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新日フィル+アルミンクの『ペレアスとメリザンド』

 クリスティアン・アルミンク指揮、新日本フィルによるドビュッシーの『ペレアスとメリザンド』(コンサート・オペラ形式)を見てきた(5月23日すみだトリフォニーホール)。かなりレベルの高い演奏だった。

 メリザンドの藤森実穂子がいい。清楚で芯の強い歌を聞かせてくれた。彼女の歌うフランスオペラを初めて聴いたが、イタリア風やドイツ風にがなりたてるのでなく、じっくりと歌い、堂に入っていた。ちょっと、「あれ?」と思う発音があったが、もしかしたら、私の耳のほうがおかしいのかもしれない。

 アルケル役のクリストフ・フェルとペレアスのジル・ラゴンもなかなか。ただ、ゴローを歌ったモルテン・フランク・ラルセンは、かなり有名な歌手らしいが、大声でがなりたてる感じで、私としては、このオペラにふさわしくないと思った。ジュヌヴィエーヴのデルフィーヌ・エダンもちょっと地味すぎた。とはいえ、歌手陣のレベルはかなり高い。

 アルミンクも良かった。前半は抑え気味だったが、後半、だんだんと盛り上げて、好感が持てた。新日フィルにはもう少し精妙さがほしいと思ったが、ウィーンフィルでもベルリンフィルでもないのだから、これくらいやってくれれば文句はない。

 映像を使った演出は田尾下哲による。それにしても実に良くできた映像。舞台になっている森や城が描き出される。CGなのだろうか。森は、長谷川等伯の墨絵による松林を思わせる。経済的な制約がある中、これは見事だと思った。

 ただ、そうでありながら、感動するまでには至らなかった。

 これは私の大好きなオペラだ。フランスオペラの中では最も好きで、機会があれば必ず見たり聞いたりしてきた。だからというわけではないが、思い入れがあり、自分なりの思いを強く持っている。

 もちろん、私の勝手な思い込みと言えば思い込みだが、私はこれを絶対にドラマティックに演奏してはいけないと思っている。何よりも静謐を重視し、淡々と歌うべきだと思っている。そうしてこそ、だんだんと抑制の中のドラマが盛り上がっていく。抑えようとしても抑えられない嫉妬心、抑えられない恋心、それは抑えるだけ抑えてこそ、浮かび上がってくるのだと思う。何しろ、これは、ワーグナーの大袈裟な音楽に対抗してドビュッシーが書いた音楽だ。大袈裟な音を使わずに、ワーグナー以上の内面のドラマを作り出そういう試みなのではないか。

 そして、謎だらけのストーリー。「一体、メリザンドの正体は?」「アルケルの王国とはどんな国?」「乞食にどんな意味がある?」「水や泉や海に、どんな象徴的な意味がある?」「指輪をなぜ、メリザンドはもてあそぶ?」「意味ありげな会話の意味は?」など、次々の疑問が浮かぶが、そのすべてが解決されないまま宙ぶらりんになる。そこに神秘な空間が立ち上ってくるのが、メーテルランクの戯曲だ。ドビュッシーの音楽も、そうした不思議な魅力をかきたてる。それがこのオペラの魅力だと私は思っている。

 そのような『ペレアスとメリザンド』特有の魅力が、今日の上演では立ち現れなかった。いつか、私の理想とする上演を見たいものだ。

 とはいえ、繰り返すが、とても良い演奏だった。十分満足して家に帰った。

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音楽」カテゴリの記事

コメント

先生、こんばんは。
私も行きました。ペレアスとメリザンド。
しかも、プルミエと第2夜と2回行きました。
モノクロの映像はとても雰囲気があり、貴重な体験ができたと思っています。

さて、21日と23日では、だいぶ歌手の印象が違ったんです。
23日のアルミンクがプレトークで言っていたように、1日目が終わってから演出家がずいぶん手を入れたようで....
シロートの私の印象では、23日はだいぶ(おおげさに?)ダイナミックレンジがついていて、例えば、ペレアスが「よく聴こえないよ?」と言っているメリザンドの声は、本当に聴き取れなくくらい微かでしたが、1日目は全くそうではありませんでした。ゴローも2日目のほうが怖かった。三白眼が。

しかし、オペラといえば普段聴くのはベルカントばかりなので、私にはドビュッシーのオペラがとても新鮮でした。
ストーリーは「天然君と不思議ちゃん」とサブタイトルをつけたいくらいでしたが、メリザンドはきっと森の妖精だから、王冠や指輪など「身分の印」されるのがいやだったのだと思いながら観ていました。ファンタジーですね。
私は定期会員なのですが、来年のコンサートオペラ、トリスタンとイゾルデは、トリスタン役がリチャード・デッカーに決まったそうで。楽しみです。

投稿: Tamaki | 2010年5月26日 (水) 23時43分

Tamaki様
コメントありがとうございます。
そして、1日目についての情報も。とても雰囲気がよくわかりました。
「天然君と不思議ちゃん」、まったくその通りですね。実は、昔々、フランス音楽などまったく聴かなかったころ、初めてクリュイタンス指揮のレコードを聴いて、この不思議さに魅力を覚えて大好きになったのでした。
なるほど、「身分の印がいや」なのですか。なるほど! 考えてみませんでした。そうかもしれません。
トリスタン、本当に楽しみです。アルミンクは素晴らしい指揮者だと思っています。ただ繰り返しますが、「ペレアス」に思い入れを持っている私からすると、今回の演奏は理想のものではありませんでした。

投稿: 樋口裕一 | 2010年5月27日 (木) 07時58分

先生、お忙しいところご返信ありがとうございます。
ドビュッシーなどフランスの印象派は大好きですが、実はドビュッシーの(フランスの)オペラは今回初めてだったんです。ドビュッシーのオペラはこれ1曲だけだそうですが。とても興味が湧いたので他のものもぜひ聴いてみたいと思います。

歌らしい歌は第3幕でメリザンドがオケなしで歌う場面くらい、歌手はセリフを述べていて、感情はオケが表現する...シェークスピア劇を観ているような気がしてしまいました。先生のおっしゃること(心象描写)、なんとなくわかるような...

あと、イニョルド役のアロイス君。Amazing Voiceでした。
コンサートオペラだし、ソプラノのズボン役でもいいのにと思ったりしましたけど、ウィーン少年合唱団出身のアルミンクのこだわりなのか?わざわざリンツまで行ってオーディションしたそうです。
1日目は2階席最前列を取ったんですが、私の隣の席がフローリアン合唱団の先生とカヴァーのクリストフ君だったので、先生にはアロイス君のこと、ほめちぎっちゃいました。

投稿: Tamaki | 2010年5月28日 (金) 02時34分

Tamaki様
そうそう、イニョルド役の少年、とてもよかったですね。少年にありがちな音程の不安定さもありませんでしたし、しっかり演技していました。
私はフランス音楽はあまり聴かないのですが、「ペレアス」のほか、デュカスの「アリアーヌと青ひげ」やプーランクの「カルメル会修道女の対話」などのフランスオペラにはかなり惹かれています。

投稿: 樋口裕一 | 2010年5月29日 (土) 08時59分

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● 2009-2010シーズン聴いたコンサート観たオペラ一覧はこちら . ● 2 [続きを読む]

受信: 2010年5月24日 (月) 12時23分

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