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ガッティってこんなもの? ミラノ・スカラ座『ドン・カルロ』感想

 9月8日、午前中は目黒区の東根小学校に行き、PTAの方々(99パーセントが小学生のお母様がた)を前に講演。会が始まって以来の大盛況ということで、120人を超す方に集まっていただいた。とても気持ちよく『知的な子どもに育てる親の話し方』について話を出来た。ワークショップとして、「継ぎ足し話」をお母さんたちにやってもらった。とても楽しくおもしろかった。きっと皆さんに喜んでいただけたと思う。

 

 一休みして、東京文化会館に行き、ミラノ・スカラ座の『ドン・カルロ』初日を東京文化会館で見た。

 指揮はダニエレ・ガッティ。演出はシュテファン・ブラウンシュヴァイク。私はあまりイタリアオペラを見ない。だから、今回のもう一つのプログラム『アイーダ』も行かない。ただ、シラー原作の『ドン・カルロ』は台本もしっかりしている。ヴェルディの中ではもっとも私の好きなオペラだ。そんなわけで、足を運んだ。

 全体的には、とてもよかった。

 圧倒的に素晴らしかったのは、フィリッポ二世を歌うルネ・パーペ。初めから素晴らしかったが、とりわけ第三幕の「彼女は私を愛していない」は最高。私の好きな歌だが、しんみりと、しかし実にドラマティックに歌ってくれた。エリザベッタを歌うバルバラ・フリットリも見事。第一幕はもう一つ精彩を欠く感じがしたが、第四幕は美しい声と繊細な歌いまわしに圧倒された。ちょっとした声の表情で聴くものをぞっとさせる。

 宗教裁判長がライミーではなくアナトーリ・コチェルガだったが、悪くはなかった。が、ライミーだったら、きっともっとよかったのだろう。ロドリーゴのダリボール・イェニスもなかなかの出来。

 ただ、初めて実演を見るドン・カルロ役のラモン・ヴァルガスがどれほど素晴らしい声を披露してくれるかと期待していたが、それほどでもなかった。期待はずれ。これでは、並みの歌手だ。これが実力のはずはないので、調子が悪かったのだろう。

 エボリ公女のドローラ・ザージックには力不足を感じた。「悪漢好き」の私としては、エボリの役が大好きなのだが、歌手は必死に迫力を出そうとしているわりに、それが伝わってこない。声楽的な裏づけがないと、どれほど迫力を出そうとしても出ないのだろう。

 演出はおもしろかった。今回は全4幕の版で、5幕版の第一幕にあたるフォンテヌブローの場面がカットされている。その部分を補うような内容が背景部分で黙劇で演じられたり、ドン・カルロとエリザベッタとロドリーゴの心を表現するのに、少年時代の様子が描かれるなど、ちょっと説明的すぎると思ったが、ともかくわかりやすかった。しかも、視覚的に実に美しい。

 実は私が最も気に入らなかったのは、ガッティの指揮だ。だんだん上り調子になったとはいえ、第一幕はおそるおそる音楽を進めている感じ。まるで、顔合わせをしたばかりのオケと初めてリハーサルをしているかのようだ。一つ一つの音が決まらないし、ドラマが出来ない。のっぺりしていて感情の起伏がない。

 手塚治虫以後の日本の漫画を見慣れた人間(私は、少年サンデー、少年マガジンを創刊号から読んで育った人間だ!)からすると、『スーパーマン』や『スパイダーマン』などの欧米の漫画は動きがなく、盛り上がりがなくて見るに耐えないが、ガッティの指揮に関して、それと似た印象を持った。

 ガッティはスカラ座で仕事をしているし、私はバイロイトで『パルジファル』を見て、特に悪かったという記憶はない(ただ、バイロイトでは、しばしば演出に気をとられて、音楽に耳がいかないことが往々にしてある!)のだが、一体どうしたことだろう。それとも、イタリアオペラをあまり聴きなれない私が、まるでドイツオペラのような役割を指揮に期待しすぎているのだろうか、あるいは、初日はこんなもので、回を重ねるにつれて素晴らしくなるのか・・・

