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ロイヤルオペラ『椿姫』 二人のヴィオレッタを見られて得をした

今日(9月12日)、神奈川県民ホールでロイヤルオペラ公演『椿姫』の初日を見てきた。驚きの連続だったが、とりあえず満足。

もともとはヴィオレッタをアンジェラ・ゲオルギューが歌うことになっていた。いわずとしれたヴィオレッタ歌いとして有名な歌唱も容姿も素晴らしいオペラ歌手だ。ところが、昨日、『マノン』を見に行って、会場でゲオルギューがお嬢さんの重病のために来日を取りやめたことを知った。今回の公演の主催者である日経新聞の池田さんにお会いして話を聞くと、代役のエルモネラ・ヤオはアルバニア出身の30代の美貌の歌手であり、ゲオルギューよりもむしろ現地では人気があるという。それならそれでと、期待して、今日、でかけたのだった。

指揮はアントニオ・パッパーノ 演出はリチャード・エア。

幕が上がる前、責任者の女性が出て、ゲオルギューが来日しなかったことをわび、代わりにヴィオレッタを歌うヤオも大活躍中だという説明をした。

第一幕。なるほど、見事なヴィオレッタだった。容姿は申し分ない。ゲオルギューはかなりのお歳なので、ヤオの方がヴィオレッタに近いかもしれない。溌剌とし、しかも気品があり、まさにヴィオレッタが目の前に現れたかのよう。華やかしっかりした声で、歌の表現も見事。「ああ、そはかの人か」はしっとりと感情豊かに歌った。そして、「花から花へ」のアリアに移った。

これもなかなかの出来で、見事な歌いまわし。しっとりした歌だけでなく、華やかな高音の歌も得意なのだと納得しつつあった。ところが、高音になって声がうわずった。それどころか、二度ほどまったく声が出なかった。それでも最後まで歌いとおした。私としては、第一幕でもあり、まあこんなこともあろうかと思っていた。おそらくその場のほとんどの人がそう思っただろう。それにしてもヤオという歌手、若いわりには堂々たる歌いっぷりだと、むしろ感心していた。

ところが、第二幕のはじめ、第一幕の最初に出てきて女性が再び登場し、「ヤオはアレルギーになって声が出なくなったので、第二幕から代役を立てる」という。

海外のオペラ情報などで時々そのようなことが起こったことをニュースとして目にするが、私自身はこんな経験は初めて。代わりに歌ったのが、アイリーン・ペレスという歌手だった。若い歌手で、ザルツブルグ音楽祭ではジュリエットを歌ったという(どうやら、これがネトレプコの代役だったらしい)。

いやはや歌った本人も驚いたことだろう。最初は安全運転という感じ。清楚でしっかりした歌いまわしながら、ちょっと物足りないと思った。声もちょっと不安定。とはいえ、途中からの代役としては見事としか言いようがない。華やかさはなく、ヤオに比べるとかなり庶民的な姿と歌だが、姿も美しく、芝居もしっかりしている。

が、第三幕になって、やっと落ち着いてきたのだろう。安全運転でなくなった。素晴らしい歌いまわし。最後のアリアなど絶品だった。清楚なだけでなく、しっかりした表現力も持ち合わせている。ヤオに勝るとも劣らない。大喝采だった。

アルフレードを歌ったジェームス・ヴァレンティはものたりない。第二幕第二場の怒ったところからはそれなりにしっかりと歌っていたが、それ以前は、やさしく頼りなげなアルフレードを演じようとしたのだろうが、声まで不安定すぎた。演技も棒立ちに近い。ジェルモンのサイモン・キーンリサイドは存在感と表現力で図抜けていた。

パッパーノの指揮も、抑制されていて、なかなかいい。イタリアオペラ風の安っぽい盛り上がりがない。しっかりとドラマに即して音楽を作ってくれる。

最後には十分に感動した。演出も実に堂々たるもの。きわめて高レベルの上演だった。しかも、私としては二人のヴィオレッタを見ることができて、お得だったと思った。

が、欲求不満は残った。エルモネラ・ヤオかアイリーン・ペレスか、どちらでもいいが、全幕を通して同じヴィオレッタで聴きたい。途中交代は、どちらつかずで気分が悪い。というわけで、NHKホールでの最後の公演のチケットを会場で購入した。かなり高いし、NHKホールは、ホールそのものの音響や周囲の騒音のために、できれば避けたいのだが、しかたがない。

