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ウェルザー=メスト指揮のアポロ的ブルックナー

 17日、サントリーホールで、ウェルザー=メスト指揮、クリ―ヴランド管弦楽団の演奏で、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」、武満徹「夢窓」、そして後半はブルックナーの交響曲第7番を聴いた。ドビュッシーと武満については、私は準備体操と考えて、ブルックナーに備えた。

 

 ブルックナーに関しては、これは実にすばらしい演奏。

 ただし、興奮させることのない、極めて知的で、アポロ的な演奏。あえて興奮させまいとしているかのよう。できるかぎりこけおどしをせず、耳をつんざくような大音響で観客を圧倒しようともしない。金管の咆哮もない。室内楽的といえるようなブルックナー。激しい音楽だけでなく、優しい響き、時にユーモアにあふれる響きまでもブルックナーから取り出している。

 クリ―ヴランド管弦楽団の性能も素晴らしい。かつて、ドホナーニの時代に聞いて、その見事さに圧倒された記憶があるが、今も変わらない音色。弦もさることながら、木管楽器が特に見事。

 聴くうちに、長谷川等伯の楓の図を思い出した。かなり突飛な連想だと思ったが。

 ほかの指揮者のようにブルックナーによって大宇宙を作り出すわけではない。スケールが小さいといえば小さい。長谷川等伯の襖絵のような、比較的小さな空間の中の宇宙。しかし、それはこの上なく濃密で完成され、色彩的でしかも宗教的。会場全体をブルックナーの音響で包み込むのではなく、もっと客観的に一幅の見事な絵を見せてくれる。リアルで、色彩に富み、全世界を襖絵の中に押し込んだかのよう。

 本当に見事だと思った。しなやかで美しく、しかもきびきびとしてリズミカル。そして、何よりもクール。指揮する姿も、そして、指揮が終わって奥に戻る姿も、すたすたと何事もなかったように歩く。興奮など、この人の辞書にはないみたい。

 私は大いに感動した。が、同時に、やはりつんざくような大音響に興奮したいという思いを消し去ることはできなかった。

 私は、ヴァントやドホナーニのような知的でアポロ的なブルックナーが大好きだ。ウェルザー=メストもその典型的な一人だ。だが、やはりブルックナーは、おどろおどろしく不定形なものなのではないかと時々思う。ブルックナーがこんなに緻密に計算されつくされた曲を書いたとは思えない。もう少し、どたばたやってもいいのではないか。ウェルザー=メストの指揮は素晴らしいとはいえ、やはりちょっと物足りないと思った。

 が、これがウェルザー=メストの個性なのだろう。それはそれで、とても面白い。

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コメント

樋口さん、こんばんは。

メストさんのブルックナー、美しいですよね。
私はリハも見学できたのですが、音符の長さや強弱にかなり気を使っていて、「なるほど」と納得した次第です。

「浪花節」好きの日本人には、あの演奏は淡白に聴こえるかもしれません。しかし、オケの美しさと、指揮者の手垢のついていない清涼な解釈は、評価されてもいいでしょう。評論家はボロクソに書きそうですがねぇ・・・。

彼の新譜のワーグナー管弦楽集(DG)も面白いですよ!ワグネリアンのなかには、「これはワーグナーではない!!!」と怒り出す人がきっといるでしょう。私も最初戸惑ったのですが、聴いているうちに、かつてないワーグナーであるような気がしてきました。更にオススメはLPOとのマーラー4番なのですが、樋口さんはマーラー嫌いでしたよね?残念。

18日の「エロイカ」は、冷静な彼がうなり声まであげていました。熱演でした。前半の内田光子さんとのコンチェルトには、天皇・皇后両陛下がご臨席!会場はものすごい緊張感でした。

投稿: ねこたろう | 2010年11月19日 (金) 21時57分

ねこたろう様
コメント、ありがとうございます。
18日、彼が興奮していたのですか! 聴きたかったですね。
コンサート通いが習慣になってしまって、原稿が捗りませんので、ちょっとセーブしようと思ったのでしたが、そのような話を聞くと、実に悔しい気持ちに襲われます。
ワーグナーのCD、聴いてみることにします。「タンホイザー」などの全曲の映像は見ましたが、緻密でえぐるような表現にわくわくしました。

投稿: 樋口裕一 | 2010年11月21日 (日) 08時10分

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