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5月3日ラ・フォル・ジュルネ報告

今、夜中の12時。23時15分までのコンサートを終えてホテルに戻り、風呂を浴びたところ。忘れないうちに、5月3日のラ・フォル・ジュルネのコンサートについて、メモ書きを示しておく。

今日は9つのコンサートを聴いた。

・指揮はイヴ・ウィンシー。香港シンフォニエッタ。渡辺玲子、ネマニャ・ラドゥロヴィチのヴァイオリンでバッハのダブル・コンチェルト。高木綾子のフルート、中野振一郎のチェンバロが加わって、ブランデンブルク5.管弦楽組曲3。

 ネマニャが圧倒的。渡辺さんもしっかり弾いているのだが、ネマニャに持っていかれてしまう。びしっと決まった音程。完璧な技巧。そして、メリハリのついた激しくも美しい音楽。申し分ない。ただひたすら心をえぐられる。

・オーヴェンニュ室内管弦楽団、ベーク指揮。シュポルツルのヴァイオリンで、ブランデンブルク6番とヴァイオリン協奏曲ホ長調。

 プレコンサートでのシュポルツルの出来があまりよくなかったので、気になっていたが、B7レベルのホールではびっしり決まって、見事な演奏。ネマニャとは違った、きわめて正統的でしっかりした音。誇張のない音楽。しかし、実に自由で自然。天空を書ける思いがする。

 コンサートの後、音楽ジャーナリストの渡邊謙太郎氏にくっついて、シュポルツルのインタビューに顔を出した。「プレコンサートではあまり気乗りしないように思えたが、さっきはすばらしい演奏だった。どう違いがあるのか」と意地悪な質問をしてみた。「ホールも指揮者も違う。今日のほうが自分の音楽を作れた」と答えてくれた。ネマニャについてもたずねてみた。ヨーロッパでバッハのダブルコンチェルトを共演したことがあるとのこと。「とてもよいヴァイオリニストだと思う」という答えが返ってきた。

・カントロフ指揮、シンフォニア・ヴァルソヴィア、ネマニャ・ラドゥロヴィチでヴィヴァルディの『四季』

 いやはや、ネマニャのすごいこと!プレコンサートのとき以上に、ものすごい。四季が四季に聞えない。もっともっと深く鋭く現代的な音楽に聞える。言葉をなくす。

・ピエール・アンタイ指揮、ル・コンセール・フランセの演奏で、管弦楽組曲の1番と2番。2番は兄さんのマルク・アンタイが加わった。これも見事な演奏。ナントでは、マナーの悪い聴衆にいらだったアンタイを聴いて、一本調子な印象を持ったが、今日はそんなことはない。しっかりと本質を捉え、じっくりと聞かせてくれた。ただ、ベルリン古楽アカデミーを聞くと、ちょっと物足りなく感じるのも事実だ。

・徳永二男のヴァイオリンで無伴奏ソナタ2番とパルティータ3番。私には練習不足に思えた。それともシゲティを模範としているのだろうか。私の趣味からすると、もっときれいな音で、余裕のあるテクニックで弾きこなしてほしい。

・有田正広のフラウト・トラヴェルソ、グラットンという20歳そこそこの若い女性のチェンバロでフルートとチェンバロのためのソナタ3番と1番、そして私の知らないチェンバロの曲。フラウト・トラヴェルソは音が小さいので、聴くのもくたびれる。もう少しチェンバロも音を加減するべきったのではないか。

・寺神戸亮のヴィオロンチェロ・ダ・スパッラで無伴奏チェロ組曲1番と3番。何はともあれ、初めてナマのヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ(いってみれば、肩掛けチェロ)を聴いた。不思議な音。懐かしい音といっていいかもしれない。雰囲気がある。寺神戸産の技術もしっかりしている。おもしろく聞いた。が、終わりになると、「やはり、チェロのほうがいいな」と思ってしまった。

・ヴァシリエヴァのチェロ、勅使川原三郎のダンスで、無伴奏チェロ組曲2番と5番。短調の曲の組み合わせ。若い女性であるヴァシリエヴァには、この2曲が続くのは重すぎたように思う。とりわけ5番は難しい曲だ。少し、もてあまし気味に思えた。勅使川原のダンスについては、はじめの10分くらいはおもしろいと思ってみていたが、それを過ぎたころから、「音楽だけのほうがいいな」と、万事に保守的な私は思い始めた。

・オーヴェンニュ室内管弦楽団、ベーク指揮。ヴィラ=ロボスのブラジル風バッハ9番とネマニャ・ラドゥロヴィチが加わって、ヴァイオリン協奏曲2番ホ長調と、最後に1番イ短調。

 あまりのすばらしさに言葉をなくした。凄いときのネマニャ! 息を呑むようなスリリングな展開。美しい音、激しい音。観客の心をひきつけて離さない。

 私がネマニャを「発見」したのは、一昨年のナントだった。まだ、日本人で彼について騒いでいる人はいなかった。多くの日本人にとってネマニャは未知の存在だった・

そんなとき、知り合いになったフランス人の女性ジャーナリストが、「さっき、凄いヴァイオリニストを聴いてきた。観客がみんな魅入られたように、虜になった。デモーニッシュな音楽だった。ぜひ、聴いてみてほしい」と教えてくれた。ナントのラ・フォル・ジュルネを取材していた日本人のグループにそれを話して、何人かで次のコンサートを聴きに行った。日本人全員がノックアウトされた! そこから、日本におけるラ・フォル・ジュルネにおけるネマニャ旋風が始まった! 私はネマニャの真価を日本に伝えた一人だと自負している!

