« 今、札幌にいる | トップページ | 新日フィル+アルミンクの『ペレアスとメリザンド』 »

クリストフ・ポールの素晴らしい「水車小屋の娘」!

 素晴らしい歌曲を聴いた。クリストフ・ポールのバリトンによるシューベルト「美しき水車小屋の娘」だ。5月21日、武蔵野市民文化会館のコンサート。カタヤラというテノール歌手のつもりでチケットを買ったが、演奏家が変更になった。

 大学でゼミを終えた後、車を飛ばしてぎりぎりに着いた。このバリトン歌手、知らない名前だったので、きっと若くてこれからの人が出てくると思っていた。だが、第一声を聞いて、びっくり。これからの人どころか、最高のバリトンだった。

 柔らかくて美しい声。音程もしっかりしており、歌いまわしも素晴らしい。フィッシャー=ディスカウのように知的すぎない。ヘルマン・プライのように若々しすぎない。その中間と言うべきか。だが、十分に知的で、時にドラマティック、時に凄惨、時に甘美。そうでありながら、不自然ではない。実は私はフィッシャー=ディスカウが時に鼻につく。が、この歌手はそんなところがない。知的でありながら、それが表に出ない。私がこれまで聞いたリート歌手の中で最高レベル! 私はこれまでにホッター、プライ、ヘフリガー、シュライヤー、ベーア、クヴァストホフなどを聞いてきている(フィッシャー=ディスカウはずっと好きでなかったので聞いていない)が、それに匹敵する素晴らしさ!

 注目株どころか、すでに最高のレベルの歌手。こんな歌手にこれまで注目しなかったのを恥じる。きっと、このホールのプロデューサーである栗原一浩さんが呼んだのだと思うが、改めて脱帽。このホールは、無名でありながら世界最高レベルの歌手をよく聞かせてくれる。本当に感動した。武蔵野文化会館で聴いた素晴らしい歌曲としては、カミラ・ニールンド以来。今や、ニールンドは押しも押されもしない世界の大スターだが、このポールもそうなるだろう。いや、それ以上かも。

 ところで、聞いているうち、この歌曲集、実は私が初めて聴いたクラシックの演奏会の曲目だったことを思い出した。小学校5年生か6年生の時だった。1960年ごろだ。大分市に暮らしていた私は、クラシック音楽に目覚め、大分市のデパートであるトキハで行われたコンサートに母にねだって連れて行ってもらった。当時、デパートのホールでときどきこのようなコンサートが行われていた。

 何しろ、50年前の地方都市のデパートで行われた「しょぼい」コンサートなので、小学生の耳にも、それほどうまくないのがわかるような演奏だった。が、それでも、初めて聞くナマのバリトンの声に興奮したものだ。

 もうひとつ思い出した。かつて私は毎週、故・種村季宏先生と顔を合わせて、よく話をしていた。初めのころは、その人が種村先生だとは知らず、えらく物知りで話のおもしろいおじさんだと思っていた。「あれは種村さんだ」と教えてくれる人がいて驚いた。その種村先生が、「かつて、ヨーロッパでは水車小屋の主は被差別者だった」と話しておられた。私が、シューベルトの歌曲集もそのような背景の歌なのかと尋ねると、「その通りだ」と教えてくれた。種村先生の話はいつもおもしろかったが、雑談なので、いい加減な話も多かった。シューベルトのこの歌曲集を聴くごとに種村先生の話を思い出し、「今度、しっかりテクストを読んで、種村先生が言っていたのが本当かどうか確かめてみよう」と思うのだが、そのままになっている。

 ともあれ、素晴らしいコンサートだった。これが、何と1350円だった!! 信じられない!

|

« 今、札幌にいる | トップページ | 新日フィル+アルミンクの『ペレアスとメリザンド』 »

音楽」カテゴリの記事

コメント

突然のコメント、失礼いたします。

クリストフ・ポールという方を存じ上げず、素晴らしい演奏をお聴きになったとのブログに恐縮ですが、お読みいただければ幸いです。

NHKに番組リクエストのサイトがあり、100名の賛同があると再放送を検討してもらえるそうです。私はプライが水車小屋の娘全曲を歌った1997年8月の芸術劇場をリクエストしました。できましたら、賛同をおねがいできませんでしょうか。
賛同の方法はNHKの「お願い編集長」というページで、「お願い!検索」で「プライ」と入力して検索していただき、リクエストのページに入りますと、「Eね」ボタンがありますのでクリックしていただくようになります。
(あるいはhttp://www.nhk.or.jp/e-tele/onegai/detail/4715.html#main_section)

伴奏者の名前など不明ですが、私は大変感銘を受けた放送です。
もしご迷惑でなければ、どうぞよろしくお願いいたします。

投稿: maru | 2012年9月 7日 (金) 21時57分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/532807/48420994

この記事へのトラックバック一覧です: クリストフ・ポールの素晴らしい「水車小屋の娘」!:

» ケノーベルからリンクのご案内(2010/05/22 09:29) [ケノーベル エージェント]
大分市エージェント:貴殿の記事ダイジェストをGoogle Earth(TM)とGoogle Map(TM)のエージェントに掲載いたしました。訪問をお待ちしています。 [続きを読む]

受信: 2010年5月22日 (土) 09時30分

« 今、札幌にいる | トップページ | 新日フィル+アルミンクの『ペレアスとメリザンド』 »