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ラ・フォル・ジュルネ最終日報告

 感動と疲労でいっぱいになって、ホテルに戻ってきた。今日は8つのコンサートを聴いた。実に充実していた。3日で25のコンサートを聴いたことになる。

最終日のコンサートの報告をメモする。同時に、多くの人が疑問に思っているであろうネマニャが4台のヴァイオリンに加わらなかった真相についても、私の知っている限り、報告する。

・ビオンディ指揮、エウローパ・ガランテでヴィヴァルディの『四季』。

 かつてイ・ムジチの人畜無害的な「四季」が全盛期だったころ、アーノンクール(当時、ハーノンコートと呼ばれていた)の演奏を聴いて度肝を抜かれた記憶がある。あれから30年近くたつ。もはや、疾風怒濤の「四季」のほうが当たり前になったようだ。

 見事な演奏。色が濃いとでも形容するか。音に、そして音楽に厚みがある。ただ、ビオンディを含めて、ガランティ(優雅)どころか、むさいおじさんたちだと思った。

・リチェルカール・コンソート、ピエルロの指揮でライケン、ブクステフーデ、ゴルトベルクの作品。バッハのヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタなど。これは文句なく凄い! ピエルロノヴィオラ・ダ・ガンバの力量たるや恐るべし。ライケン、ブクステフーデ、ゴルトベルクの曲も楽しめた。これまで、私はバッハ以降の音楽ばかり聴いてきたが、バロック音楽の世界に踏み出しそう・・・

・コルボ指揮、ローザンヌ声楽・器楽アンサンブルで、ミサ曲ト短調など。ヴェルメイユのソプラノ、その他。

 大変見事な演奏。ただ個人的には、リチェルカール・コンソートのほうが好きだ。

・ウェスペルウェイのチェロで無伴奏組曲3番4番

 ウェスペルウェイは、ナントでも評判だったので、聴いてみたが、ナントの演奏についてはまったくよくなかった。無理やりいじくり回している印象を受けた。自然な流れがなく、恣意的だった。が、CDはすばらしい。東京で聞きなおしてみようと思った。

 ナントがウソのようにすばらしい演奏だった。確かに、「草書体」のチェロだ。だが、ニュアンスがしっかりと示され、遊び心とメリハリの中に、まじめな精神がのぞく。自由に戯れているように見えて、要所要所でまじめになる。すばらしい演奏だった。昨日聴いた堤剛と正反対の演奏。これはこれですばらしい。

 ナントでひどく聞えたのは、遠くの席だったせいかもしれない。このニュアンスは、音質のよくないところで伝わらないと思った。

・ベルリン古楽アカデミーで管弦楽組曲2番4番

 スウィングするバッハ。まるで大学教授のようなまじめな顔をしたドイツ人たちが、身体を揺らしながら、実に勢いのある楽しい音楽を演奏してくれる。心の奥底から楽しくなる。ナントでも聴いたが、また味わいたくなった。バッハって、こんなだったかもしれない!と思う。本当に楽しい音楽だ。

・工藤重典のフルート、中野振一郎のチェンバロでフルートとオブリガート・チェンバロのためのソナタ1番・2番(偽作とされているもの)、フルートと通奏低音のためのソナタ第2番。

 ちょっと期待はずれ。工藤さんについては1970年代の聴いている錯覚を覚えた。センチメンタルで流麗なバッハ。中野さんは、妙に力が入って素直の音楽が流れないように、私には思える。ロマンティックに捉えすぎているのではないか。

 

・発表では、シュポルツル、ネマニャ・ラドゥロヴィチ、クラマジラン、南紫音のヴァイオリンでヴィヴァルディの4つのヴァイオリンのための協奏曲。次に、デゼールとケフェレク、ビジャーク姉妹で、それをバッハがチェンバロ用に編曲したものをピアノ版で演奏されることになっていた。伴奏は、カントロフ指揮のシンフォニア・ヴァルソヴィア。

ところが、オケとともにネマニャが現れて「四季」の中の「春」を演奏し始めたので、びっくり。もちろん、すでに何度か聞いたとおり、すさまじい演奏!

そして、4台のヴァイオリンに現れたのは、シュポルツルとクラマジランと南紫音と、シンフォニア・ヴァルソヴィアのコンサートマスター。見事な演奏だった。とりわけ、シュポルツルの音がすばらしい!

