« 三枝オペラの傑作『悲嘆』DVD | トップページ | ナントの演奏家たちのCD ベスト5! »

P・ジョルダンとN・ミヒャエルの『サロメ』DVDは凄い!

 先月から今月にかけて、いくつかレベルの高いドイツもののオペラDVDを見た。それぞれの感想を簡単にまとめてみる。

 まず、ラトル指揮、ブロンシュウェグ演出、BPOのエクサンプロヴァンスでの『ワルキューレ』。ジークムントとジークリンデを歌うギャンビルとウェストブロークがよかった。とりわけウェストブロークにうっとり。彼女はバイロイトでも聴いたが、ジークリンデに適役。DVDの場合、美しい容姿も感動を得るには大きな要素だ。

 ブリュンヒルデのヨハンセンとヴォータンのホワイトも悪くないが、もう少し力と風格がほしい。演出は可もなく不可もなし。

 見事だと思ったのはラトルの指揮とBPO。バレンボイムなどとはまったく違うキレがよくメリハリの効いたワーグナーなのだが、ツボを心得ている。感動するべきところで感動した。さすがだと思った。

 バレンボイム指揮、シェロー演出、ミラノスカラ座の『トリスタンとイゾルデ』。

 私は94年のバイロイト音楽祭の録画が最高だと思っているが、それに匹敵すると思った。歌手はみんな悪くない。ただ、全盛期をよく知っている人間からすると、サルミネンやマイヤーの衰えは否定できない。シェロー演出については、もっと演劇的に鋭い切込みをするかと思ったら、それほどでもなかった。

 演出過多が嫌いな保守的な私としては、踏み込みすぎるよりはこの方がありがたい。ただ、マイヤーの最後の場面の血糊は、かなり気になった。どくどくと湧き出してくる血潮にどんな意味があるのだろう・・・

 バレンボイムの指揮は相変わらずすばらしい。ただし、私は、ワーグナー指揮者としては、バレンボイムはフルトヴェングラーを超えたと思っているものの、『トリスタンとイゾルデ』に関しては、まだフルトヴェングラーの形而上学には達していない。

630 最近、最も衝撃を受けたオペラDVDは、フィリップ・ジョルダン指揮、デヴィッド・マクヴィガー演出、ナディア・ミヒャエルがタイトルロールを演じるコヴェントガーデンの『サロメ』だ。

 指揮もサロメも演出も、凄絶という言葉がぴったり。最後の、サロメが血だらけになって生首にキスするシーンなど、身の毛がよだつ。あまりにリアル。

 単に生首がホンモノらしいというだけではない。サロメが血だらけになるということではない。まさしく人間のリアルとでも言うか。生身の存在の恐ろしさ、人間存在のリアルさを感じる。ナディア・ミヒャエルの容姿の美しさもリアルさを際立たせる。

 フィリップ・ジョルダンは、スイス・ロマンド管弦楽団を指揮していたアルミン・ジョルダンの息子だというが、アルミンはかなり渋い演奏をしていた記憶がある。息子はそれに引き換え、何と切れ味の鋭いことか。

 CDはカラヤン盤、DVDはこのジョルダン盤がベストと言い切っていいだろう。

 もう一つは、セバスティアン・ヴァイグレ指揮、カリスト・ビエイト演出、リセウ大歌劇場による『ヴォツェック』。ヴァイグレはバイロイトで『マイスタージンガー』を聴いたが、そのときはカタリーナ・ワーグナーの圧倒的な演出に気をとられて、音楽を聴く余裕がなかった。が、今回聞いて、なかなかいい指揮者だと思った。切れがよく、しかもロマンティック。全体的にはなかなかの上演だ。

 ただ、工場を舞台にして貧しいプロレタリアートと支配階級の対立という図式にしてしまった演出には納得できない。貧しい人全員に赤い作業服を着せてしまうと、ヴォツェックの恐ろしいほどの孤独な狂気が伝わってこない。それにヴォツェックとマリーの間の子どもを酸素ボンベの必要な病人にしてしまっては「私生児」=「神に呪われた存在」という時代に即した凄みのあるテーマがあやふやになってしまい、単なる可哀想な子どもになってしまう。

 ハヴラータのヴォツェック、デノケーのマリーは悪くないが、私はかつてのアバドやバレンボイムの映像ほどの感動を感じなかった。デノケーは、『カーチャ・カバノヴァ』や『死の都市』、『カルディヤック』のほうがずっと魅力的だった。鼓手長をかつてタンホイザーやローエングリンを歌っていた懐かしいライナー・ゴルトベルクが歌っている。声もしっかりとして、さすがの貫禄なのだが、老いた鼓手長にどのような意味があるのか気になった。

|

« 三枝オペラの傑作『悲嘆』DVD | トップページ | ナントの演奏家たちのCD ベスト5! »

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/532807/44106130

この記事へのトラックバック一覧です: P・ジョルダンとN・ミヒャエルの『サロメ』DVDは凄い!:

« 三枝オペラの傑作『悲嘆』DVD | トップページ | ナントの演奏家たちのCD ベスト5! »