« ラザレフ指揮の日フィルのラヴェルは「笑える音楽」だった! | トップページ | 和紙のスピーカー?? (3日間を実録風に) »

シュヴァルツコップはモノラル時代が最高!

026  往年の大ソプラノ歌手シュヴァルツコップの10枚組みCD(DOCUMENTS)を見つけた。何と1790円! 一枚、179円! もしかしたら、非正規盤なのかもしれない。1940年代から50年代のモノラル時代の録音を集めたものだ。さっそく聴いてみたが、まさしく宝の山! 消費者としてはありがたいが、こんなに安くていいのだろうかと心配になってくる。

 私は、中学生のころからシュヴァルツコップのファンだった。周囲のみんながアイドル歌手に夢中になっているころ、私は母よりも年上のシュヴァルツコップに憧れ、ほとんど恋をしていた。写真を持ち歩き、レコードを見つけてはお金をためて買ったものだ。私はシュヴァルツコップの出演したレコードを求めるうちに、モーツァルトのオペラの世界を知り、リヒャルト・シュトラウスやバッハの森に入り込んだのだった。福岡と東京で2度聴いた彼女のリサイタルは私の記憶の中の宝物だ。

 そんなわけで、今回の10枚組みには、すでに聴いたことの録音も多い。カラヤン、フィルハーモニアと録音した『ばらの騎士』や『ナクソス島のアリアドネ』『こうもり』、アッカーマンと録音した『四つの最後の歌』などの圧倒的な名演も含まれる。「私の名はミミ」や「ある晴れた日に」は中学生のころ、17センチ盤のレコードで聴いた。彼女のレハールも絶品。が、初めて聴くものも多かった。

 同じ『フィガロの結婚』でもケルビーノを歌ったり、伯爵夫人を歌ったり、『ドン・ジョヴァンニ』では、ツェリーナを歌っている。ライヴ録音のヴォルフやシュトラウスやシューベルト、モーツァルトの歌曲も含まれる。マックス・レーガー、カール・レーヴェ、リヒャルト・トルンクなどの珍しい作曲家の歌曲も含まれる。そして、そのどれもが実にすばらしい。

 よく、「シュヴァルツコップは、発声法が古くて、現代では違和感がある」という人がいる。そして、確かに、現在耳にするシュヴァルツコップの歌には、発声に違和感を覚えるものが多い。とりわけ、クレンペラー指揮の『マタイ受難曲』の彼女は悲惨だと思う。

 だが、「発声法が古い」というのは間違いだと、私は断言する。彼女は、実はステレオ録音が始まるのとほぼ同時期に声を失ってしまったのだ。野球で言えば、肩を壊して技巧派投手になったわけだ。「発声が古い」と思われるのは、実は、失った声を補うための歌唱法、つまりは野球で言う不規則投法のせいなのだと私は思っている。

 シュヴァルツコップの真価を味わえるのは、実はモノラル録音の時代、つまり1950年代までだ。このころの発声法にはそれほどの違和感はない。音程が不安定で、音が揺れることが時々あるが、それは愛嬌ということで許してもらおう。歌の迫力、チャーミングさ、そして濃厚な味わいは、そのような欠点を補って余りある。そして、そうしたシュヴァルツコップの魅力をこの10枚組CDで存分に味わえる。

 仕事で忙しいので、1枚だけにしようと思って聴き始めた。私はめったにしないのだが、今回ばかりは仕事をしながらCDをかけた。が、つい10枚を聴いてしまった。そして、深い感動を覚えた。アリアドネの凄さ! モーツァルトの歌曲の美しさ! いや、すべてが素晴らしい!

