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ヴァレンシアの『ラインの黄金』と『ワルキューレ』は最高!

 スペインのヴァレンシア州立歌劇場による『ラインの黄金』と『ワルキューレ』映像を見た。しばらく前のクラシカ・ジャパンの放送を録画したもの。ヴァレンシア・リングとして話題になっている公演だ。

『ニーベルンクの指環』4作がDVDになって発売されると聞いていたので、4作がそろってから続けてみようと思って、これまで見ないままになっていた。知人に薦められて見てみた。『ラインの黄金』と『ワルキューレ』のDVDはすでに発売されているが、『ジークフリート』と『神々の黄昏』は3月になっての発売だという。4作そろったところで購入予定。今は、放送の録画で我慢している。

 しかし、それにしても、凄まじい上演!! 私がこれまで見た『ラインの黄金』と『ワルキューレ』の映像の中では、最高だ。

 まず、カルルス・パドリッサの演出、ローラント・オルベターの装置が画期的!! CGと言うべきなのか、ヴァーチャル映像を駆使して、まさしく神話世界を背景に作り出している。地球が現れたり、地底が現れたり。しかも、神々や巨人たちが、クレーンに吊り下げられたり、大きな機械の上に載ったりして、まさしく宇宙を飛んでいるようにみせている。ハリウッド映画顔負けの大スペクタクル! しかし、それが決して卑俗ではない。

 音楽を聴き、台詞を読んで頭に浮かぶ情景を実に的確に形にして見せてくれる。第二場から第三場、つまりヴォータンの世界から地底世界への移動は、天上から地底にもぐる様子が映像で再現される。そして、しばしば音楽から得られる感覚そのものが映像にされる。演出を見ているだけで感動してしまう。それだけの力を持っている。

 機械を操る男たちが画面に映るが、浄瑠璃の黒衣のようなものだと考えれば、それほど気にならない。よくもこれほど複雑な動きを機械と背景の映像で出来るものだ。

 演奏も素晴らしい。メータのダイナミックな指揮が、実にいい。歌手もそろっている。 ヴォータンを歌うユハ・ウーシタロ、フリッカを歌うアンナ・ラーション、ファーゾルトのマッティ・サルミネン(まったく衰えていない!!)はじめ、すべての歌手がそろっている。ぐんぐんとワーグナーの世界に入り込んで、ただひたすら感動する。

 終わった時には、テレビ画面に向って、涙を出しながらブラボーを叫びそうになっていた(さすがに、一人で見ているので、そのようなことはしなかったが)。

 『ワルキューレ』はもっと素晴らしかった。

 これまた演出に驚く。第一幕の「春」の場面では、背景の映像に大きな木が映し出され、そこに鳥たちが動き回る。そして、なによりも演出のセンスのよさに圧倒され、度肝を抜かれるのが、最後のブリュンヒルデが火に包まれる場面。男たちが松明を持ってブリュンヒルデの横たわる円を取り巻き、ヴォータンの告別の歌が進むにつれ、松明の火が次々に広がっていく。ブリュンヒルデを見守るヴォータンの心のうちを見事に形にしている。

 まさしく新時代の斬新で圧倒的な演出。これを見てしまうと、ほかがつまらなくなってしまいそうで怖い。

 演奏も素晴らしい。ジークムントを歌うのはペーター・ザイフェルト。現在、最高のジークムント歌いだろう。ジークリンデを歌っているのはペトラ・マリア・シュニッツァー。ほかの歌手たちよりも少し声量的に劣るかもしれないが、容姿を含めるとこれ以上の配役はないだろうと思える。フンディングのマッティ・サルミネンはもちろん申し分なし。ヴォータンを歌うユハ・ウーシタロは、今や最高のヴォータン歌手だろう。フリッカを歌うアンナ・ラーションも最高。大いに感動した。

 ブリュンヒルを歌うジェニファー・ウィルソンについては、私は知らなかった。この公演で注目を集めたらしい。ヴィブラートの少ない清潔で強靭な声で、私は大いに気にいった。体型的には問題がないではない。もしかすると『ジークフリート』や『神々の黄昏』で男女の愛が歌われるときには問題が生じるかもしれない。が、そのような場面のない『ワルキューレ』では、申し分ない。ものすごいブリュンヒルデ歌いが現れたものだ!

 メータの指揮もいい。大きくうねり、ダイナミックな世界に観客を引き込む。ところどころ、ちょっと無神経なところを感じないでもないが、それもいつしか大きなドラマの中に組み込まれて気にならなくなる。ちょっと大雑把なところはあるが、スケールが大きく、しかも音が明確で豊穣というのが、ワーグナー指揮者としてのメータの特徴といえるだろうか。いつの間にかメータは大ワーグナー指揮者になっていた!!

『ジークフリート』と『神々の黄昏』の発売が待ち遠しい。こんなすごい映像が現れるなんて、まだまだワーグナーから目が離せない!

 ところで、昨日の朝日新聞に、先日、鼎談を行った山田真哉さんの新刊の広告が写真入ででかでかと出ていた。そして、別の面にかなり小さく、私の『ヴァーグナー 西洋近代の黄昏』の広告が出ていた。ちょっと寂しいが、読者の数からすると仕方がないだろう。いずれにせよ、私の『ヴァーグナー』も少し売れてくれるとうれしいが・・・。

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コメント

このヴィデオはこちらでは全4部作TV放送しました。ゲルマン的ではないですが悪くないですね。メーターのついてはミュンヘンの録音より良いのではないかと思います。舞台は半々。おかしな醜いメイクと、つねる移り変わる背景が一緒になっています。

投稿: 菅野 | 2010年3月 6日 (土) 23時24分

「常に」の間違いでした。修正できないのが残念です。

投稿: 菅野 | 2010年3月 6日 (土) 23時25分

菅野様
コメント、ありがとうございます。メータは、確かにミュンヘンの録音よりもずっとよいと思います。そろそろ『ジークフリート』以降のDVDが発売されるはずですので、楽しみに待っているところです。

投稿: 樋口裕一 | 2010年3月 7日 (日) 13時50分

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