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新国立『アラベッラ』、ときどき不満、のち感動。

 10月11日新国立劇場で『アラベッラ』を見てきた。指揮はウルフ・シルマー、東京フィルハーモニー交響楽団、演出はフィリップ・アルロー。

 第二幕までは、実はかなり退屈だった。

『アラベッラ』はかなり難しいオペラだと思う。『ばらの騎士』よりも話にメリハリがない(オックス男爵が登場しない!)ので、うまく整理しないと、だらけてしまう。しかも、重唱の場面で、声のアンサンブルとオーケストラがうまく溶け合わないと、ぎくしゃくしてしまう。非常に微妙なバランスの中で成立しているオペラだと思う。

 前半はまさに、それぞれの声とオーケストラ絡み合わず、とろけるような陶酔を少しも感じなかった。指揮がよくないのか、オケがよくないのか分からないが、精妙な音がしない。全体がちぐはぐ。

アラベッラのミヒャエラ・カウネは声も容姿も申し分ないのだが、ちょっと清楚すぎて迫力不足。もう少し観客を引き込んでほしい。ズデンカのアグネーテ・ムンク・ラスムッセンもなかなかよかったが、もう少しアクの強さがほしいと思った。マンドリカのトーマス・ヨハネス・マイヤーは、とてもよかった。このくらい歌ってくれれば十分。マッテオのオリヴァー・リンゲルハーンは声が出ていなかった。かなり苦しい。妻屋秀和、初鹿野剛ら日本人歌手たちに不満はない。フィアッカミッリの天羽明惠はさすがの歌唱力! 本当にこの人は何をやっても独特の迫力で存在感を示す。

第三幕になってから、やっと私はオペラに入り込めた。声とオケがやっとうまく絡み合うように感じた。最後になると、やはりシュトラウスの素晴らしい音楽に心の底から感動していた!!

演出に関しては、オーソドックスで、見た目が美しい。最後のホテルの場面は、雪がとてもきれい。階段も美しかった。

実は『アラベラ』(あえて『アラベッラ』としない)は、高校生のころからなじんだオペラだ。カラヤン+シュヴァルツコップの有名な『ばらの騎士』のレコードに耽溺した私は、ショルティ指揮、ウィーン・フィルの、デラ・カーザがアラベラを歌ったレコードを買った。ところが、何度聞いてもあまり面白くなかった。『ばらの騎士』とはずいぶん差があるなと思ったのを覚えている。その後、実演も何度か見、DVDも何枚か見たが、やはり『ばらの騎士』ほど好きにはなれない。今日も、最後には感動しながらも、『ばらの騎士』のように涙を流すには至らなかった。

オペラを見ながら、ひょいと思った。『アラベラ』は『さまよえるオランダ人』のパロディではないか?! 拙著『ヴァーグナー 西洋近代の黄昏』でも書いたとおり、『ばらの騎士』と『ナクソス島のアリアドネ』は『トリスタンとイゾルデ』のパロディなのだから、「アラベラ」だってワーグナー作品のパロディであっても不思議はないだろう。

お金に弱いヴァルトナー=ダーラント、異郷から来てふんだんに金を持ち、娘と結ばれようとするマンドリカ=オランダ人、頼りないマッテオ=エリック。オランダ人の肖像画の代わりにトランプ占いがあり、幽霊船の代わりにフィアッカミッリという謎の女が登場する。アラベラとズデンカが『オランダ人』のゼンタの二面性を表す。『オランダ人』では、最後に二人は昇天するのだが、『アラベッラ』では、二人は階段から下りてくる・・・と考えてみたが、もちろん、ちょっとした思いつきにすぎない。もう少し考えてみたいと思った。

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コメント

>拙著『ヴァーグナー 西洋近代の黄昏』でも書いたとおり、『ばらの騎士』と『ナクソス島のアリアドネ』は『トリスタンとイゾルデ』のパロディなのだから、「アラベラ」だってワーグナー作品のパロディであっても不思議はないだろう。

「アラベラ」=「オランダ人」説は面白いですね。
全く思ってもみなかったですが言われてみるとこれは十分あり得る気がします。
「ばらの騎士」も製作当時の作者達の往復書簡で主人公四人の関係について「マイスタージンガー」のザックス&エヴァ&ヴァルター&ベックメッサーの関係に対比させていますね。
そういや故若杉弘はバイエルン歌劇場の「アラベラ」のTV放送でスタジオゲストで招かれた時、「アラベラ」はシュトラウス版「コジ・ファン・トゥッテ」なんだと力説してました。
ドイツの作曲家がオペラを作る時にモーツァルトやワーグナーを意識しないはずが無いので、ひそかに二重三重にパロディというかリスペクトしているというのはありそうですね。
大体「アラベラ」って中身はともかくストーリーだけ考えれば丸っきりオペレッタそのものですよね。もっと単純な台本だったらレハールが音楽をつくけてもおかしくないです。
破産した貴族の娘が絶世の美女とか男に化けた少女とかハンガリーの田舎からやってきた大金持の色男とか舞踏会の歌姫とか・・・オペレッタの世界の登場人物そのものです。
このオペラを見てるとウィンナ・オペレッタに対する当てこすりや批判に思えます。
「オペレッタだってちゃんと作ればこれだけ素晴らしい作品が作れるんだぞ!」みたいな。

投稿: k | 2010年10月18日 (月) 15時40分

k様
コメント、ありがとうございます。
シュトラウスとホフマンスタールのコンビ、なかなかしたたかで、あらゆるものを混ぜ込み、そこに何かしらのメッセージを織り込んでいるように思います。そして、それぞれ相手に悟られないように、そっと自分の思いを紛れ込ませているところもありそうです。
レハールなどを意識しているというご指摘、なるほど、そうかもしれません。まさに宝塚的な題材ですよね。
ただ、私の仮説、まだまだ不十分だと思います。もう少し根拠が見つかるといいのですが。もう少し考えてみます。

投稿: 樋口裕一 | 2010年10月19日 (火) 09時41分

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●2010-2011聴いたコンサート観たオペラはこちら.今日はアラベッラ観劇。1 [続きを読む]

受信: 2010年10月17日 (日) 15時20分

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