 

418xaqqby5l  マリア・カラスのCDはたくさん発売されている。私も改めて聴いているが、確かに言葉を失うほどの感動を味わえる。とりわけ、『夢遊病の女』『清教徒』『ランメルモールのルチア』の凄絶でリアルでなまなましく、しかも高貴な歌に圧倒された。

 が、シュヴァルツコップも決してそれに劣らない。カラスほどなまなましくもリアルでもないが、それにも増して気品と知性に溢れている。

 シュヴァルツコップのCD全集をEMIは出してくれないだろうか! 何しろ彼女のご主人はかつてのEMIの大重役だったのだから、そのくらいの企画があってもよさそうな気がする。が、たぶん、そのためにはもっと多くの人がシュヴァルツコップを再評価する必要があるだろうけれど。

|

« ラザレフ指揮の日フィルのラヴェルは「笑える音楽」だった! | トップページ | 和紙のスピーカー?? (3日間を実録風に) »

音楽」カテゴリの記事

コメント

名古屋に住む中学生です。Rシュトラウスの歌曲を聴いて、震えるくらい感動いたしまして、シュヴァルツコップが好きになりました(夕映えが目に沁みて目頭が熱くなる、というような種の感動です)。
そこで、ご紹介の10枚組みBOXを購入したく、HMVなどのサイトを検索してみたのですが、私のつたない検索力では見つかりませんでした。
どこか購入できるサイトがありますならば、URLを教えて頂けませんでしょうか?
宜しくお願い申し上げます。

投稿: シュヴァルツコップのファンです。 | 2010年3月24日 (水) 13時34分

「シュヴァルツコップのファンです。」さん
中学生でシュヴァルツコップ・ファンですか! うれしいですね。私も、40年以上前、シュヴァルツコップに魂を奪われた中学生でした。
10枚組みのCDは、<MEMBRAN-DOCUMENTS>MEMBRAN 232762という番号がついています。タワーレコード新宿店で買いました。以下のURLを見てください。購入可能だと思います。以前は、タワーレコードにもこのCDが出ていたんですが・・・
http://blog.goo.ne.jp/goodies2/e/edb42fa82fe86a0bfe7309c2a0f3d315

投稿: 樋口裕一 | 2010年3月24日 (水) 23時15分

大変ご丁寧な御回答有難うございました。
親を拝み倒して、早速amazonにて注文させて頂きました。
10枚組とあれば、随分楽しめそうですねえ。
最近のCDの安さに驚きです。
このブログ、興味深いCDの紹介が多くあってとても勉強になります。これからも楽しませて頂きます♪

投稿: シュヴァルツコップのファン | 2010年3月25日 (木) 18時04分

「シュヴァルツコップのファン」様
お役に立てて何よりです。
若い人にシュヴァルツコップのファンが増えるのは、とてもうれしいことです。もし、まだ聴いていませんでしたら、是非『アリアドネ』全曲を聴いてみてください。彼女の最高傑作だと思っています。
よろしかったら、このブログも時々のぞいてください。

投稿: 樋口裕一 | 2010年3月28日 (日) 22時47分

樋口裕一様
大学生のころから50数年間シュヴァルツコップを聴き続けているクラシック愛好家です。彼女の歌手経歴の英語版を訳し自費で本にしました。もしご希望ならお送りいたしましょうか。

投稿: ksatojan | 2012年9月20日 (木) 15時03分

ksatojan様
コメント、ありがとうございます。
50年ですか! 私がはじめてシュヴァルツコップのレコードを聞いたのは、小学生のころ、おそらく1962年か63年です。カラヤン+フィルハーモニアの第九と、同じくカラヤン+フィルハーモニアの「おお、裏切りものよ」でした。本当にファンになったのは、中学3年生(1965年か66年)のころでした。たぶん、私はksatojan様よりも、少しだけ後からシュヴァルツコップのファンを始めたことになります。
御訳書、ぜひとも拝見したく存じます。よろしかったら、このブログにメールアドレス(一般には公開されないはずです)を示して、ご返事いただけますでしょうか。メールにて送り先をお知らせします。あまりお高くなければ、ぜひとも購入させていただきます。
よろしくお願いします。

投稿: 樋口裕一 | 2012年9月21日 (金) 00時18分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/532807/45273238

この記事へのトラックバック一覧です: シュヴァルツコップはモノラル時代が最高!:

« ラザレフ指揮の日フィルのラヴェルは「笑える音楽」だった! | トップページ | 和紙のスピーカー?? (3日間を実録風に) »