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三枝オペラの傑作『悲嘆』DVD

Hmv_2811574  オペラ『忠臣蔵』の武士たちの合唱を聴いて、ワーグナーの『神々の黄昏』の武士たちの合唱と同じような感動を覚えて以来、私は三枝成彰オペラのファンだ。三枝作曲、アーノルド・ウェスカー台本によるオペラモノオペラ『悲嘆』の初演の舞台も見せていただき、『忠臣蔵』に匹敵する感動を覚えた。

 三枝先生にお会いした時に『悲嘆』のDVD(メイ・コーポレーション)をいただきながら、直後にラ・フォル・ジュルネのためにフランスに出発したので、これまで見る機会がなかった。帰国後、ずっと仕事に追われていたが、やっとひと段落し、原稿にも手をつけられるようになって、DVDを見ることができた。

 実演に感動したのに、そのCDDVDに接して失望する・・・といったことがしばしば起こる。今度もそうなりはしないかと少々恐れていた。が、まったくそんなことはなかった。ただ、やはり映像と実演では、感動の質が違っていた。

 実演で見たときには、YUKI MORIMOTO指揮のオーケストラの音楽の微妙さ、とりわけヴァイオリンとクラリネット、そして鼓動のようなティンパニに惹かれた。舞台全体に一体化して、まさに舞台に参加していた。そして、英語の台本を用い、愛する男性を失った女性のモノローグという、シェーンベルクの『期待』やプーランクの『声』につながる題材をとることによって、現代日本で親しみやすいオペラを作曲するという離れ業をやってのける作曲家三枝成彰の仕掛けの見事さに感嘆していた。

 西洋と日本、難解な現代音楽と親しみやすい音楽、19世紀と現代という、交わるはずのない両極を三枝マジックで一体化していることに、驚嘆した(これについては、北海道新聞2008年4月24日夕刊に書かせていただいた)。

 だが、映像を見るうち、たった一人の登場人物であるトミコを歌うソプラノの中丸三千絵繪に意識が集中し、同化している自分に気づいた。

 最初は和服姿の日本女性が英語で歌うことに違和感を覚えずにはいられない。そもそも、ドイツ語やイタリア語のオペラに慣れた耳には英語の響き自体に違和感がある。だが、徐々に気にならなくなってくる。彼女の悲嘆に共感し、涙を流し、まさに悲嘆をともにする。中丸さんの見事な歌と演技に圧倒された! そして、その容姿の美しさと日本女性としての立ち居振る舞いの美しさにも感嘆!

 昨年は坂口安吾原作、間宮芳生作曲のオペラ『夜長姫と耳男』を見て、強い感銘を受けた。クラシック音楽という決して大衆的な人気を得られない音楽の中のオペラ、しかも日本人の作曲家によるオペラという、存在理由自体が問われかねないジャンルに、いくつもの傑作が生まれていることに、改めて驚かざるをえない。

 私自身を含めて、多くのクラシック音楽ファンはこの分野にそれほどの関心を寄せてこなかった。もう少し目を向けるべき時期が来ているように思う。

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