 歌手陣に関しては総じて満足しながらも、指揮に対して不燃焼のまま深夜、家に帰った。

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コメント

樋口先生、8日はありがとうございました。
たくさんのお母さんたちが
大盛況だったね、良かったよ!と言ってくれました。
どうしてあんな著名な人が来てくれたの?と聞かれたので、
先生のお話にあったとおり少し自慢して話してみました。
すごいでしょ!って。


先生のお話を聞いて、反省する点は3つありました。

第一に自分の言葉遣い。
だれに対しても同じ調子なので、
丁寧な言葉づかいや敬語を上手に使えるならなくては!と思いました。
先生と話した言葉を思い返しても、
あ~失敗したなぁと思うことがいっぱいです。
失礼いたしました。

第二にいつも皮肉っぽい言い方をしているということ。
ついつい皮肉まじりで子どもをしかっている気がして、
注意しようを思いました。

第三に書くことをあまり重視していなかったこと。
うちの子たちに発信力がないのはそのせいでしょうか。
発信したくなる状況を作ってあげなくては、と思いました。


テレビで見た先生や
HPのお写真より
実際の先生はなんとも言えずいい雰囲気でした。
頼りにしたくなるような感じでした。
だから、母たちはみな真剣に聞いたのかもしれません!?

電車だと来づらい場所へ朝早くから来ていただき、
本当にありがとうございました。


投稿: 天才!? | 2009年9月10日 (木) 00時40分

天才!?様
コメント、ありがとうございます。
おかげさまで、東根小学校では、充実した気持ちで話ができました。聞いてくださった方に私の話がご自分の行動を振り返る契機になれば、こんなうれしいことはありません。そして、このような感想を寄せていただくと、いっそう嬉しさを感じます。また、私自身も、話をすることによって、自分を振り返る契機になっています。
樋口裕一

投稿: 樋口裕一 | 2009年9月11日 (金) 18時12分

樋口先生、東根小学校に来ていただき、ありがとうございました。とても楽しい内容あるお話に、お母さん方の笑いの絶えない、とても素敵な講演でした。
その中で、私は「継ぎ足し話」の見本の「着地」を担当しました。最初は、人の考えた話に継ぎ足して、行くのは、予想もつかない展開になり、難しかったです。お母さん方も突然のお題に想像力を働かすこともできず、とまどっていましたね。しかしこつがあったんですね。あのとまどいが嘘のように、物語がすらすらと作れ始めたのには驚きました。また、他の人の作った物語を聞いて感心もしました。
家に帰って早速小2の娘としたのですが、卵からとっても小さい
うさぎが出てきて、という展開に笑ってしまいました。
まさに型にとらわれない話( ´艸`)プププ
家庭で出来る知的な親子のコミュニケーションをすすめていきたいと思います。
最後に近くで樋口先生の優しいお顔を拝見できて、とても嬉しかったです。またお会いする機会があったら嬉しく思います。

投稿: | 2009年9月12日 (土) 17時19分

匿名の方へ
コメントありがとうございます。
当日は突然、題を与えられ皆さんの前に出て話をすることになって、戸惑われたかもしれません。
ご家庭で「継ぎ足し話」を実行なさって、うまく行ったとのこと、私としてもとても嬉しく思います。
子どもの想像力は親を超えています。が、想像力を発揮する場を与えないと、しぼんでしまうものだと思います。思いっきり想像させ、同時に、それを言葉でうまく表現する楽しさを味わわせてあげてください。それこそが知性であり、国語力だと思っています。
ともあれ、東根小学校で楽しく話をさせていただきありがとうございました。

投稿: 樋口裕一 | 2009年9月13日 (日) 18時10分

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