オペラを見た後、新横浜から新幹線に乗って、先ほど京都に着いたところ。明日から、京都産業大学で集中講義の後半が始まる。

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音楽」カテゴリの記事

コメント

先生、こんばんは。

私は、19日に予定しています。ROHは初めての海外でのオペラ体験ですし、感慨深いです。

ゲオルギューの愛娘が手術で...という話は知っておりましたが、ヤオまで???驚きですが、ある意味貴重な体験でいらっしゃいましたね...。
私はバリトンのキーンリサイドが好きです。

20日に渋谷のタワーレコードで、パッパーノのトークショウとキーンリサイドのサイン会があるので出かけるつもりでおります。

投稿: Tamaki | 2010年9月15日 (水) 03時11分

僕も12日の公演を見に行きました。2階席の真ん中辺りで聞きました。ヤオさんの歌い方は今時の歌手にはあまり見かけない歌い方だと隣に座わっていたご夫婦人言っていました。素人の僕には歌詞がストレートに聞きとれない歌い方だと感じましたが…ただ音色は良かったと思います。あとは音量がペレスさんと比べて小さかったかなと。ペレスさんは初め出て来た時にはヤオさんと違って声が低音な感じでした。ただこの人も椿姫をやるにはちょっと華がないんですよね。オ−ラと言うか。音色も特徴があるわけではないんですが 。ただ今までオペラは10回程行ってますが見てる時は感動しても時間が経つにつれてあの人どんな歌声だったかなと忘れてしまうことが多かったんです。しかしペレスさんはなぜかよく覚えているんです。ペレスさんの椿姫はよかったなぁと日々思うようになりました。不思議ですよね。多分代役として出てきてその時の彼女の必死さが歌に出ていたのだと思います。普通に出ていたらまた違ったのかと。ただ観客にこう思わせたのなら彼女の勝ちですよね(笑)。

投稿: まさ | 2010年9月15日 (水) 17時45分

Tamaki様
相変わらず、精力的ですね。
19日の感想、聞かせてください。そして、誰が歌ったかも。
12日のヤオ、私は、ネットで言われているほどひどかったとは思いません。私の印象では、「花から花へ」の部分で高音が出なかった以外、それほど悪い出来ではなかったと思います。「ああ、そはかのひとか」が終わった時点では、多くの人が、「かなりやるな」と思っていたと思うんですけどね。あそこでは、あまり拍手は起こらないのですが、盛大な拍手をしている人もかなりいました。私の印象では、「花から花へ」で突然、調子を崩し、高音が出なくなったようでした。いったい、何が起こったのか。「アレルギー」という説明でしたが、何のアレルギーなのか・・・。気になるところです。

投稿: 樋口裕一 | 2010年9月15日 (水) 23時36分

まさ様
コメント、ありがとうございます。
当日の私の印象は、本文、そしてTamakiさんへの返事に書いたとおりです。ともかく、もう一度、ちゃんと聞いてみたいと思っています。本当は、ヤオとペレスの両方を全幕通してじっくり聞きなおしてみたいですね。私は、二人とも、これからを代表する大歌手になる人ではないかと思うのですが。その両方を聞けて、とりあえずラッキーだったと思っています。

投稿: 樋口裕一 | 2010年9月15日 (水) 23時39分

樋口様。
そうですね、僕もできたら全幕通して両方ともまた聴いてみたいです。お金があったらですが…あの日はああ言うことがあったので落ち着いて見られませんでしたからね。ただヤオのアレルギーはみんな心配しているのではないでしょうか?歌手にとって致命的な問題なのでなんとか日本での公演を無事成功させてほしいです。

投稿: まさ | 2010年9月16日 (木) 16時50分

初めまして。
昨日、聴いてきました。
ヤオが歌いきりました。会場全体一安心という感じでした。
花から花への、高音(特に最後)は、出していなかったです。
全体的に高音は無理なように感じましたし、重唱なのに一人だけ
テンポが遅れるようでした。
3幕目でやっと調子に乗ったようでしたので、あと2公演は大丈夫かも・・です。

投稿: naoko | 2010年9月17日 (金) 14時04分

まさ様
コメント、ありがとうございます。
まずは、アレルギーは大したことはなかったようですね。私は22日に聞きますので、またこのブログに少し書くことになると思います。それにしても、来日オペラのチケット、高いですね! 

