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新国立『ヴォツェック』演出は、あまりに陳腐!

 今日(1118日)、新国立劇場の『ヴォツェック』を見てきた。指揮はハルトムート・ヘンヒェン、演出はアンドレアス・クリーゲンブルク。東京フィルハーモニー交響楽団。私は、かなり怒っている!

 演奏に関しては、悪くないと思った。かなりのレベルでそろっていたと思う。ヴォツェックを歌うトーマス・ヨハネス・マイヤー、マリーのウルズラ・ヘッセ・フォン・デン・シュタイネン、鼓手長のエンドリック・ヴォトリッヒ、アンドレスの高野二郎、大尉のフォルカー・フォーゲル、医者の妻屋秀和ら、いずれもしっかりしている。ずば抜けてすばらしいということはないが、しっかりと歌い、しっかりと演じている。今回の公演では、歌手がもっとも充実していると思った。ただ、演出に目を奪われて、しっかりと歌に集中できなかったのが残念。

 指揮に関しては、私はもっと感動すると思っていたのだが、期待ほどではなかった。鋭利に切り込みたいのか、ロマンティックな要素を強調したいのか、それをどう調和させたいのかはっきりしない。私が期待していた魂を震撼させるような鋭利で強烈な音はまったく聞こえなかった。東京フィルも、取り立ててミスはなかったと思うが、聴衆を熱狂させるには至らなかった。が、これは、何度目かの上演ではもっと慣れてきて、もっと鋭い音が出てくるのかもしれない。

 問題は演出だ。

 カーテンコールに演出家たちが登場すると、一部から激しいブーイングが起こった。私は、ブーイングに値しないと思った。ブーイングというのは、斬新すぎる演出に対してするものだ。今回の演出については、失笑するしかないと思った。

 斬新な演出けっこう。原作の中にある要素を鋭く読み取ってそれを形象化するのであれば、是非してほしい。だが、自分では新しいと考えて、原作にないものを作り出すのは、陳腐としか言いようがないと私は思う。

 今回の演出では、最初から最後まで、ヴォツェックとマリーの子が舞台上にいて、ずっと小芝居をしている。もちろん、原作では、ほんの少し登場するだけの人物だ。壁に字を書いたり、母親に歯向かったり。どうやら、この子どもはお父さん子で、父親になつき、母親を嫌っているらしい。母親に向って、ドイツ語で「売女」と壁に落書きしたりする。

 そもそも、演出において登場人物に文字を書かせるというのは、演出家の能力不足を自ら示しているに過ぎないと私は思う。

 そもそも、子どもが母親を憎んでいるという要素はビュヒナーにも、ベルクにも現れないはずだ。しかも、このような設定にしたために、最後の、母親の死を知らされても幼すぎてそれがわからずに、お馬ごっこをしているシーンが意味不明になってしまっている。

 このような演出が許されるのであれば、たとえば、二人の間の子どもが虐待されているというストーリーも、あるいは逆に、貧しいにもかかわらず過保護に育てられているというストーリーも作れるだろう。何でもありになってしまい、演出家が勝手に自分のストーリーを作れることになってしまう。

 この種の演出が最近増えているようだ。一昨年のバイロイト音楽祭の『パルジファル』も同じ傾向だった。ワーグナーの音楽と歌に乗せて、原作とはまったく異なる物語をパントマイムでやっているような舞台だった。これが許されるのなら、たとえば、『パルジファル』の音楽を使って、たとえば『源氏物語』のストーリーを描くことだって可能だろう。

 

 子どもが出ずっぱりであることと、もうひとつ、最初から最後まで舞台に水が張られているのも、今回の演出の特徴だ。登場人物は、みんな水の上をチャポチャポいわせながら歩く。しかも、そこに黒服の貧しい男たちが集まっている。これにもどんな意味があるのか。

 大量の水を使い、設備に莫大な金を使い、登場人物に大変な思いをさせているわりには、ほとんど何の益もないように見える。

 こんな陳腐な思いつき演出ではなく、もっと本当に斬新な演出はできないものか。お金と労力をこれほどかけずに、もっと刺激的でもっと考えさせられる演出をする才能ある演出家は、ほかにもたくさんいると思うが。

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