌おう、マシューズは若々しく歌おうとして無理をしているのではないか。
「運命の力」 ミラノ・スカラ座 2024年12月7日 (NHK/BSで放送)
現在考えられる最高の演奏家による上演だと思う。指揮はリッカルド・シャイー。序曲から大きく盛り上げる。シャイーらしく、細かいところまで神経が行き届いて、しかもシャープでドラマティック。しかも、けっして大袈裟にはならない。レオ・ムスカートの演出も、大きな読み替えなどなく、納得がいき、とても説得力がある。
レオノーラのアンナ・ネトレプコがやはり素晴らしい。以前のような細めの強い声ではなくなって、ヴィブラートも強まり、声のコントロールは少し甘くなった気がするが、表現力は圧倒的。ドン・アルヴァーロのブライアン・ジェイドも高貴な声でしっかり歌う。ちょっと演技力が物足りないが、若いので仕方がないだろう。ドン・カルロのルドヴィク・テジエは、このような敵役を歌わせたら比類ない歌い手と言って間違いないだろう。プレチオシルラのヴァシリーサ・ベルジャンスカヤも凄味のある声、修道院長のアレクサンドル・ヴィノグラードフも余裕のある深い声。合唱も素晴らしい。第三幕幕切れの合唱など圧倒的だった。
「フィガロの結婚」2015年11月 ベルリン、シラー劇場
ドゥダメルをきちんと聴いたことがなかった。デビューしたころ、断片的に聴いてあまり好きな指揮者ではなさそうだと思った。「フィガロの結婚」を指揮したことは知っていたが、モーツァルト向きの指揮者ではなかろうと思って、あまり興味を惹かれなかった。が、先日、ダルカンジェロの歌を聴いて、そのすごさを再認識、彼が伯爵を歌うドゥダメル指揮のこの映像を購入した。
見てみると、これはすべてのそろった大変な名演! ドゥダメルについては、初めのうちは、ちょっとおとなしすぎではないかと思えるほど落ち着いた演奏。が、しっかりとモーツァルトの音を出し、勢いがあり、楽しくも気品のある世界を作り出していく。
歌手陣が素晴らしい。ダルカンジェロの伯爵は凄味がある。悪役でありながらのコミカルな演技も見事。私はフィガロも、ドン・ジョヴァンニもこの人が最高だと思っている!ドロテア・レシュマンの伯爵夫人もしっとりした声がとてもいい。いやいや、それどころかまさに最高の歌唱! アンナ・プロハスカのスザンナも澄んで声でしかも勢いのある歌唱。ラウリ・ヴァシャールのフィガロは、演出のためだろう、ちょっと気まじめな雰囲気だが、裏のありそうな演技がおもしろい。声ももちろん見事。マリアンヌ・クレバッサのケルビーノも実にチャーミング。そして、カタリナ・カンマーローアーのマルツェリーネが第四幕でこれまで聴いたことのアリアを見事に歌う。
演出はユルゲン・フリム&ベッティーナ・ハルトマン。かつてのフリムの演出に手を加えたということだろうか。20世紀前半?の設定で、どうやら避暑地に引っ越しての「狂った一日」ということらしい。時代に合わせて道具立てを変え、細かい趣向はいくつもあるが、ほぼ台本通りに話は進み、とても楽しく見ていられる。
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