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美しすぎる女狐  二つのオペラDVDについて

 原稿を書いたり、多摩大コミュニティ・カレッジ関係の仕事で忙しく、しばらくオペラのDVDをみる余裕がなかった。久しぶりに2本見たので、紹介する。

904  1本目は、サヴァリッシュ指揮、ヴァーツラフ・カシュリーク演出、バイエルン国立歌劇場の『さまよえるオランダ人』。ドナルド・マッキンタイアのオランダ人、カタリナ・リゲンツァのゼンタ。サヴァリッシュの『オランダ人』。74年の映像だが、今回、初めての発売だと思う。

 歌手たちは全員がかなりのレベル。マッキンタイアもリゲンツァも、圧倒的と言うほどではないが、十分に感銘を与える。ルンドグレンのダーラント、ヘルマン・ヴィンクラーのエリックも悪くない。ただ、歌手に関しては、サヴァリッシュの1991年のLD(オランダ人がロバート・ヘル、ゼンタはユリア・ヴァラディ)のほうがよかったように思う。が、指揮は今回見た74年のほうがよいのではないか。

 LDをみたとき、指揮に不満を覚えた記憶があるが、今回は何よりも指揮の歯切れのよさ、しっかりした構成に感銘を受けた。ぐいぐいと聞くものをひきつけて、見事なドラマを作っていく。最後は、息を呑んで見た。

 最後に「救い」が現れないヴァージョン。だが、演出的には、今からみると、それほど突出したものはない。ダーラントをあまりに俗物に描いている。作品自体、確かにそんな面があるとはいえ、少しやりすぎではないかと思った。

 

637  もう一本は、パリ、バスティーユ・オペラでのヤナーチェク『利口な女狐の物語』。デニス・ラッセル・デーヴィスの指揮、アンドレ・エンゲルの演出。森番の役はユッカ・ラジライネン、女狐ビストロウシカはエレナ・ツァラゴワ。

 

 実は私は大のヤナーチェク・ファンだ。昨年、ヤナーチェクの生まれたチェコのフクバルディという寒村までわざわざ出かけたほど。タワーレコードでのこのDVDを見つけて、あわてて買ってきた。

 全体的にはかなりのレベルだと思う。何よりも演出がおしゃれ。ひまわりが主要なテーマとしてしばしば現れる。空に漂う風船もしばしば現れるが、魂の自由、自然の浮遊を象徴しているのか。何しろ、いかにもフランスの舞台らしく、色彩が素晴らしい。

 演出上で特徴的なのは、三つの幕を通して現れる線路。動物や虫に扮装した歌手たちが歌うオペラだけに、線路という近代的でリアルな道具立てに少し違和感を覚えるが、ヤナーチェクがこれを作曲した時代、もちろん列車が通っていた。だから、列車を出してくるのは、アナクロニズムではない。それに、線路を出すことによって、このオペラが「おとぎばなし」ではないことを強調する形になっている。

 ただ、私はこのような演出はむしろ失敗だと思う。

 ヤナーチェクのオペラがしばしばそうであるように、このオペラには、わかりにくさがつきまとう。とりわけ第二幕が意味不明。台本のわかりにくさと音楽の独特さが不思議な魅力を出しているのも事実だが、台本の出来がよくないとはっきり言っても間違いではないだろう。

 だから、このわかりにくいオペラをリアルに演出すると、いっそうわかりにくさが目立ってしまう。おとぎ話として演出すれば、少々わかりにくくても、気にならない。私は、むしろ徹底的におとぎ話として演出するべきだったと思う。

 歌手および指揮、オーケストラについてはまずまず。女狐ビストロウシカを歌うエレナ・ツァラゴワは、歌も悪くはないが、美しすぎる! こんなに美しい必要はないと思う。この歌手に限らず、全員の容姿が素晴らしい。が、その分、私は歌唱の面でやや劣るのを感じる。あまりに体型に問題があるのは困るが、モデルさんみたいに美しくなくてもいい。もっと迫力ある歌唱のできる歌手がいたのではないかと思えてしまう。

 指揮も、ややメリハリに欠けるし、オケがばらついているのを感じる。この映像はヤナーチェク好きの私を満足させるには至らなかった。10年ほど前のパリ、シャトレ座でのマッケラス指揮のDVDのほうが演奏、演出ともにずっとよかった。

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