投稿: 樋口裕一 | 2010年9月18日 (土) 07時54分

naoko 様
ご報告、ありがとうございます。
そうですか。ちょっと安心しました。が、それほど素晴らしいわけではなかったんですね。
もしかしたら、はじめのうちは、本人も恐る恐る歌っていたのかもしれませんね。第三幕がよかったとしますと、次回以降、はじめから調子に乗るのかもしれません。それを期待して、私は22日に臨もうと思います。

投稿: 樋口裕一 | 2010年9月18日 (土) 07時59分

先生、こんばんは。

なんと!今日もヤオは第1幕で降板。ペレスと交替でした。

ヤオは「乾杯」あたりからあまり声が出ておらず(心理的なプレッシャーもあったかも知れません)「花から花へ」は、かなり痛々しかったです。
私はヤオもペレスも初めて聴きましたが、ペレスはアンダーとしてはまあまあなのではないでしょうか。ゲオルギューが来日しないことがわかっていたので(キャンセル自体めずらしいことではありませんし)あまりヴィオレッタには期待しておりませんでしたが、私はこんなことなら「作品として」始めからペレスに全幕歌ってほしかったです。(ヒトゴトであれば貴重な体験ですね、なんて言いますが)
NBSのホームページによると、途中降板はパッパーノの判断だそうです。
http://www.nbs.or.jp/blog/roh2010/contents/cat136/

ヤオもペレスも辛かったでしょうね。
特にヤオは、ゲオルギュー目当ての日本人に良くない印象となってしまってはかわいそうだな、と同情してしまいます。

またアルフレードは誰が歌おうと、もともと嫌いなキャラ笑なので声が小さくてもあまり気にならず笑。

いつもミーハーで恐縮ですが、最大の目的、コヴェントガーデンのドンジョバンニでファンになったキーンリーサイド歌うパパジェルモンが最高だったので、満足です!たっぷりと説得力のある「天使のように清らかな娘」「プロヴァンスの海と陸」。
パッパーノも付き合いの長いキーンリーサイドには頼むぞ!という気持ちだったのでは...。
また、エアの演出も衣装も見事だったと思います。

今日のようなアクシデントは、もしもこれがコヴェントガーデンであれば、他のオーディエンスの反応も面白く「こんなこともあるのかしら」と楽しめた気がしますが、やはり引っ越し公演ではチケットが高いし、NHKホールだし、観客も微妙だし(スミマセン)というマイナスがありますからさらにガッカリです。

明日、パッパーノのトークショウで何が聞けるのか楽しみです。気さくなマエストロなので本音が飛び出すかも知れません。
キーンリサイドにも会える(予定)ため気合いが入ります!

最終日のヴィオレッタはだれでしょうか?
さすがに1回のツアーで3度目では「英国ロイヤル」の名が泣くと思いますので、22日は1幕からからペレスなのではないでしょうか?!
パッパーノはそれでもヤオに歌わせるのでしょうか...?!(22日はNHKの収録もあるようですよ!)
まさかですが、明日のマノンを終えヴィオレッタがオハコのネトレプコが出て来たらこれこそすごいアクシデントですね。

では、22日のご感想を「いろいろな意味で」楽しみにしております!

