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ワイダ映画を続けて見た

 岩波ホールで見た『カティンの森』があまりに衝撃的だった上、ちょうどNHK-BSでもワイダの映画が特集されていたので、それを機会にワイダ作品をVHSなどで買い求め、ここ数日、一本ずつ見ていた。しばらく前に、『夜の終わりに』と『悪霊』の感想は書いたので、それ以外のものについての短い感想を、見た順に書き付ける。

・『約束の土地』・・・かつて、パリに行った折、フランス語字幕で見た記憶がある。資本主義の勃興期、仲良し三人組のポーランド貴族とドイツ人とユダヤ人が共同経営の工場を作ろうとし、労働者を抑圧し、ついには主人公の不倫のため、嫉妬した夫に工場を燃やされてしまうまでの物語。ポーランドの歴史、資本主義の状況、人間の性(さが)を描いて、実に感動的。役者がみんないい。まるで、当時がそのまま再現されたかのよう。

・『鷲の指輪』・・・初めて見た。第二次大戦の末期、それまで共同してドイツと戦っていたポーランドは共産党系のソ連派と、それに反対する勢力(ロンドン亡命政権の指揮下にある勢力)が、争いをはじめた。その時代の反ソ連の主人公を描いている。主人公はソ連派の中に入り込み、スパイとして行動するが、結果的に仲間を裏切る形になる。東欧革命後の作品だが、もちろん、それ以前には作れなかっただろう。もちろん、大まかなところはわかるが、正直言って、細かいところで映像や会話が何を言おうとしているのか判然としなかった。軍服や国旗を見ても、言葉を聞いてもどこの兵士なのかよくわからず、ポーランドの歴史状況をよく知らないのが辛い。しかも、情けないことに、同じような軍服を着た西洋人の顔は区別がつかない・・・

・『聖週間』・・・昔見た記憶がある。が、うっすらとしか覚えていなかった。第二次大戦中、ナチスによってワルシャワのゲットーに集められたユダヤ人が蜂起した前後、ユダヤ人であることを隠して逃げる女性が、かつての恋人の家庭にかくまわれるが、最後には、正体を知られて家を去る。かつての恋人には妻がいるが、その女性もユダヤ女性に同情し、抵抗運動をする夫の弟にも恋心のようなもの抱いて、積極的にかくまう。夫も殺される。悲惨な映画。当時のポーランド人の置かれた状況、悲惨な状況がよくわかる。あまりに辛くて、途中、何度も見るのを中断したが、とてもよい映画だった。

・『コルチャック先生』・・・ユダヤの孤児院を率いた有名なユダヤ人医師の物語。一人で逃亡することを拒んで、子どもたちとともに強制収容所に入っていく。有名な映画だが、この種の人道的な映画は好きではないので、これまで見なかった。だが、もちろん、ワイダ作品だけに、演出力は抜群。コルチャック先生を理想的な人物としては描かず、生きた人間として描いている。子どもたちの描き方も見事。ユダヤ人の誇り高さ、寛大さが伝わってくる。後半は息を呑む場面の連続だ。

・『灰とダイヤモンド』・・・ここに挙げたワイダ作品はいずれも見事だが、これはとりわけ圧倒的。これを見るのは、たぶん5回目くらいだが、改めて深く感動した。まさしく不朽の名作。これまで私の見た古今東西のすべての映画の中で、これは間違いなくベスト5に入る。

 ベルリンが降伏し、第二次大戦が終結した日の物語だ。平気で人を殺していた反ソ連派のマチェクは、恋をし、生と死について考え、人を殺すことをためらうようになる。そして、最後の暗殺を成功させたあと、兵士に打たれて死ぬ。戦争、とりわけワルシャワ蜂起によって死を間近に見て生きてきた若者の生と死へ意識、心に負った深い傷、やり直したいという希望、実はともに苦しみ、ともにポーランドを支えたいと望んでいる暗殺者と暗殺される人間、反ソ連派が狂った音で鳴らすショパンの「軍隊ポロネーズ」に象徴されるような前途多難。あらゆるものが映画の中にこめられている。

 主人公マチェクの死にざまは本当に素晴らしい。チブルスキーという名前の役者で、事故死したのだったと思うが、惜しいことをしたものだ。ヒロインも清楚で実に美しい。

 以前、アンジェイエフスキーの原作を読んだが、それでもまだよくわからないところがある。背景に何度か映る兵士は、どこの軍隊なのだろう。ソ連軍? それともポーランド軍? 何をしているんだろう。『鷲の指輪』でもそうだったが、その種のことがよくわからない。わからないまま、ともあれ感動した。

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コメント

私も昔「コルチャック先生」をみました。最後に草原で軍用列車が止まり、子どもたちが一斉に外に飛び出していく場面を思い出すと、今でも胸が熱くなります。
「カティンの森」のトラックバックをお送りしましたので、ご了解いただければ幸いです。

投稿: Eno | 2009年12月31日 (木) 20時31分

Eno様
時々、ブログを拝見させていただいています。どうも関心が重なるようですので、教えられるところがたくさんあります。私のいけなかったコンサートも、とてもおもしろく読ませていただいています。
「コルチャック先生」の最後、感動的ですね。収容所に到着するシーンではなく、あのようなシーンにしたことに、ワイダの思いを感じます。
「カティンの森」、おっしゃるとおり、ウソを通していく戦後の社会状況を実に鋭く描いていましたね。実は私も、映画を見た後、ペンデレツキのルカ受難曲のCDを引っ張り出して聞き返し、「ポーランド・レくエム」は持っていないので購入して聴きました。

投稿: 樋口裕一 | 2010年1月 1日 (金) 09時18分

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» カティンの森 [Enoの音楽日記]
 ポーランドのアンジェイ・ワイダ監督の映画「カティンの森」をみた。これは第2次世界大戦中の実話にもとづくフィクションだが、当時のポーランド社会の現実が色濃く反映されていると思われた。  「カティンの森」事件は多くの方がご存知のことと思うが、要約しておくと、1939年に西はナチス・ドイツから、東はソ連から侵攻されたポーランドで起きた、ソ連によるポーランド将校の大量虐殺事件。事件は1940年4月に起きたが、東進したドイツが1943年に大量の遺体を発見して、ソ連の犯行と宣伝。その後ソ連がナチス・ドイツの... [続きを読む]

受信: 2009年12月31日 (木) 20時21分

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