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『チェネレントラ』は、シリアスとコミックの融合の物語だ!

 新国立劇場6月14日のロッシーニ作曲のオペラ『チェネレントラ』(かつては『シンデレラ』と呼ばれることのほうが多かったと思うが、今は『チェネレントラ』と原題で呼ぶのがふつうになっている)を見てきた。

 イタリアオペラをほとんど聴かない私だが、実は中学生のころからずっとロッシーニだけは大好きだった。そもそも、最初にクラシックに触れたのが『ウィリアムテル』序曲だった。『セヴィリアの理髪師』の「私は町の何でも屋」が最初に好きになったオペラアリアだった。わくわくするようなクレシェンド、人生を知り尽くしながらも、楽天的に楽しんでいるかのような雰囲気がなんともいえない。ユーモアに溢れ、しかもさっぱりしている。ワンパターンで快楽的で楽天的なところもいい。

 オペラのほとんどがおもしろいが、14、5歳のころに作曲した弦楽ソナタも天才的だ。晩年の『スターバト・マーテル』や『小荘厳ミサ』もロッシーニの達した境地を示して素晴らしい。

 だから、十分に楽しめると思って足を運んだ。『チェネレントラ』の舞台は初めてだが、もちろん映像はいくつか見ている。どれも楽しかった。とはいえ、何しろシンデレラの話だ。他愛ないことこの上ない。しかも、指揮は無名のデイヴィッド・サイラス。それに、新演出ではなく、20年近く前に没したジャン・ピエール・ポネルの古典的な名演出そのまま使うらしい。だから、実は、それほど期待していたわけではない。

 ところが、序曲が終わり、オペラが進むにつれて、ぐいぐいと舞台に引き込まれる自分に気づいた。ドン・マニフィコを歌うデ・シモーネ、アリドーロを歌うクロイスベック、ダンディーニを歌うデ・カンディア、そしてチェネレントラの姉妹を歌う幸田浩子と清水華澄、いずれも実に芸達者。最高レベルで役柄を歌い、演じている(ただ、幸田さんは後半、ちょっと声がかすれてきたのが残念)。

 なんといってもチェネレントラを歌うカサロヴァとドン・ラミーロを歌うシラグーザが圧倒的。ずば抜けている。シラグーザのハイCの美声に酔い、カサロヴァの凄みさえある歌の力に陶酔した。

 私は、見ているうちに、これがシリアスとコミックの対立と融合の物語だと気づいた。このオペラは、チェネレントラとドン・カミーロというシリアスな二人に、ダンディーニやチェネレントラの義父や義理の姉妹など喜劇的な人々が介入してくるという構図になっている。二人の愛の歌に喜劇的な人物のコミカルなメロディが入り込んで邪魔をする箇所もいくつもある。つまり、シリアスと喜劇が対立し、からみあって話が進む。

 初めのうち、妙に重々しいカサロヴァのチェネレントラに違和感を覚えていたが、これはシリアスと喜劇の対立を明確にする演出だったのだろう。ずっとシリアスな世界を生きてきたチェネレントラは、最後、義父と義理の姉妹を許す。つまりは、シリアスと喜劇が融合する。最後のチェネレントラの壮大な歌は、まさしく両者の合体の歌だったのだ。カサロヴァの歌いっぷりも、まさしくシリアスと喜劇を織り交ぜにしたかのようだった! 

 シリアスとコミックの対立と融合。これこそがロッシーニの真骨頂といえるのではなかろうか。だからこそ、シリアスなドラマもコミックによって相対化され、恋にどっぷり浸かったメロドラマにはならない。私がロッシーニ好きなのも、そして、今日、私が最も感動したのも、その合体のゆえだった。

 ロッシーニ万歳と叫びたくなった。

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音楽」カテゴリの記事

コメント

僕が感動したのは「三大テノール」のドミンゴ、カレーラス、パヴァロッティが共演した、サッカーワールドカップの日韓大会で生で聞いた時です。
僕はサッカーが好きなのでサッカーを観戦しにスタジアムで見ていたのですが、サッカーより吸い込まれて見ていました。


オペラというのは僕にとって「人の視覚・聴覚を虜にする芸術家」と感じました。(何故オペラを「芸術」ではなく「芸術家」と譬えたのは、虜にするのは『演者の誰か』と限定するのではなく、オペラ全てが我々を虜にすると思ったからです。)

投稿: T摩大学生徒 | 2009年6月15日 (月) 02時32分

私も同じ日の公演をみました。大詰め近くで、王子の教師アリドーロが、「神よ、善意が傲慢に勝って、私は満足です。もうなにも望むものはありません」という場面で、素直に感動してしまいました。その裏には、現実世界はそうではない、というシビアな認識があるわけで、せめてオペラの中では夢をみたいというだと思いました。

投稿: Eno | 2009年6月17日 (水) 23時32分

T摩大学生徒様
ナマで三大テノールを聴いたというのはすごい!
ただ、サッカー場では、ナマでもマイクを通しているので、本物の舞台で見るともっとものすごいことがわかると思います。新国立劇場でナマのオペラを味わってみてください。最大テノールでなくても、驚くと思います。

投稿: 樋口裕一 | 2009年6月18日 (木) 08時15分

Eno様
コメント、ありがとうございます。
ブログ、拝見しました。「チェネレントラ」についての感想、とても納得のいくものでした。ポネルの演出、おっしゃるとおり、本当に音楽と一体化していましたね。いまさらいうまでもないことかもしれませんが、やはりポネルはすごい!と改めて思いました。そして、おっしゃるとおり、アドリーロも感動的でした。今回見て、アドリーロの存在意義がよくわかりました。

投稿: 樋口裕一 | 2009年6月18日 (木) 08時19分

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