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ラザレフ指揮の日フィルのラヴェルは「笑える音楽」だった!

 日本フィルの主席指揮者になったラザレフの評判がいいので、サントリーホールに聴きにいった。曲目は、ラヴェルの『海上の小舟』『道化師の朝の歌』、ピアノ協奏曲ト長調、そして、後半にムソルグスキー作曲、ラヴェル編曲の『展覧会の絵』。私がこれまで聴いたことのあるラザレフの演奏は、『オルレアンの少女』と『ボリス・ゴドゥノフ』のDVDだけだ。フランス音楽とは無縁な感じがしたので、どんなラヴェルになるか楽しみだった。

 2曲目が始まった時点では、「こりゃダメだ!」と考えていた。フランス的な繊細さ、ラヴェル特有の典雅さ、高貴さがない。音はよく鳴り、ダイナミックだが、古典的な均整美がない。野暮ったく、熱情が空回りしている。まるでロシア音楽のようなラヴェル・・・。 だが、途中から、「これこそ、私の求めていたラヴェルではないか!」と思い始めた。

31l6ek1rjl  拙著『笑えるクラシック』(幻冬舎新書)の中で、ラヴェルは生真面目な作曲家ではなく、「人を食ったような作曲家」であり、代表作『ボレロ』はお笑いの曲だという私の持論を展開した。ラヴェルにユーモラスな曲はたくさんある。とりわけ、『ボレロ』は同じメロディ、同じリズムをずっと繰り返し、最後に最高潮に達してずっこける。まさしく笑い以外の何ものでもない(ついでにいうと、この本の中で、私はベートーヴェンの「第九」も実は笑える曲なのではないかという「新説」を展開している。そのほか、吹き出しそうになったり、にんまりしたりする曲を紹介している)。

 本を書いたとき、私は自説を裏付ける演奏があるはずだと思って『ボレロ』のCDを聴きまくった。ところが、残念ながら、私が耳にしたすべてのCDの演奏は、生真面目に演奏していた。精妙で高貴で、楽器のニュアンスを出そうとする演奏ばかりだった。

 ところが、今日聞いたラザレフ指揮の『道化師の朝の歌』は、まさしく笑える演奏だった! がに股っぽい恰好(ビートたけしや、かつて横浜ベイスターズにいた種田選手を思い起こさせる)で、時々観客席に顔を向け、まさしくコミカルな動きをする。(アンコールで演奏された『亡き王女のためのパヴァーヌ』の最後、音が鳴り止んだ後もずっと指を振動させていたが、あれも笑いのパフォーマンスを含んでいたのではないか!)

 音楽も実はかなり滑稽だ。戯画化された音楽といっていいかもしれない。大きな音で鳴り響くが、よく聞くと、決して思い入れたっぷりに歌っているのではない。どこか醒めたところがある。そして、『道化師の朝の歌』の最後、まさしく『ボレロ』の最後と同じような、ずっこけた音で終わった。

 後半の『展覧会の絵』も、同じ調子だった。大袈裟に、マンガっぽく絵画を描写していく。まさしくマンガを見るようで飽きない。だが、そうでありながら、「キエフの門」のあたりでは、戯画化されているがゆえの感動が高まってくる。

 日フィルのメンバーは、しっかりとラザレフの求める音を再現していたと思う。ただ、ピアノの小川典子さんについては、私は、細身で格調高く強靭なピアノの音が、ラザレフと音楽が合わないように感じた。小川さんは少なくとも人を食ったようなユーモアの音楽を作るつもりはないだろう。

 ラザレフはきっとラヴェルのユーモア精神を理解している人だと私は思う。事実、アンコールの後の動きもサービス精神に溢れている。

 この指揮者でほかの曲、たとえばユーモアのかけらもない曲も聴いてみたい。が、その前に、是非『ボレロ』を聴いてみたい。

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コメント

自分は金聖響氏の指揮しか見ていないので他の指揮者の方々との違いは分からないですけど、自分的には金氏の指揮は「音と共に一体化しているんだよ」というイメージが感じられました。
(舞台でいう主人公みたいな雰囲気)
まだまだ素人なもんでこの程度の感想しか言えませんけど・・・笑

投稿: T摩大学生徒 | 2009年6月 8日 (月) 00時33分

T摩大学生徒様
確かに、金聖響はそのタイプですね。ほかに、冷静にオケをコントロールするタイプ(ギーレン、ヴァント)、興奮しまくってオケを乗せようとするタイプ(バーンスタイン、コバケン、佐渡)、だんだん興奮してくるタイプ(ベーム、アバド、大野)、音楽の化身のように踊るタイプ(カルロス・クライバー)など、さまざまなタイプの指揮者がいますよね。演奏会で指揮者を見るのも面白いものです。

投稿: 樋口裕一 | 2009年6月 9日 (火) 08時34分

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