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『マクベス夫人』は新国立の歴史上で最高!

 新国立劇場の『ムツェンスク郡のマクベス夫人』は、疲れが吹き飛ぶような鮮烈な舞台だった。昨年だったか、ヤンソンス指揮、マルティン・クシェイ演出の、エヴァ=マリア・ウェストブロックがカテリーナを歌ったアムステルダム音楽劇場のDVDを見て、そのすごさに圧倒されたが、それにも劣らない。

 96年、ゲルギエフが来日して、この『ムツェンスク郡のマクベス夫人』とその改訂版である『カテリーナ・イズマイロヴァ』(ソ連当局に激しく非難されて、ショスタコーヴィチは改訂した)の両方を上演し、私はその両方を見たが、それをしのぐ迫力の演奏だった。

 指揮のミハイル・シンケヴィチがいい。この指揮者については、これまでまったく知らなかった。鋭いながらも、力感があり、ぐいぐいと観客を引き込む。リチャード・ジョーンズの演出も素晴らしい。1960年代(ショスタコーヴィチが生きた時代)に移しての演出だが、違和感はない。ちゃんと服を着たままだが、エロス爆発。監視する他者の冷たい視線を象徴するかのような群集の使い方もおもしろい。人間同士の濃密な関係と、それに反するような無機質な存在(テレビ、ごみ)のコントラストも鋭い。

 歌手も脇役にいたるまで素晴らしいと思った。カテリーナを歌うステファニー・フリーデ、セルゲイを歌うヴィクトール・ルトシュク、そしてボリスを歌うワレリー・アレクセイエフの3人の外国人勢ももちろんさすが。内山信吾、高橋淳、出来田三智子、妻屋秀和、初鹿野剛、二階家洋介、森山京子がめだった。

 こんなに充実した上演は、めったにないのではないか。先日の『ワルキューレ』も良かったが、その比ではない。私は新国立劇場の熱心なファンではない(イタリアオペラはあまり見ないので)が、これは新国立市場に残る名演ではないか。私はずっとわくわくし、どきどきして、興奮しっぱなしだった。

 実は、このオペラ、私はかなり好きだ。73年の『カテリーナ・イズマイロヴァ』の二期会による日本初演も見ている。CDも何種類か持っている。こんな優れた上演が日本で見られるとは思っていなかった。

 それにしても、ほかのロシアオペラも上演してほしいものだ。ショスタコーヴィチの『鼻』も素晴らしいオペラだ。プロコフィエフも『戦争と平和』や『三つのオレンジへの恋』はもちろん、『炎の天使』や『賭博者』もおもしろい。これらを、今回のレベルで見られたら、どんなに幸せだろう。

 ラ・フォル・ジュルネといい、今回の『マクベス夫人』といい、この5月は音楽的に最高に充実している。

 落ち着いたら、お遊びで「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のベストテン・コンサートを決めたいと思っている。

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音楽」カテゴリの記事

コメント

初日に聴きました。
LFJの前夜祭の発表のあと、どうしようかかなり迷ったのですが、当初の予定どおり新国立劇場へ赴きました。
はじめて観たオペラでしたが、ショスタコーヴィチの音楽がこんなにすばらしいとは!とにかく音楽に没頭してしまいました。
歌ももちろんよかったです。とくにカテリーナがすばらしかったです。

今回は知らないオペラだったので、初めてオペラトークというものも聴きにいってみました。
シンケヴィチさんと亀山郁夫先生のお話もおもしろかったですが、カテリーナを歌った小濱妙美氏さん、ボリスの畠山茂さん、ボロの男の中嶋克彦さん、みなさんすばらしかったです。とくにボロの男の中嶋さんは今後注目したい人でした。
小濱さんもおみごと、亀山先生の「うーん、カテリーナですね〜!」という賞賛のお言葉に頷けました。
日本人キャストでの再演を期待しつつ!

長い前半に気合いを入れすぎて聴いてしまい、どっと一日の疲れが出たためか、一気に動から静に変化したような後半の演出は、ちょっと苦しかったです。なにもわかってないくせによく勝手なことを書く、とご批判いただけたらありがたいです。

投稿: エディパ | 2009年5月 8日 (金) 16時06分

私は10日(日)の公演をみました。面白かったですね! 息をのんで(?)舞台に見入りました。
たしかに「鼻」とか「三つのオレンジへの恋」、「賭博者」、「炎の天使」などもいいですね。こういう演目は、今回のように、海外の優れたプロダクションのレンタルがよいかもしれませんね。

投稿: Eno | 2009年5月11日 (月) 20時05分

エディパ様
私は、ショスタコーヴィチの交響曲のほとんどはおもしろいと思わないのですが、協奏曲と室内楽、そしてオペラは好きです。特にオペラは素晴らしいと思っています。
オペラトークというのがあるとは知りませんでした。
日本人キャストでの「マクベス夫人」、見てみたいですね。私は73年の「カテリーナ・イズマイロヴァ」初演も十分に感動して見ました。現在の日本オペラのレベルは格段に上がっていますので、見事な舞台を作り上げてくれると思います。
しかし、それにしても、エディパさんも、あちこちの音楽を聞かれているんですね。疲れは取れましたでしょうか。

投稿: 樋口裕一 | 2009年5月12日 (火) 09時23分

eno様
そうですか。レンタルだったんですか。知りませんでした。
実は、あらゆることについて、私は「事情通」ということからかけ離れた人間で、的外れなことを言って周囲を困らせています。
レンタルでいいので、ロシア物をもっと上演してほしいですね。
enoさんのブログ、何度か拝見しました。とても繊細で的確な音楽評に共感するところがたくさんあります。
 たとえば上岡さんについて。私は、ブルックナーの7番を聞いて、「この人では、二度とブルックナーを聞くのはやめよう!」と思いましたが、その理由は、考えてみれば、まさにenoさんの言われた上岡さんの新しい才能のゆえでした。

投稿: 樋口裕一 | 2009年5月12日 (火) 09時36分

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<英国ロイヤル・オペラ製作プロダクション> 2009年5月4日(月)14:00/新国立劇場 指揮/ミハイル・シンケヴィチ 東京交響楽団 新国立劇場合唱団 演出/リチャード・ジョーンズ 再演演出/エレイン・キッド 美術/ジョン・マクファーレン 照明/ミミ・ジョーダン・シェリン 衣裳/ニッキー・ギリブランド カテリーナ/ステファニー・フリーデ セルゲイ/ヴィクトール・ルトシュク ボリス&老いた囚人/ワレリー・アレクセイエフ ジノーヴィー/内山信吾 女囚ソニェートカ/森山京子 下女アクシーニャ/出来... [続きを読む]

受信: 2009年5月17日 (日) 13時14分

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