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新国立の『ワルキューレ』はジークリンデが圧倒的!

 新国立の『ワルキューレ』再演(4月9日)を見た。実は、『ラインの黄金』だけでなく、これも初演を見ていない。チケットは買っていたものの、ワーグナーの10演目をバレンボイム指揮、クプファー演出で上演するベルリンのフェストターゲとちょうど重なって、ベルリンのほうを選んだ(ベルリンの10演目は私の生涯最高の思い出の一つとなった!)。

 さて、今回の『ワルキューレ』、一言で言って、世界一流レベルの上演だと思った。ただし、超一流ではない。感動はした。ワーグナーの、しかも『ワルキューレ』は感動するに決まっているものだ。だが、魂が震えるような大感動ではなかった。

 圧倒的に素晴らしいと思ったのは、ジークリンデを歌ったマルティーナ・セラフィンだ。声の質も美しく、歌い回しも見事。声もよく出ているし、容姿も文句なし。すごい歌手が出てきたものだと思った。きっとそのうちバイロイトにデビューするだろう。第一幕の「春」の場面と第三幕の第一場では、涙が出てきた。強靭でありながら美しいというのはワーグナー歌手には必須の美質だ。

 フンディングのクルト・リドルとブリュンヒルデのユディット・ネーメット、フリッカのエレナ・ツィトコーワも不満はない。日本人歌手が演じた8人のワルキューレも見事。ここまでは世界超一流級だと思った。

 演出のキース・ウォーナーもこのレベルだと言っていいだろう。妙なメッセージや意味ありげな謎かけがないのがいい。見た目も美しく、ワーグナーの神話性を現代に捉えなおしているところは面白い。ただし、これについてはみんなが言ってきていることなので、私はあまり口をはさまない。

 音楽の上でやや物足りなかったのが、ヴォータンを歌ったユッカ・ラジライネンとジークムントのエンドリック・ヴォトリッヒ。二人とも悪くはない。が、やはりこれでは、耳が肥えてしまった現代の聴衆を満足させられない。

ラジライネンは『ラインの黄金』のときよりずっと声が出ていた。が、だんだんくたびれてきた、「告別」の場面でいかにも余裕がない。時々、声がかすれ、音程が怪しくなる。ヴォトリッヒも頑張ってはいたが、ずっとマルティーナ・セラフィンの引き立て役に甘んじていた。昨年のバイロイト音楽祭でもヴォトリッヒはジークムントを歌い、一人で足を引っ張っている感があったが、今回は、それほどには感じなかったが、やはり声の弱さと表現力不足は否めない。

 が、やはり何といっても、エッティンガーに『リング』を引っ張る力がまだ備わっていないというのが、大満足に至らなかった最大の原因だろう。歌手で言うと、まさにラジライネンやヴォトリッヒと同じレベル。頑張ってはいる。悪いというわけではない。素晴らしいところはある。が、圧倒的感動は呼ばない。第一幕前半や第二幕のフリッカの場面など、渋いところの緊張感がない。だから、全体が生きてこない。

 

 とはいえ、これは私のかなりわがままな要求だ。このレベルのワーグナーを東京で見られること自体、少し前では考えられなかったことだ。何はともあれ、ワーグナーの素晴らしさをしっかり味わって家に帰った。

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コメント

私は12日(日)の公演をみました。私もいちばん感情移入できたのはジークリンデのマルティーナ・セラフィンで、いちばん感情移入が難しかったのはジークムントのエンドリック・ヴォトリッヒでした。以前METに行ってドミンゴのジークムントをきいたことがありますが、あれは別格でした!

投稿: Eno | 2009年4月13日 (月) 20時05分

enoさん、コメントありがとうございます。
enoさんのブログを拝見しました。『ワルキューレ』の演出について多くを語っておられましたが、私もかなりの点で同じように思いましたし、教えられる面がたくさんありました。最後の炎の場面、「ああ、そうだったのか!」と思いました。ありがとうございました。そして、エッティンガーのテンポを落とす手法、確かに気になりますね。
enoさんのブログにコメントしたいと思いつつ、控えています。といいますか、自分のブログを始めたものの、それを除いてインターネットへの書き込みそのものを控えています。書き込みをし始めると、私の本について書き込みをしている方(とりわけ批判的な方)全員に書きたい気持ちになってしまいますので。

投稿: 樋口裕一 | 2009年4月14日 (火) 11時07分

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» 復話§新国立劇場『ワルキューレ』[Ⅰ] [ひだまりのお話]
3月の『ラインの黄金』に引き続き『ワルキューレ』の再演である。 [続きを読む]

受信: 2009年4月14日 (火) 22時32分

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