« 正月断想  マゼールのこと・イオランタのことなど | トップページ | 大野和士は巨匠なり! »

「クァルテット・エクセルシオ 慶応キャンパスコンサート」

 1月8日、今年初めてのコンサートとして、慶應大学日吉キャンパス協生館藤原洋記念ホールでの「クァルテット・エクセルシオ 慶応キャンパスコンサート」に行ってきた。

多摩大学で大事な研究会があったのだが、このブログで慶應大学の新谷先生にお誘いを受けて、行く気になった。私は多摩大学で学生が企画して行うクラシックコンサートのゼミを受け持っている。その参考にもなると思った。それに曲目にヤナーチェクの「クロイツェル・ソナタ」が含まれている。私は日本ヤナーチェク友の会の会員でもあることだし、行かないわけにはいかない。

 ほぼ40年ぶりの慶應日吉。昔、受験し(ついでに言っておくと、受験した2学部両方に合格したが、慶應にはいかなかった)、その後も友人が通っていたので、何度か遊びに行ったことがある。駅前のスロープには覚えがあったが、駅とその周辺の道路の変化には驚いた。昔のたたずまいの面影がまったくない!! 母校ではないのでどうでもいいのだが、ちょっとさびしさを覚えた。

 真新しいホールの見事さにもびっくり。音響的にも不満なし。学生さんたちの運営も破たんなく、きちんとしている。男女の学生によるプレトークに関しても、話の内容については、もうちょっと演奏者に向かって突っ込んでほしいところはあったが、堂々たる態度といい、話の語彙といい、私の指導する多摩大生には真似のできない見事さ。慶應ってすごい!と、素直に思った。

 学生たちがトルストイの「クロイツェル・ソナタ」を読んで、その解釈を話し合い、ヤナーチェクがこの曲をどのように音楽にしたかを考え、演奏家を呼んで演奏してもらい、外部の識者の話を聞いて演奏会を開く・・このようなことも、多摩大での指導の参考にしたいと思ったが、慶應だからこそできるという気がする。が、多摩大でも見習いたいもの。

 クァルテット・エクセルシオについては、評判は聞いていたが、なるほど、見事な四重奏団だ。少し前まで日本の室内楽のレベルはかなり低かったが、今や、世界に誇るレベルになっているのではないか。

 曲目は、前半にモーツァルトの若書きの弦楽四重奏曲第7番K160とヤナーチェクの弦楽四重奏曲第一番「クロイツェル・ソナタ」、後半にシューベルトの「死と乙女」。

 とりわけ、シューベルトの「死と乙女」はとてもよかった。ロマンティックすぎず、節度をもって、バランスの良い音を聞かせてくれる。

 ただ、ちょっと遠慮がちすぎる気がした。実力もあり、音も美しく、アンサンブルも絶妙なのだから、もっと自分の解釈を押し出していいのではないだろうか。強力なリーダーがいないせいかもしれないが、みんなが遠慮して、個性の弱い表情になっていると思えるところがあった。

 とはいえ、シューベルトに関しては大いに感動した。とりわけ第四楽章は素晴らしかった。音が絶妙に絡み合って、音楽を自分のものにしていた。

 が、実を言うと、ヤナーチェクはちょっと不満だった。私の大好きなヤナーチェクではなかった。

 この曲は、夫にしばりつけられ、恋を禁じられ、因習にがんじがらめにされた女の叫びをヤナーチェク特有の語法で描いたものだと思う。ヤナーチェクは作曲当時、年下の人妻カミラとの不倫の真っ最中で、トルストイの「クロイツェル・ソナタ」を読んで、まるで自分の恋が否定されているように感じた。そこで、小説の女性を正当化しようとして、この曲を書いた。第三楽章までは、因習にがんじがらめにされて、感情を押し殺されて喘ぎ疼く女の激しい叫びだ。そして、第四楽章、恋の賛歌になる。私はそう解釈している。オペラ「イェヌーファ」や「カーチャ・カバノヴァ」などのストーリーや音楽との関連で、そう捉えるのが最も妥当だと思う。

 が、今日の演奏家らはそれが感じられなかった。もっと疼きを激しく描き、それが恋の喜びに転化する感動を示してほしかった。

では、彼らはどのような解釈を示してくれたのか。それもよくわからなかった。もしかしたら、演奏家たちは、まだそのイメージがはっきりしていないのではないかと思った。シューベルトほど、音楽を自分の表現にできていないように思えた。それとも、私の理解できない何らかのイメージがあったのだろうか。

 私は、クァルテット・エクセルシオが「クロイツェル・ソナタ」についてどのような解釈をしてくれるかを楽しみにしていたのだが、それが十分に伝わらなかった。

 アンコールはボロディンの弦楽四重奏曲第二番の第三楽章。これは、素晴らしい演奏。しっとりとしたメロディ、楽器の織りなす、まさしく妙なる調べ。

 ともあれ、全体的にはきわめて満足な一日だった。

|

« 正月断想  マゼールのこと・イオランタのことなど | トップページ | 大野和士は巨匠なり! »

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/532807/50530529

この記事へのトラックバック一覧です: 「クァルテット・エクセルシオ 慶応キャンパスコンサート」:

« 正月断想  マゼールのこと・イオランタのことなど | トップページ | 大野和士は巨匠なり! »