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クリント・イーストウッドの映画たち

 NHK-BSでクリント・イーストウッドの出演映画、監督映画が特集されていた。私は学生のころから現在に至るまでヨーロッパ映画好きなので、実はあまりアメリカ映画には詳しくない。テレビ放送は録画しておいて、時間ができたときに見るが、映画館に行くのは稀だ。DVDを買うことも少ない。

 が、何を隠そう、クリント・イーストウッドは、「マカロニ・ウェスタン」や「ダーティハリー」のころから、いやもっと言えば50年近く前に放映されていたテレビドラマ「ローハイド」のころからのファンだ。イーストウッドのかっこよさにシビれてきた。

 監督作品も、これまでテレビで「マディソン郡の橋」「父親たちの星条旗」「硫黄島からの手紙」「ミリオンダラー・ベイビー」を見て、いずれにも大いに感銘を受けた。凄まじい演出力と映像美、しみじみとした哀歓に心引かれてきた。

 そして、改めてBSの放送を見た。仕事で忙しいので、ちょっとだけにしようと思いながら、つい「ダーティハリー」は全部見てしまった。「荒野の用心棒」も「夕陽のガンマン」も実におもしろい。私はかなり凝り性なので、イーストウッドの監督作品のDVDも何本か買ってきて見た。

 見た順に、ごく短く感想をまとめてみる。

・「許されざるもの」

 娯楽西部劇だが、老いて改心したならず者の描き方が実にリアル。イーストウッドに感情移入してしまう。娼婦たちも、娼婦たちをひどい目にあわせる男たちも、保安官も、賞金を稼ごうとする三人も、憎めない存在として描かれている。強いメッセージがあるわけではないが、人間の命の重み、生きるつらさがひしひしと伝わる。しかも、一級の娯楽作品になっているところがさすが。

・「チェンジリング」

 1920年代から30年代にかけての時代の描き方も素晴らしい。行方不明になった息子がもどってきたが、実は、それは別人だった、母親は別人だと訴え続けるが、警察はそれを信じないで、母親を狂人扱いする・・・という物語。実話だというから恐ろしい。それをまさしくリアルに描いていく。主演のアンジェリーナ・ジョリーが、これまで見たほかの映画とうって変わった演技力を見せている。ただ、理不尽な目にあい続けるヒロインの姿があまりに痛ましくて、見るのがつらくなった。それも、リアルな映像のなせる業だとは言えるだろうが。

・「グラン・トリノ」

 これは大傑作。これまで見たイーストウッド監督映画の中で、一番好きだ。イーストウッド演じる保守的で頑固な老人が実に魅力的。笑えるところがたくさんあるのがいい。隣の家に移ってきたモン族の人々とだんだん打ち解けていく様子も実に自然。これも間違いなく娯楽映画でありながら、生と死、そして男の誇りという大きな問題を取り上げている。朝鮮戦争で人の死を見つめて、懐疑的になり、宗教を信じなくなり、人を信じられなくなった老人の人物造形に説得力がある。さりげない生活を描いても、そこに人生の深みを感じさせるだけのリアリティがある。

 最後、悪い奴らを皆殺しにするのかと思ったら、そうではなかった。その解決も見事。そして、イーストウッドの演技力! 

・「スペース・カウボーイ」

 以前、テレビで見た記憶があるが、字幕で見ると、これが実にいい。なかなかの傑作だと思った。老人たちが、一度諦めていた宇宙飛行をする物語だが、4人の老人を演じるイーストウッド、トミー・リー・ジョーンズ、ドナルド・サザーランド、ジェームズ・ガーナーが、いずれも見事。ありがちなヒーロードラマなのだが、演出がしっかりしているので、一人一人の人生の重みが伝わってくる。

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コメント

樋口先生
ご無沙汰しております。
クリント・イーストウッドの映画は私も大好きです。
悲惨な運命に投げ込まれた人間を神の視点で突き放して見つめる
といった、安易な感傷に陥らない格調高さがありますね。
イーストウッドは作曲も行っていますが、音楽のセンスも
素晴らしい。才能のある人は何でもできるものです。


投稿: Pilsner | 2010年6月13日 (日) 18時03分

Pilsner様
コメント、ありがとうございます。
先日、「センチメンタル・アドベンチャー」をDVDで見て、ギターとピアノと歌も聞きました。「グラン・トリノ」の音楽、いい雰囲気だと思っていたのですが、あれもイーストウッドの作曲だったんですね。
イーストウッドを見ていると、「世の中、不公平だ!」とつくづく思います。が、だからといって、怒る気になれず、やっぱりイーストウッドはカッコイイと思わせてしまうのが、彼のすごいところですね。確かに、感傷に堕することがなく、しっかりと人間を見つめているところに共感を覚えます。
(ところで、以前にコメントをもらいましたっけ?)

投稿: 樋口裕一 | 2010年6月14日 (月) 13時18分

樋口様
事業仕分けについて一度コメントしました。
このブログはいつも静かに読んでいるのですが、
大好きなクリント・イーストウッドの記事なので
思わず反応してしまいました。

投稿: Pilsner | 2010年6月14日 (月) 23時08分

Pilsner様
大変失礼いたしました。お名前に覚えがないような気がしたのでした。事業仕分けも、まずはそれほど大事にならずにすみそうだということで、安心しています。が、また、いつ同じようなことが起こるかわかりませんね。
イーストウッドの映画、もう少し見続けたいと思っています。が、クラシック音楽を聴くのもなかなか時間が取れずにいる状態ですので、本当に時間を見つけながらということになってしまいます。

投稿: 樋口裕一 | 2010年6月15日 (火) 07時43分

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