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潔さの美学 和田秀樹監督『受験のシンデレラ』

Photo  和田秀樹氏が初監督した映画『受験のシンデレラ』のDVDが発売された。DVDをいただいたので、改めて見た。2007年のモナコ映画祭で最優秀作品賞と最優秀男優賞、最優秀女優賞、最優秀脚本賞を獲得したというが、まさにそれにふさわしい。とりわけ、作品全体を覆う潔さの美学に感服した。

 和田氏と旧知の仲だから言うのではない。私は実は、かつて早稲田大学第一文学部演劇学科で映画を専攻して、映画監督になりたいと思っていた人間だ。イタリアの鬼才監督パゾリーニを卒論で取り上げた。映画評論新人賞というのをもらったこともある。シナリオを書いて、あと少しで映画化というところまで行ったことがある。『遠雷』などを監督した根岸吉太郎とは早稲田の同級生でよくいっしょに遊んだものだ。

 ・・・つまり、本音をいうと、和田秀樹氏をあまり誉めたくない。映画監督を夢見ていた私がそんな機会に恵まれず、とっくに諦めているのに、東大医学部を出て受験指導者として名をなし、精神科医としても論客としても日本を代表する存在である和田氏がちょっと映画を作って、それが名作だなんて、シャクではないか。努力を重ねながら、映画を作る機会に恵まれずにいる人、必死に作っても駄作でしかなかった人をどうしてくれるんだ。

 しかも、奥さんも美人ときているから、自分との差の大きさに愕然とする! 私はもともとかなり東大コンプレックスが強いのだが、和田氏を見ていると、それが爆発する!

 が、実際に映画を見たら、そんなことは言っていられない。まさしく名作! 私は涙を流しながら感動してこの映画を見た。

 私が何よりも感服したのは、映画全体を貫く「潔さ」だった。

 最初から、これでもかと言うほど戯画化されたステレオタイプの場面が続出する。徹底的に金の亡者の予備校講師、徹底的にだらしのない母親、徹底的に嫌味な東大生とその母などなど、まさしくステレオタイプの登場人物、そしてステレオタイプのお涙頂戴のストーリー展開。

 しかし、実は、このようなステレオタイプを描くのは難しい。とりわけ、和田氏ほどのインテリが臆面もなくステレオタイプを用いるには、潔さが必要だ。芸術性を切り捨て、娯楽に徹し、微妙なニュアンスを潔く切り捨ててこそ、ステレオタイプが生きてくる。潔くステレオタイプを用いているから絶妙のバランス感覚が働いてユーモアが漂う。

 映画の中で展開される和田流受験哲学も実に潔い。「東大に合格できれば、自分の力で人生を変えられる。東大に合格するには、すべての科目ができる必要はない。入試で最低合格点を越すためだけの勉強をすればよい。無駄を省いて要領よく勉強すれば、東大合格は多くの人間に可能だ」。私は、徹底的なまでに合理的な思考の中にある潔さの美学に惹かれる。

 主人公の予備校講師は癌に侵されながら、高校中退の女の子を潔い勉強法で東大合格に導く。そして、その直後に死んでいく。その死に様もまた潔い。

 映画の中には勉強法も展開される。受験産業にいた私から見て、かなり鋭く的確な勉強法だとはいえ、それが果たして現実に東大合格を可能にするものかどうかについては、東大卒でない私には多少疑問が残る。

 だが、この映画の全体に漂う潔さは全面的に納得できる。そして、寺島咲、豊原功補の主演二人も見事。

 このような傑作が世の中に知られないまま埋もれてしまうとすると、こんなもったいないことはない。多くの人の見てもらいたい作品だ。

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