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新国立劇場『ジークフリート』を見た

 20日、新国立劇場『ジークフリート』を見た。東京リングの再演。前回の公演を見ているので、二度目。全体的にはとても満足できる公演だった。第三幕、かなり感動した。このところの新国立劇場の高レベルを守っている。

 演出に関しては、かなり納得できる。一つ一つの道具立ての意味はよくわからないが、全体の雰囲気としては悪くない。『ジークフリート』をファンタジー的に捉えるのはとてもおもしろいと思った。この楽劇は4部作の中では、最も寓話的だ。第三幕の、ジークフリートがブリュンヒルデを見つける場面、ずっとジークフリートが一人だけで演じる。その演出がにくい。

 演奏に関しては、とりわけ歌手は全体的にそろっていると思った。クリスティアン・フランツのジークフリートは容姿はともかく張りのある声は大変よかった。ヴォルフガング・シュミットのミーメとユルゲン・リンのアルベリヒは素晴らしい。『ワルキューレ』でかなり疑問を感じたユッカ・ラジライネン(さすらい人)は、今回は基本のある声で実にしっかりしていた。エルダを歌ったシモーネ・シュローダーも、ファフナーを歌った妻屋秀和も、森の小鳥を歌った安井陽子も世界レベルだと思った。ただ、ブリュンヒルデを歌ったイレーネ・テオリンが、はじめのうち、ちょっと不安定に思えたのは気のせいだったか。東京フィルも遜色なし。

 むしろ、私はダン・エッティンガーの指揮にやや問題を感じる。もちろん、よく頑張っていると思う。『リング』をこれだけのレベルで演奏してくれるのはたいしたもの。ただ、世界一流のレベルとは思えない。第一幕は正直に言って、少々退屈した。舞台全体を巻き込むようなもっとわくわくする力感がほしい。第三幕は、この楽劇の最大の聞かせ場で、確かに私もかなり興奮したが、まだ興奮し足りない。もっともっと陶酔の極致に誘ってほしかった!!

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音楽」カテゴリの記事

コメント

樋口先生こんにちは。初めてブログを拝見しました。私も20日の「ジークフリート」を見に行きました。このオペラの実演を見たのは初めてでしたが、素晴らしかったと思っております。先生のご指摘の通り第1幕の第2場(ミーメとさすらい人のダイアローグ)で少し眠気を催しました。55年のカイルベルト指揮のライブCDを聴いてから行きましたので、比較するのは酷と思いますが、やや平板だったように思います。クリスチャン・フランツも第1幕の3場以降は良かったと思いますが、最初は抑え気味に聞こえました。最後まで歌いきるのが至難と言われているそうですから、やむをえないと思います。昔、コロのタンホイザーに行ったとき、やはり第1幕が抑え気味で、体調が悪いのかと思ったら、ローマ語りが大熱演で、大歌手でもワーグナーを全幕トップギアで歌い通すことは難しいのだなと感じたのを思い出しました。先生はテオリンが最初不安定に聞こえたと書いておられますが、私には感情の起伏を見事に表していたように感じました。音楽の知識などほとんどない私がとりとめのない意見で申し訳ありせん。私も見に行った公演を先生がその当日に批評をお書きになっていいましたので、お礼をこめて送信いたします。
なお、オペラ公演に頻繁に行くわけではありませんが、日本の観客の鑑賞姿勢には疑問を感じています。冬場だから風邪をひいている人が多いのでしょうが、やたらと咳するし、しかも遠慮がありません。また、昨日は上演するだけでも大変な作品を高い完成度で上演した出演者がカーテンコールしている最中にぞろぞろと帰る無神経さはあきれるばかりです。先生にはぜひ観客を啓蒙する発信をお願いしたく存じます。来月の「神々の黄昏」も見に行きますので、ぜひ、批評をお願いします。楽しみにしています。
先生の「ヴァーグナー西洋近代の黄昏」を読んでみようと思います。ありがとうございました。

投稿: S Tsuruta | 2010年2月21日 (日) 10時17分

S Tsuruta 様
コメント、ありがとうございます。
まったくもっておっしゃるとおりだと思います。
テオリンについて、ちょっと言葉が足りなかったように思いますので、補足しておきます。私は一昨年、バイロイトでイゾルデを歌うのを聞いて以来、かなりのテオリンのフィァンなのです。最初、不安定に聞こえたというのは、ファンとしての言葉だと思ってください。彼女としては少し不安定だったように思うのです。もっと安定して素晴らしいテオリンを知っていますので!

そして、カーテンコールの途中で外に出る件についてですが、実は私も3回目に全員がそろった後あたりに外に出ました。翌日、朝から出かけて岐阜で講演をすることになっていたのですが、準備が十分ではありませんでしたので、一刻も早く家に帰って準備をしなければという意識であわてて外に出ました。そんなわけで、あまり「啓蒙」できる立場ではありません。急いで出た人の中には、思いのほか時間が遅かったので、家に残してきた家族を心配した人も多かったのではないかと思います。確かに、演奏者にはとても失礼ですが、申し訳ないと思いつつ、やむを得ず外に出ている人も多いことをご理解ください。
拙著『ヴァーグナー 西洋近代の黄昏』、お読みいただけるとうれしく思います。
それにしても、とてもレベルの高い、素晴らしい上演だったと思います。指揮に弱さを感じるとはいえ、世界の最高レベルの指揮者と比べて迫力不足なのはやむをえないでしょう。『神々の黄昏』、私も行きますが、とても楽しみです。

投稿: 樋口裕一 | 2010年2月22日 (月) 09時59分

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» 文化振興予算について(新国立劇場のオペラ鑑賞後のついでに) [半蔵門経済政治研究所 ~ よりよき世界を求めて ~]
19日に新国立劇場で久しぶりにオペラを鑑賞した。といっても、昨年12月上旬以来であるから、さほど時間はたっていないが。オペラの内容については少々不満が残るところであるが、人それぞれ受けとめ方があろうからこのエントリーでは評価を差し控えたい。公演を主催する側(もしく... [続きを読む]

受信: 2010年2月25日 (木) 13時33分

» ワーグナー「ジークフリート」 [オペラの夜]
<楽劇「ニーべルングの指環」第二夜> 2010年2月14日(日)14:00/新国立劇場 指揮/ダン・エッティンガー 東京フィルハーモニー交響楽団 演出/キース・ウォーナー 再演演出/マティアス・フォン・シュテークマン 美術・衣裳/デヴィッド・フィールディング 照明/ヴォルフガング・ゲッベル 振付/クレア・グラスキン ジークフリート/クリスティアン・フランツ ブリュンヒルデ/イレーネ・テオリン ミーメ/ヴォルフガング・シュミット ヴォータン/ユッカ・ラジライネン アルベリヒ/ユルゲン・リン ファ... [続きを読む]

受信: 2010年3月 9日 (火) 06時49分

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