ピアノ版もおもしろかった。ただ、ピアノが4台で演奏されると、ピアノの音が多すぎてうるさい感じがする。何度も聴きたいとは思わなかった。

しかし、それにしても、何があったのか。なぜ、ネマニャは4台のヴァイオリンに加わらなかったのか。早速、関係者に探ってみた。

 私が耳にしたところによると、「ネマニャが間違えて、ほかのパートの練習をしてきていた。間に合わなかったので、弾きなれている『四季』を弾いてもらった」ということだった。

 もちろん、これをそのまま鵜呑みにできない。ネマニャほどのヴァイオリニストであれば、初見でヴィヴァルディくらい弾けるだろう。1時間か2時間もあれば完璧だろう。ヴァルソヴィアのコンサートマスターができたのだから、ネマニャにできないはずがない。これはネマニャの口実であって、ほかの3人とあわせられないと思ったのだろう。

 そりゃそうだと思う。ネマニャがあの感じで弾くと、ほかの人は困ってしまう。まず音が合わない。ネマニャの賢い選択だと思う。もしかしたら。マネージャーか誰かの入れ知恵かもしれないが。

・コルボ指揮、ローザンヌ声楽・器楽アンサンブルで、マタイ受難曲。

 最高の演奏だった。最高の音楽だった。まず『マタイ』という曲がすばらしい。3時間があっという間だった。コルボの指揮の、なんとやさしくやわらかいこと。祈りの心にあふれている。

 ナントのマタイは、独唱者がよくなくて、感動できなかった。コルボのマタイのCDも、私がベストの演奏に入れないのは、独唱陣があまりに弱いからだ。だが、日本でも公園はほとんど入れ替わっている。とりわけ、エヴァンゲリストとソプラノがすばらしい。ソプラノのアリア「愛のために」では涙が出てきた。

 よく調べていないが、アルトはナントと同じ歌手かもしれない。ナントでは、アルト歌手はほかの歌手に比べてよいほうだったが、今日は一番劣っていた。私は、「マタイ」で最も好きなのはアルトのいくつかのアリアなので、その点は残念。だが、それをのぞけば、本当に満足できた。

『マタイ受難曲』という、人類の宝を心行くまで味わうことができた。

 ともあれ、今年のラ・フォル・ジュルネは終わった。

 来年は、『ショパンとその周辺』というテーマだという。

 困った! 私はショパンはかなり苦手だ。嫌いということはないが、少しもおもしろいと思わない。20分も聞くと飽きてしまう。来年は、お休みということにするか。それとも、これを機会にショパンの勉強をするか・・・

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コメント

はじめまして。
私も最終日のヴィヴァルディで、最初に出てきたネマニャに「あれ?」と思った一人です。
確かに4人での合わせは難しいだろうな、と思います。
初日のドッペルコンチェルトでネマニャと合わせた渡辺さんがそうだったように、今回の4台のヴァイオリン~でも、引き込まれるようなダイナミクスのついた演奏を期待してしまったのですが。
ただ、前夜祭の時のネマニャとシュポルツルの演奏を聴いてしまうと、余りにカラーが違うので、共演がなくても仕方がないかな、と思います。
真相がどうであれ、特にLFJでは、リハーサルの時間も取り難いでしょうし・・・。

それにしても、ネマニャの音はすごいですね。
今回のLFJでは、彼の演奏をすべて聴いたのですが、あのスピードとダイナミクスが耳に残ってしまっていて、当分同じ曲をCDなどで聴けそうにありません。。。
彼の次回の来日を楽しみにしています(招聘先の日本交響楽協会が破産してしまって、次回の情報が全くなく・・・)。

投稿: カコ | 2009年5月 6日 (水) 09時06分

樋口先生 お疲れさまです。充実された3日間ですね。

自分、昨日は滑り込みで唯一チケの残っていたコルボ指揮のミサ曲を聴いてきました。
美しい音でした。ソロより合唱の方が私は好きでした。
次回はショパンということで、ショパンはピアノ曲しか知らないのですが、
何か別の作曲家でコルボ指揮のものがあれば、また聴きに行きたいと思いました。

4つのバイオリン、よかったです! シュポルツルさんの音は確かに今回の方が素敵でした。ネマニャさんがはずれたのは、リハして合わない!無理! と3人のうちのどなたかが言ったのかな〜なんて。。。思ってました。
周りとコミュニケーションを大事にするネマニャさんならまた違った感じになると思ってたので、ちょっと聴いてみたかったのが本音です。
でも再度「春」を聴けてよかったです。

