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二期会『サロメ』は歌に満足、演出に失笑

 2月26日、東京文化会館で二期会の『サロメ』を見てきた。ペーター・コンヴィチュニー演出で話題になっているもの。二期会には知り合いが多いし、一緒に仕事をしているので、こんなことを言うのは大変申し訳ないが、私はこの演出はあまりに安易で、退屈でしかたがなかった。もっとはっきり言って失笑するしかなかった。

 演奏は悪くない。とりわけ、歌手陣はみごと。サロメを歌った大隅智佳子がとりわけいい。透明で強靭な声でしっかりとドラマティックに、しかも繊細に歌ってくれた。ヨカナーンの友清崇も容姿、声ともに見事。ごく稀に声をコントロールできないところを感じたが、本番ではやむを得ないだろう。ヘロデの片寄純也もヘロディアスの山下牧子も難しい役をしっかりとこなしている。

 私は残念ながらダブルキャストのもう一つのほうは見られなかったが、顔触れから見て、そちらのほうもきっと素晴らしかっただろうと思う。二期会の歌手たちはすでにこのレベルに達していることに改めて驚いた。

 ただ、シュテファン・ゾルテスの指揮に関しては、無難なだけの演奏に思えた。『サロメ』で感じられるはずのスキャンダラスで刺激的な音響は最後まで感じられなかった。東京都交響楽団のしっかりとまとまり、美しい音は何度も感じた。だが、これではまるで『ばらの騎士』のよう。『サロメ』はこんな音ではないはずだ。何の曲だったか覚えていないが、ゾルテスの録音はいくつか聴いた記憶がある。もっと思い切りのよい音だったような気がしていたのだが、少なくとも今日は、まったく衝撃性のない音楽だった。

 が、やはり、私が何より失望したのは、コンヴィチュニーの演出だった。いや、私はもともとコンヴィチュニーが好きではないので、予想通りだったとうべきだろう。

 そもそも私は、いわゆる「読み替え」演出が好きではない。バイロイト音楽祭に行っても、突飛な演出に常に怒りを覚えている(ただし、カタリーナ・ワーグナーの『ニュルンベルクのマイスタージンガー』については、ただただ感動し、その才能の凄さに圧倒された!)タイプの人間だ。が、それにしても、今回の演出は、私は気に入らない。

 せっかくの『サロメ』のスキャンダラスで刺激的なところをすべてなくし、単に悪趣味で意味不明の妄想に仕立てあげてしまっている。コンヴィチュニーは、刺激的にしているつもりかもしれないが、あまりに陳腐であまりに安易な展開のために、『サロメ』が持っているはずのスキャンダラスな面は消えてしまっている。

 たとえば、小姓がサロメを殺して、みんなでその肉を食う場面があったり、死んだナラボート(しかも、ヘロデに殺されたことになっている!)の尻をはがして、何人もが死姦したり、ヘロディアスがヨカナーンを犯したり。だが、このようなことをすればするほど、ドラマの持つ本質的な衝撃度はなくなってしまう。次々とポルノ映画にでも出てきそうな場面が続くと、見ている人間は失笑するしかなくなる。

そのうえ、ヘロデは覚せい剤を打っているという設定! 確かにヘロデはまるで覚せい剤中毒患者のような妄想を口にする。だが、いうまでもないことだが、それを中毒患者ではない地位のある人間が語るから衝撃的なのだ。それを中毒患者が語ることにしてしまったら、衝撃がなくなる。

 それに、オペラの間中、歌手たちはさまざまな小芝居をしているが、そのようにオペラに小さな意味をたくさん含ませること自体、私はよく理解できない。舞台を意味で充満させ、音楽そのものの力から遠ざけていいものだろうか。歌手たちは、自分たちの演技に納得しているのだろうか。演出家を本当に尊敬し、その意図を理解し、それに同意して歌っているのだろうか。むしろ、演技が音楽の力、歌の力を殺していると感じていないのだろうか。大いに疑問に思った。

 そして、最後。なんと、ヨカナーンは殺されもせず、サロメと愛し合う。なんのこっちゃ!と思った。なんという安易。ますます音楽の持つ衝撃はなくなってしまう。

 きっとサロメは踊らないだろうし、ヨカナーンは井戸に閉じ込められていないだろうとは思っていたが、ここまで悪趣味な妄想を恥ずかしげもなく出してくるとは!

 このような演出を「新しい」とありがたがるべきではないと思う。私はむしろ、70年代に流行ったアングラ劇で使い古された方法をいまだに使っていると感じてしまう。こんな古臭い演出ではなく、もっと新しい演出、もっと衝撃的な演出が出てきてほしいものだと切に思った。

 ともあれ、私は二期会が大好きだ。次を期待しよう。

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コメント

予想通り、というか輪をかけて低劣な演出だったようで、氏を支持するスノッブ層もいつまでついて来るんでしょうかね。呆れました。やはり行かなくて良かった。

投稿: ISATT | 2011年2月27日 (日) 01時32分

ISATT様
コメント、ありがとうございます。
もちろん、お気持ちはよくわかります。ただ、二期会ファンの私としましては、とりあえずは、行ったうえで批判したいと思います。批判もオペラファンとしての在り方だと思いますので。
私としましては、批判するのであれ、ほめるのであれ、いずれにしても、オペラを盛り上げていきたいのです。
それにしても、もっと良い演出を見たいですね!

投稿: 樋口裕一 | 2011年2月27日 (日) 21時48分

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