 ネマニャとは何度かインタビューで顔を合わせた。「あなたの音楽は、対話だ。作曲家と対話し、観客と対話している。出来合いの音楽を演奏するのでなく、直接的に、私たちの心に訴えかけてくる」と彼に言ったら、とても喜んでくれた。が、その後、「あなたの音楽は、ロマン派や民族主義の音楽にはぴったりだろう。だが、ベートーヴェンやブラームスでも同じようにすばらしいのか疑問が残る」といったら、むっとした顔をされた。「だったら、来月にカーネギーホールでベートーヴェンを演奏するので、聴きにきてくれ」といわれた。

 ネマニャは凄い。シュポルツルも正統派ですばらしいが、やはりネマニャは凄い。

 そう思いつつ、寝ることにする。

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コメント

わくわくするようなご報告を、有難うございます~!!

私の「今日のネマニャ(笑)」は
AホールのViolin Concertのみでした。
昨日のシュポルツルのと聴き比べることができて、
嬉しかったです。
ネマニャは簡単に言うと音の強弱の差が大きいのですよね。
だから一層ドラマチックに聴こえるのだなぁと。好きだなぁ…。

そして、もう一度ネマニャの四季が聴きたいと思っていた所に
こちらのブログで絶賛されていて、地団駄を踏んでます。
チケットはもう手に入らないのかなぁ…。
もしくは、ナントのようにCD発売してくれないかなぁ…。

ネマニャに関しては、何というか、
ずっと演奏が忘れられなくて。今も音が頭の中で鳴っています。
これはもう、恋ですね、恋(笑)
実は母をムリヤリ連れて行ったのですが、母も素敵!を
連発してうっとりしてました。やはり恋(笑)

樋口さん、彼を日本に伝えて下さって有難うございます♪♪


ところで、シュポルツルへの意地悪?インタビューは
「ナイス!質問♪」と思っちゃいました。
やはり彼も小さめのホールの方が
自分に向いていると感じているのでしょうか?

そして、樋口さんのネマニャに対しての
辛口なご意見(彼がムッとしたという)について。
私は相手の人となりが垣間見えるようなインタビューが
大好きです。彼には絶対の自信があるのですね。
そんな受け答えをするんだ~と思ったら、
ますます興味が出てきました。

これからも他の方ができないようなインタビューを
期待しています!
もちろん明日の感想も楽しみにしています♪

投稿: あずみ | 2009年5月 4日 (月) 02時00分

あずみ様
コメントありがとうございます。
ホテルで、ラ・フォル・ジュルネ2日目に出かける準備をしている間にこの文を書きます。
 まだ昨晩のネマニャのコンチェルトが頭の中で鳴っています。おっしゃるとおり、振幅の大きな演奏ですね。でも、それだけならほかの人もやっているのですが、ネマニャには、誰にもまねのできない音程のよさとテクニック、そして豊かな情感があるから、「誇張」として聞えるのでなく、人の心をえぐるのだと思います。
残念ながらネマニャを連れてきたのは、私ではありません。あくまでもルネ・マルタンです。ただ、日本のラ・フォル・ジュルネのあちこちで彼が重用されているのには、私の功績も少しはあるかもしれません。ネマニャについて、そして今年はシュポルツルとフィリップ・ピエルロについて、機会あるごとに誉めまくりましたから。
実は、私自身が企画してネマニャのコンサートを開けないかと夢見ています。もしかすると可能かも・・・と思い始めているところです。
そろそろ準備をしなければなりません。では。

投稿: 樋口裕一 | 2009年5月 4日 (月) 08時34分

樋口先生

3日のレポートありがとうございます!!

私もネマニャの四季が忘れられず、ナントのようにCD化ないかな〜?
と思っているのですが、日本ではそういうのは行っておりません。という返答。
寂しい・・・ CD化して欲しい。
いや、やはり生でたっぷり聴きたいです。
樋口先生、企画よろしくお願いします!
彼は去年来日公演されていたのですね。次は前回より箱を大きくしてください! 私のような新参ものでもチケットが入手できるようにお願いします


投稿: しの | 2009年5月 4日 (月) 09時12分

しの様
そうですね。ナントのような、コンサートをそのままCDにして売り出してくれると他の新のですが・・・。著作権などの問題があるのでしょう。
ネマニャをもって世界に広めましょう! そうすれば、もっと聴く機会も広がると思います。

投稿: 樋口裕一 | 2009年5月 5日 (火) 00時48分

樋口先生、はじめまして。

ネマーニャの四季は昨年暮れに東京交響楽団で聴きました。
もちろんネマーニャがスゴイことはわかっていましたが、「四季じゃあとくにどうということもないだろう…」と思っていたのがとんでもなかった!
ネマーニャの四季は、これまで聴いたことのない音楽だったのです。

今回は通しで聴けて大満足。最初から最後まで、身震いしちゃいました。

ならば、小さいホールで堪能したいものです。

あー、それにしてもネマーニャ、カワイイっ!きゃあ〜〜〜!

投稿: oedipa(エディパ) | 2009年5月 5日 (火) 01時37分

エディバ様
私はネマニャの追っかけをしていながら(一度は西宮まで行きました!)、「四季」は時間が合わずに残念ながらいけませんでした。今回聴けて、うれしく思っています。
ほかの方のコメントの返事に書いたとおり、ネマニャのコンサートを自分で企画したいと画策しています。そのときにはぜひおいでください。

投稿: 樋口裕一 | 2009年5月 5日 (火) 08時39分

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