4台のピアノは、ピアノ好きの私も次は聴かないと思いました。
2台までかな〜 と思いました。4台であればチェンバロにしてB7くらいの大きさで聴いたら、違った感想を持ったかもしれません。

今回自分思いましたが、Aホールの一番後ろで聴くと、クラッシック聴くには箱が大きすぎるな。と思いました。コルボさんのとプレナイトのは1Fの真ん中で聴いたので、ダイレクトに音に浸れたのですが、2Fの一番後ろだと、少しツライな〜と思いました。

投稿: しの | 2009年5月 6日 (水) 09時52分

LFJ、お疲れ様でした!
普段、ロックばかり聞いている私。
でも無料公演は、モーツァルトの頃から、
毎年1回は聴きに行っていました。
ホルンなどの金管楽器の音が好きだったのです。

それが今年は5つの有料公演を聴かせていただき、
とても充実したGWとなりました。

そして特にお気に入りになったのが
シュポルツルとネマニャ。
4台のヴァイオリンの件は前日にLFJのHPを見て知ったので、
お気楽にも「ネマニャの四季がまた聴ける~」と
喜んでしまいました。

ただ、実際に演奏を聴いてみると、
4人での共演にも興味が出てきまして…。

何故なら、周りと音を合わせる技術も、
プロなら必要なのではないのですか?
ネマニャが一人で浮いているようで、実は、悲しくなりました。
もちろん、こんなのは素人のたわごとですが…。

何はともあれ、今まで金管楽器が好きだった私に
ヴァイオリンという新しい「好き」をくれたLFJに感謝です。

そして、こちらのブログも「お気に入り」になりました♪
これからも楽しみにしています。

投稿: あずみ | 2009年5月 7日 (木) 00時27分

かこ様
私もネマニャを聞いて以来、ほかの演奏家が生ぬるく聞こえて仕方がありません。その意味で、まったく正反対のシュポルツルが新鮮でした。
そうなんです。日本交響楽協会が倒産して、ネマニャの日本公演が宙に浮いています。
何とか、今年の年末にまたネマニャを聴きたいものです。

投稿: 樋口裕一 | 2009年5月 8日 (金) 08時54分

あずみ様

演奏家には、人とあわせるのが得意な人と、そうでない人がいるんでしょうね。人間関係と同じように。それも個性と思うべきなのでしょう。
このブログでは、どうしてもクラシック音楽、とりわけオペラ、オーケストラ、弦楽器が中心になります。時々お寄りいただけると、うれしく思います。

投稿: 樋口裕一 | 2009年5月 8日 (金) 08時58分

私も今年のLFJの前夜祭でネマニャに初めてであってショックを受けた一人です。

最終日のネマニャの四季は始まる前に小さな掲示がありました。
理由の説明はないままで変更だけが書いてあるのでいったい彼らの間にどんなトラブルがあったのか、始まる前には
「いったいどうして・・・」
「いや、そのほうが双方にとってずっといい」
「ネマニャはふて腐ってないだろうか」・・・
と心配でなりませんでした。

幸いなことにその心配は杞憂でしたし、いつものように楽しそうに弾いたネマニャの後ということを考えればバイオリン協奏曲もなかなか良かったと思っています。

でも聞いてみたかったという気もします。

今回のLFJでネマニャに出会ったおかげでいまだに彼の「四季」が頭の中で鳴り響いてちょっと困っています。

また日本に来て弾いてくれるとどんなにうれしいか・・・


投稿: Cos | 2009年5月 9日 (土) 22時23分

Cos様
そうですか。ネマニャへの変更についての掲示があったのですか。気づきませんでした。
ラ・フォル・ジュルネのソムリエの何人かと一緒にいたのですが、彼らも知らなかったようで驚いていました。
私も、ネマニャの音にまだしびれたままです。あれを一度聴いてしまうと、ほかのすべてのヴァイオリンが物足りなくなってしまいますね。
(数学の先生なのですか? ブログを除いてみて、たじたじとなりました。数学は、高校のころ、本当に苦しめられました!)

投稿: 樋口裕一 | 2009年5月11日 (月) 00時26分

でも理由の説明が一切なかったのであれやこれやと憶測をしていました。
樋口先生のおかげで多少は事情がわかってちょっとほっとしました。
ありがとうございます。

(数学を教えていますが・・・音楽も美術も自然も数学もきれいなものが好きです)

投稿: Cos | 2009年5月11日 (月) 23時29分

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