« 講演と対談の数日。そして時間の経つのが速いこと。 | トップページ | 印象に残ったCD »

最近聴いた歴史的名演CD クラウス、テンシュテット、ネマニャ

 忙しくてなかなかCDを聴く時間が取れない。机のすぐ横に未聴CDの文字通りの山があり、それがますます高くなっている。そんな中、最近聴いたとびっきりのCDをいくつか紹介したい。以下に挙げるのは、いずれも歴史的名盤だと私は思う。

121 ・ワーグナー『ニーベルングの指環』 クレメンス・クラ ウス 1953年バイロイト・ライブ

 1970年代に非正規版のレコードを入手して以来、愛していた録音がやっと正規版のCDとして発売された。モノラルとはいえ、鮮明な音で録音されている。演奏は、まさしくバイロイト黄金時代にもの。ブリュンヒルデを歌うアストリッド・ヴァルナイの異様な色気のある歌が素晴らしい。ジークフリートはヴィントガッセン、ヴォータンはホッター。クラウスのきびきびとした音作りは、実にドラマティック。クナッパーツブッシュの重々しいのもいいが、クラウスの鋭さはそれ以上の迫力。クラウスの「オランダ人」もものすごい演奏だが、それに匹敵する。これを聴くとクラウスは実は稀代のワーグナー指揮者だったことを痛感する。最高の『リング』といってもいいのではないかと思う。

688 ・ブルックナー 交響曲第八番 クラウス・テンシュテット 1981年 ベルリン・フィル

 先ごろ、テスタメントから発売されたシリーズの一つ。いずれも凄まじい演奏だが、とりわけ、ブルックナーの8番に圧倒された。実は、まるでマーラーのような音のするテンシュテットのブルックナーにはずっと違和感があった。テンシュテットのブルックナーは、男性的で渋い音ではなく、もっと豊穣で、ちょっとヒステリックな音がする。だが、それがある種のディオニュソス的な胸騒ぎを起こさせる。この演奏は、第一楽章からすでに全開。圧倒的な興奮をかきたてる。私はずっとテンシュテットをマーラー指揮者と思いこんでいて、真価を知ったのはかなり後になってからだった。だから、生は聴いていない。残念だった!

987_2・ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ 第5・7・8番 ネマニャ・ラドゥロヴィチ、スーザン・マノフ

 私が発起人の一人になってファンクラブを立ち上げようとしているネマニャの新譜。ネマニャにしてはおとなしい演奏だが、実にすばらしい。信じられないくらい音程のよい鋭い音によって、精緻でありながらも情熱的なベートーヴェンを築き上げていく。ここには、時々見せる激しい表情や目を見張るテクニックはない。むしろじっくりと音楽を聞かせてくれている。だが、そうであるからこそ、心の奥底にぐさりと刺さっていく。第5番「春」が、単にさわやかな曲ではなく、魂の奥から揺り動かし、静かに興奮させてくれる音楽になる。第7番は、荒々しい音で攻めて、最高の名演。最初と最後の楽章が興奮を呼ぶ。第8番も第2楽章のチャーミングさもいいが、やはり終楽章の荒々しい最後が圧倒的。

|

« 講演と対談の数日。そして時間の経つのが速いこと。 | トップページ | 印象に残ったCD »

音楽」カテゴリの記事

コメント

ご無沙汰しております。自分もテンシュテットはマーラー指揮者だと思っていましたが、1988年に来日し時のベートーヴェンを聴いてから、それだけではない指揮者だと思うようになりました。特にテンシュテットが体調を回復しはじめた時期に、ジェシー・ノーマンと録音したワーグナー作品集は、この人でワーグナーのオペラの全曲が残されなかったことがほんとうに悔やまれる出来となっています。このときはまだ正直本調子ではなく、じっさいそういう部分も感じられるにもかかわらずです。もう少し長生きしてほしかった指揮者です。

投稿: かきのたね | 2010年12月 4日 (土) 02時50分

すみません。あとクラウスですが、この人が亡くなる前年にバイエルン放送響と遺したライヴがとんでもなく素晴らしいです。ハイドンの88番、ラヴェルのスペイン狂詩曲、そしてRシュトラウスの家庭交響曲。特に最後のシュトラウスがあまりにも見事でして、終楽章のめくるめくような音の洪水と、最後のとんでもないくらいの強烈な一撃で、観客が大興奮してしまうというもの。もしこちらがまだ未聴でしたらお勧めいたします。それにしてもクラウスのワーグナー、もっと評価してほしいですね。この人゛あと十年健在だったらきっとさらに多くの名盤をステレオ録音で残してくれていたことでしょう。

投稿: かきのたね | 2010年12月 4日 (土) 23時06分

かきのたね様
コメント、ありがとうございます。
テンシュテットの日本公演、聴かれたんですね! 私は、そのあとでテンシュテットの注目し始めましたので、後の祭りでした!! 本当に後悔しています。聴かれた方を本当にうらやましく思います。
私が最初にテンシュテットに注目したのは、ジェシー・ノーマンとの共演のころからだったと思います。私は、当時ジェシー・ノーマンをだれよりも尊敬し、ほとんど追っかけていましたので。おっしゃる通り、ワーグナーの全曲盤を残してほしかったですね!
クレメンス・クラウスについてですが、私は中学生の時に「サロメ」のレコードを聴いて以来のファンなのです。カラヤン盤とは違った強烈で集中力にあふれる演奏です。巷ではクラウスは、「優雅」などと言われますが、ワーグナーやリヒャルト・シュトラウスを振る時には、誰よりも強烈でドラマティックです。ハイドンの88番や「家庭交響曲」、もちろん、聴いています。素晴らしい演奏だと私も思います。クラウスももっと高く評価されるべき指揮者ですよね。シューリヒトやクナッパーツブッシュよりも評価されてしかるべきだと思うのですが。

投稿: 樋口裕一 | 2010年12月 5日 (日) 08時35分

クラウスのリング最高でした。もともとクラウスの人物像を知らなかったのですが、最近小学館で発売している「ウイーンフィル 魅惑の名曲」でクラウスの話が出てきてから関心を持ち、購入したら、モノラルながらすごい演奏でびっくりしました。同時に
、ティーレマンと聴き比べをしていますが、録音状態が同じならどのような評価になるだろうとすごく関心のあるところです。先生は、どのような評価をされるのでしょうか?

投稿: たがの | 2010年12月20日 (月) 09時42分

たがの様
コメント、ありがとうございます。
ティーレマンも素晴らしいですね。私は08年のバイロイトで実演も見ましたが、圧倒的でした。
が、やはりクラウス盤のほうが指揮、歌手陣ともに上回っているように思います。主役格の歌手たちの存在感たるや凄まじいですね。
クラウス盤は、限りなくすべての中でのベスト録音ではないかと思うのですが。
ワーグナー指揮者、リヒャルト・シュトラウス指揮者としてのクラウスが、もっと再評価されてほしいとずっと思っておりました。

投稿: 樋口裕一 | 2010年12月21日 (火) 07時48分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/532807/50202221

この記事へのトラックバック一覧です: 最近聴いた歴史的名演CD クラウス、テンシュテット、ネマニャ:

« 講演と対談の数日。そして時間の経つのが速いこと。 | トップページ | 印象に残ったCD »