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NHK放送のマッティラの『サロメ』と『ドクター・アトミック』

 NHK-BSで放送されたメトロポリタン歌劇場の『サロメ』を見た。2008年の公演。指揮はパトリック・サマーズ、演出はユルゲン・フリム。が、何と言っても凄まじかったのが、サロメを歌ったカリタ・マッティラ。

『サロメ』は大好きなオペラで、おそらく発売されているすべてのCD、すべての映像を持っている。DVDで見たナディア・ミヒャエルもすごいと思ったが、マッティラはもっとすごい。もちろん、容姿はミヒャエルのほうがずっとサロメらしいが、声の威力という点では比較にならないほど。線の細いミヒャエルに対して、マッティラはまさしくワーグナーを歌える声で最後まで完璧に歌いまくる。

 最後の15分間の凄まじさは歴史に残るレベル。15歳の少女には見えないが、演技も見事。踊りについてはかなり問題があるが、そのあたりは目をつむるしかない。

 ヨカナーンを歌ったユーハ・ウーシタロは、容姿はヨカナーンに程遠いが歌は悪くない。ヘロディアスを歌ったイルディコ・コムロージは容姿はよいが、声に迫力が不足。ヘロデのキム・ベグリーは上品すぎる。もっとぎらぎらした下品さがほしい。ほとんどの歌手は悪くないが、マッティラの前で影が薄くなってしまう。

 演出も指揮も、きわめて散文的。ここ1年、DVDで見たハーディングやフィリップ・ジョルダンの指揮に比べると、なまなましさが不足。

 マッティラを使って、別の指揮、別の演出、別のオケで『サロメ』の映像を残してほしいと思った。

 ジョン・アダムスという現代作曲家のオペラ『ドクター・アトミック』もNHKで放送されたが、これも素晴らしい。台本はペーター・セラーズ。アラン・ギルバート指揮。

 原爆を開発したオッペンハイマー博士が主人公で、マンハッタン計画の実験までを描く。生真面目で愛を知るふつうの人たちが国家のために必死に活動して原爆を作ってしまう。が、大量殺戮を考え始め、悩み始める。だが、取り返しがつかない。そして、世界で初めての核実験が始まる。そして暗転。悲惨なヒロシマとナガサキがほのめかされて幕は下りる。全編にわたって緊迫感あふれる音楽によって描かれる。

 科学者たちが壁いっぱいに並んで歌うなどのペニー・ウールコックによる演出も見事。オッペンハイマーを歌うジェラルド・フィンリー も妻のキティを歌うサーシャ・クックも、まるで映画の中の登場人物のよう。歌も見事だった。

 それにしても、なんと感動的であることか。しっかりと政治問題を扱って、これほど感動的なオペラに仕上げるとは! ヒロシマを暗示する最後の「水をください」という女性の語る日本語が感動的。平板に語られるがゆえに、いっそうずしんと来る。これは間違いなく歴史に残るオペラだと思う。ジョン・アダムスは大作曲家だ!!

 ぜひとも、実演を見たい! きっとものすごいだろう!

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