投稿: Tamaki | 2010年9月19日 (日) 23時25分

Tamaki 様
かくなるうえは、もしかしたら私が今度行く22日にネトレプコがヴィオレッタをうたうのでは、とかすかに期待していたのですが。夕方、NBSのHPを見てびっくり!! なんと、本当にネトレプコが明日歌うではありませんか。
なんという運の良さ。このところ、悪いことは何もせずに、真面目に生きてきましたが、その報いがあったと、正直、思いました!! 真面目に生きていれば、そのうち何か良いことがあるものです!!
そんなわけで、明日が本当に楽しみです。ザルツブルグ音楽祭の「椿姫」の映像を見て以来、ずっとネトレプコのヴィオレッタを見たいと思っていました。きっと「マノン」以上の素晴らしさだと思います。

投稿: 樋口裕一 | 2010年9月21日 (火) 23時52分

先生、すごいですね!
まさかね hahahaなんて言っていたことが本当になるなんて。
明日の公演に行かれる方は、みな悪いことをせず真面目に生きてこられた方ばかりなのかもしれません!

ファンにとってはこんなうれしいアクシデントも、気の毒ではありますがたまたまヤオが不調だったためですよね。
パッパーノは「英国ロイヤル」の名にかけて、アンナ!君しかいない!頼む!と土下座でもしたのでしょうか.....
ネトレプコのヴィオレッタを観る機会はまだあるでしょうが、このような機会というのはもう一生ないでしょうね。

NHKの収録もあるそうですから、「プレミアムシアター」か「芸術劇場」で観られるのを楽しみにしております!

そうそう、昨日のトークイベントですが、簡単に報告します。

ーパッパーノへ質問(以下Q):今回公演のシアターはどうでしたか?
ーパッパーノ(以下P):NHKホールは大きくてメトのようだった。文化会館はクローズドでオケはやりやすかった。
ーQ:マノンの5幕前に間奏曲が入りましたが、あなたのエディションですか?
ーP:それに気づいたのはあなただけかもしれない!(笑)そう、私のエディションです。5幕のストーリーを示唆したかったためです。
ーQ:これから先どのような作品を取り上げたいですか?
ーP:アニバーサリーが控えた作家は意識しています。ワグナーのリングもぜひやりたいし、ブリテンなど19世紀のイギリスの作曲家も取り上げたい。

ーキーンリーサイドへ質問(以下Q):あなたはとてもハンサムなのに、ジェロモン父という老け役というのはどんな気分で演じたのですか?
ーキーンリーサイド(以下K):ジェロモンはまだまだ元気な男なのではないでしょうか(笑)そんな思いがありました。
ーQ:足はもう治りましたか?(笑)
ーK:おかげさまで(笑)実は、本当に足を少し痛めていたんですよ。もう大丈夫です。
ーQ:眼鏡をかけたりとったり頻繁にされていましたが、あの演技はご自身の解釈ですか?
ーK:え?そうでしたか?(笑)やはり老人の雰囲気を出そうとして演っていたのだと思います。
ーQ:今後どんなレパートリーを演りたいですか?
ーK:あまりレパートリーを広げようという思いはありません。自分に合った役を歌いたいと思っています。

キーンリーサイドはケンブリッジ出のインテリですが、オペラ歌手というよりおしゃれでクールでハリウッドスターのオーラでした。
サインをいただくとき、「Toi Toi Toi」と言ったら、「You too Toi Toi Toi !」トイトイ返しをいただいちゃいました!

では、明日のリポートを楽しみにしております!
Toi - Toi - Toi !!!!!!

投稿: Tamaki | 2010年9月22日 (水) 01時52分

Tamaki様

先程、NHKホールから帰ったところです。ブログに今日の感想を書きましたので、よろしかったらご覧になってください。一言でいえば、予想通りにネトレプコの自由自在で最高の歌と演技に酔いました!!
トークイベントの報告、ありがとうございました。手に取るように状況が分かって、とても面白く読ませていただきました。ただ、やはり代役について突っ込んだ質問をしたかったですね。

それにしても、英語が達者なご様子でうらやましい。私は、昔、フランス語は下手ながらそこそこしゃべっていたのですが、今や、何か言おうとすると、フランス語と英語が入り混じって頭に浮かび、結局どちらも使い物にならない状態で、困っています。老後の手習いに英会話でもやろうかと、仲間真面目に考えているところです。

投稿: 樋口裕一 | 2010年9月22日 (水) 23時23分

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