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NHKのラトル指揮『神々の黄昏』とシュヴァルツコップのCD

 NHKハイビジョンでラトル指揮、ベルリン・フィルによる『神々の黄昏』、エクサンプロヴァンス音楽祭公演を見た。

 ステファヌ・ブロンシュウェグの演出には、ほとんど見るべきところはない。音楽を邪魔しないのはありがたいが、それにしても、何も起こらないのは物足りない。それに、最後の場面にヴォータンが現れて、ゆっくりと座ってブリュンヒルデがジークフリートの遺体とともに水に飲み込まれていくところをのんびり見物している。これでは、神々の没落がまったく伝わらない。どういう意図なのか、きわめて疑問。

 演奏は見事! 何はともあれ、ベルリン・フィルの威力には圧倒させられる。何と豊穣で雄弁で奥深い音であることか! 「ジークフリートの葬送」から最後まで、息もつかせない。ラトルは実に切れがよく、音が生きている。流動的で厚みもある。ただ、『神々の黄昏』にはもう少しどす黒さや狂気にいたるまでの悪魔的要素がほしい気がするが、ラトルにはそれがやや欠ける。それはやむをえないところだろうが。

 歌手はやや小粒だと思うが、よくそろっている。ジークフリートを歌うベン・ヘップナーは最後にちょっと乱れたように思ったが、全体的には素晴らしい。強靭な声でありながら、十分にリリック。それにしても、この人、こんなに太っていたっけ? マンガのような顔をした人のよさそうな肥満したおじさんにしか見えない。少し前までの映像では、もう少し鋭角的なところがあったような気がする。

 ブリュンヒルデを歌うカタリーナ・ダライマンもなかなかいい。知らない名前だと思っていたが、レヴァイン指揮、メトロポリタンの『トリスタンとイゾルデ』でブランゲーネを歌っていた人らしい。次々と優れたソプラノが誕生しているのは頼もしい。「自己犠牲」の部分は感動的だった。

 ハーゲンのミハイル・ペトレンコは、確かに憎たらしい「悪い奴」には見えるが、小人族の子どもにしてはちょっと迫力不足。ワルトラウテをアンネ・ソフィー・フォン・オッターが歌っているが、これは文句なく素晴らしい。演技力、容姿、声の演技を含めて、圧倒的だった。

 まとめると、ラトルのワーグナーは、バレンボイムなどとはかなり異なって、やや軽めで流麗で何よりも豊穣。悪魔的要素が弱いのがやや不満。とはいえ、十分に感動した。

 ところで、先日、CDショップで、シュヴァルツコップの1972年の日本リサイタルのCDを見つけて、あわてて買った。

 大学生だった私は、このCDに収録されている1月27日のリサイタルを東京文化会館で感動の極致で聴いた記憶がある。一番前の席だった。シュヴァルツコップの唾がバーッと広がり、私にまでかかりそうになった。ものすごい表現力だった。魔物に取り込まれそうになった。CDを聴いているうち、当時の様子が蘇ってきた。シュヴァルツコップ亡き後、これを平静に聴くことはできない。アンコール曲のヴォルフの曲の興奮も思い出した。

 あのとき、すでに衰えを隠せなくなったシュヴァルツコップの音程が怪しくなるのを感じながら、彼女の信奉者だった私は自分の耳を否定しようとした。が、CDを聴くと、音程はしっかりしている。CDには、エフエム東京でこのリサイタルの放送に関わった東条碩夫さんの思い出の記が付されているが、シュヴァルツコップ自身が録音の半分近くをNGにしたことが書かれている。きっと音程の怪しいものは自身がカットしたのだろう。

 私は、シュヴァルツコップの初回の日本公演も聴いている。大分市に住む高校生だったが、福岡まで聴きに行った。あの時の感動は今も忘れない! シュヴァルツコップは私の青春そのものだった!!

 ところで、EMIから過去の録音を集めたヴォルフの8枚組CDの歌曲集も、先日見つけて買った。シュヴァルツコップのほか、フィッシャー=ディスカウ、アラフ・ベア、アンネ・ソフィ・フォン・オッター、トーマス・アレンらが歌っている。いずれも絶品! ヴォルフは実にいい。

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