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コペンハーゲン・リングのDVDに感動した!

 コペンハーゲンの王立オペラ劇場によって上演されたワーグナーの『ニーベルングの指環』全曲(『コペンハーゲン・リング』)のDVDを一週間ほどかけて見た。もしかしたら、これまで見た『リング』のDVDの中で、最も感動したといえるかもしれない。

 指揮はシェーンヴァント。CDは何枚か持っているが、大指揮者としての認識はない。歌手陣も、ブリュンヒルデを歌うイレーネ・テオリンを除いて、ほとんど馴染みがない。だから、実は、特に期待せずに見始めた。

044007432655 『ラインの黄金』では、まずカスパー・ベック・ホルテンの演出に目を引かれた。

 舞台は1950年代という設定だろう。キャバレーに飲みにきた客アルベリヒが三人のホステス(ラインの乙女たち)に徹底的にからかわれて、愛を諦め、黄金を手に入れるといった雰囲気。ヴォータンがあまりに残酷。指環(「腕輪」と呼ぶほうが近い)を手放そうとしないアルベリヒの腕を切り取るし、最後にはヴォータンに批判的な様子を見せるローゲまでも殺してしまう。かなり思い切った演出だが、音楽と矛盾はない気がしてくる。

 歌手陣もバイロイトと比べてもまったく遜色がない。特にアルベリヒ役のステン・ビリエルが見事。ただ、指揮については、かなり一本調子を感じた。

   私は『ワルキューレ』あたりから、上演にのめりこんでいった

 演出は相変わらずおもしろいが、私は何よりも歌手陣の驚くべき充実に目を見張った。ジークムントを歌うスティー・アンセン(スティグ・アンデルセンと発音しそうだが、こう発音するらしい)が圧倒的。バイロイトの歴代のヘルデン・テナーに負けない。アンセンは、97年、ベルリン・シュターツ・オパーのコンサート形式での『パルジファル』で、風邪をひいたエルミングの代役をして見事に歌った歌手だという。あの演奏はよく覚えている。ただ、もう少し若いと思っていたが、かなりの年齢なのが意外だった。

 ヴォータンのジェイムス・ジョンソンもブリュンヒルデのイレーヌ・テオリンも、フンディングのステファン・ミリガンも実に見事。第三幕は、演出の火の効果とあいまって、大いに感激し、涙を流した。娘に敢えて残酷に振舞うヴォータンの顔の表情に泣けてきた。

044007432693 『ジークフリート』も同じくらい充実している。ジークフリート役は、『ワルキューレ』のジークムントを歌ったアンセン。ブリュンヒルデもヴォータンもアルベリヒもミーメもファフナーも小鳥も、実にいい。『ワルキューレ』まで、指揮の一本調子が気になっていたが、ドラマに中に引き込まれてしまったというべきか、まったく気にならなくなった。

 

044007432723  そして、最も感激したのが、『神々の黄昏』だ。時代設定は現代。テレビがあり、電話があり、ジークフリートはブリュンヒルデに携帯電話で連絡を取ろうとする! ハーゲンは軍服を着ている。どうやらギービッヒ家は反逆分子を捕らえる役割を負っているらしく、ハーゲンはその責任者らしい。第二幕では、市民を捉えて射殺する光景が見られる。音楽と演出が合っていて、違和感がない。

 そして、何よりも驚くのは、ブリュンヒルデが妊娠しているという設定だ。ただでも妊婦のように見えるテオリンの妊婦姿は、それはそれで実にチャーミング。

 ブリュンヒルデは、ジークフリートに裏切られ、真相を知ろうとするうちに、アルベリヒの切られた腕を発見し、古文書を読んで、これまでのいきさつを知る。指環の呪い、実の父ヴォータンの残酷さ、その帰結としてのハーゲンの武力による圧制。ブリュンヒルデは、そのようなものをすべて焼き尽くして、指環をラインの娘たちに返す。

 最後、すべてが焼き尽くされた後、ブリュンヒルデは子どもを産む。未来を子どもに託そうとするのだろう。しかも、その子どもは、きれいごととしての子どもではない。自分で赤ん坊を取り上げたという設定らしく、服が血で汚れているところがなまなましい。

 すべての歌手が見事。グートルーネを歌うイエルヴァ・キールベルク(Ylva Kihlberg)は容姿も歌もいい。三人のラインの娘の一人であるヴェルグンデ役を名歌手エリザベート・マイヤー・トプセー(Elizabeth Meyer-Topsoe)が歌っていた! 指揮も、もう一本調子だと感じず、私はただただ夢中になってドラマを追いかけていた。

 DVDになっている『リング』には、ブーレーズ、サヴァリッシュ、レヴァイン、バレンボイム、ド・ビリー、ヘンヒェンのものがあるが、私はこのコペンハーゲン・リングを、レヴァイン、バレンボイムと並ぶ最高の一つと考える。指揮ではやや劣るし、歌唱においても飛びぬけた存在はいないが、全体的な歌のレベルと演出は圧倒的。歌手陣の演技も素晴らしい。人間の心理を巧みに表現し、人間ドラマとして感動させる。シェローのバイロイト音楽祭の演出に匹敵するきめ細かさだと思う。

 ともあれ、実演、DVD、CDにおける私のリング体験の中でも最も充実した一つになったことは間違いない。

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コメント

実は、【公開講座】ワーグナー ≪ニーベルングの指環≫のコスモロジー (全5回)
講師:山崎太郎東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授
第1回:10月 6日(木) ≪ラインの黄金≫ ― 神々の人間喜劇
に行ってきたのですが、講演で扱われていたリングの映像。1つはあまりにも有名なバイロイトでのシェローの演出ともう1つが、これでした。
きちんと通しで見てみたいと思い、検索してみてこちらにたどり着きました。
http://www.titech.ac.jp/event/pdf/event_12472_1.pdf
山崎教授は、輸入物でしか、手に入らないのではないかと言っていましたが、今から探してみようと思っています。

投稿: 小原なお美σ | 2016年10月 7日 (金) 00時10分

小原なお美σ 様
コメント、ありがとうございます。
山崎先生の講座、おもしろそうですね。私も時間が合えば、ぜひ聴きたいものです。(私も昨年でしたか、山崎先生の紹介により、東京工大のリベラルアーツの講座の講師として文章術について話をしました)
コペンハーゲン・リングのDVDは、HMVのオンラインで購入できると思います。ぜひおすすめします。ジークフリート歌手に難のあるブーレーズ+シェローのバイロイトの映像よりも、コペンハーゲンの映像のほうが個人的には好きです。

投稿: 樋口裕一 | 2016年10月 8日 (土) 00時04分

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