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東京のラ・フォル・ジュルネ最終日 (5月5日)

 東京のラ・フォル・ジュルネの最終日もきわめて充実。素晴らしいコンサートがいくつかあった。明日は朝から鳥栖に出かけるので、最後のコンサートは行かずに、家に帰った。ドミトリー・リス指揮、ウラル・フィルの演奏はナントで聴いて、私の好きなタイプのブラームスにならないとわかっている(まるで、チャイコフスキーかラフマニノフのようだった!)ので、ファイナルコンサートは遠慮した。

 例によって、今日聞いたコンサートについて、忘れないうちに簡単な感想を記しておく。

・庄司紗矢香(ヴァイオリン)、シャニ・ディリュカ(ピアノ)によるブラームスの歌曲のヴァイオリン版、レーガーのロマンス ホ短調。最後にブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」。

レーガーについてはよくわからなかった。いかにもロマンスという感じの曲想だが、どうということはなかった。

  ブラームスのソナタについては、まっすぐに感情をぶつけるような演奏。率直で真正面から音楽に向かっている感じ。実に素晴らしい。ピアノも表情豊か。さすがというべきか。

最後の最後で観客席から携帯音が鳴った。私のすぐ横の席。実に残念。

・ロマン・ギュイヨ(クラリネット)とシュトラッセのピアノ、プラジャーク弦楽四重奏団の演奏で、望月京作曲「インテルメッツィ」 ブラームス クラリネット・ソナタ第1番、クラリネット五重奏曲。

  望月さんの曲は、よくわからなかった。私は現代音楽好きではない。ソナタはとてもよかった。ただ、ちょっと元気が良すぎる。若いクラリネット奏者だから当然だが、ブラームス晩年の曲なので、もう少し渋い方が私は好みだ。

五重奏曲は実に素晴らしい。老人の曲というより、若者が人生に傷ついて声をあげてないている感じ。これはこれで強く感動する。ゆっくりと、たっぷりとした演奏。決して感情過多ではないが、泣けてくる。感動に身が震えた。

・松山冴花のヴァイオリン、フランク・ブラレイのピアノ。まずピアノソロでシュトラウスの小品を2曲。ついでリストの「メレーニの結婚式のための祝婚曲」。メインはシュトラウスのヴァイオリン・ソナタ。最後に、ブラームスのFAEのソナタよりスケルツォ。

  どれも良かったが、とりわけメインのシュトラウスのソナタが素晴らしい。素晴らしいというか、むしろ凄まじい演奏。華やかでダイナミック。うきうきわくわくしてくる。見事なテクニック。ピアノも圧倒的。頭の中がお祭り状態になった。しばらく、シュトラウスのソナタの終楽章が頭の中で鳴り続けていた。

・久保田巧(ヴァイオリン)、村田千佳(ピアノ) ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番、シュトラウスのヴァイオリン・ソナタ。

2回連続、同じ会場でシュトラウスのソナタを聴くことになった。

 その前に演奏されたブラームスの3番は、実に真摯な演奏。いかにもブラームスらしい。ぐっと秘めた情熱がひたひたと湧き上がってくる。ただ、ちょっと真摯すぎて、もう少しハッタリというか、これ見よがしのところがあってもいいような気がした。

シュトラウスについても同じことを感じた。松山さんがこの曲を華やかで外面的に演奏したのに対し、久保田さんはかなり内面的に演奏している。華やかな部分も心の躍動として捉えているようだ。そのような解釈が成り立つことはよくわかるし、それはそれで説得力があるのだが、やはりこの曲は外面的に演奏する方が映える。私は松山さんの演奏の方が好きだった。

・アンリ・ドマルケットのチェロ、ミシェル・ダルベルトのピアノで、ブラームスのチェロソナタ第2番とシュトラウスのチェロソナタ。

  最高の演奏。ブラームスについてはちょっと若すぎる気がしたが、もちろんこれはこれで見事。が、私がもっと感動したのはシュトラウスのほう。昔、CDでよく聴いた曲だが、こんなに素晴らしい曲だったかと改めて思った。

シュトラウスらしく実に華やか。外面的といえばまさにその通り。若書きの曲でもあり、深い精神性などかけらもない。が、それがいい。音楽の楽しさそれ自体を感じる。心が躍動し、わくわくする。そして深く感動している。シュトラウス特有の感動。こうだから、私はシュトラウスが大好きなのだ。そして、そうしたシュトラウスの魅力を存分に味わわせてくれる演奏だった。

・勅使河原三郎(ダンス)、マリアンヌ・プスール(ソプラノ)、フローラン・ボファール(ピアノ)などで、シェーンベルクの「6つのピアノ小品」と「月に憑かれたピエロ」

おもしろかった。数年前、バッハの無伴奏チェロ組曲に踊りがついた時には邪魔だと思ったが、この曲に踊りがつくのは違和感がない。かなり不気味な踊りだが、この曲にピッタリ。

「月に憑かれたピエロ」を生で聴いたのは初めてだと思う。退廃と狂気とエロスの世界。人間精神の奥底を垣間見る気分になる。西洋近代の行き着いた先というべきか。ただ、ちょっと長すぎるなあというのが率直な感想。20分間ほどはおもしろく、かつ感動して見ていたが、それ以上続くと辛い。プスールの歌は素晴らしかった。

  子どもの客がかなりいたのには違和感を覚えた。この曲を子どもが楽しめるはずがない。内容を知っていれば、親も子どもを連れてこようとは思わないはず。もう少しきちんと広報すべきだっただろう。

 今回のラ・フォル・ジュルネで、子どもの存在が目立った。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンであれば、子どもがたくさんいても違和感はない。だが、後期ロマン派というのは、言ってみれば爛熟期の文化だ。世紀末の雰囲気も漂う。音楽としてかなり難しくもなっている。「浄夜」やブルックナーの交響曲や「月に憑かれたピエロ」を子どもが理解できるとは思えない。事実、ブルックナーの7番の演奏の際、子どもが大騒ぎして、周囲はかなり迷惑に感じたはず。このような演奏会に連れてくると、子どもを音楽嫌いにしてしまいそう。

子どもも一緒に楽しむのがラ・フォル・ジュルネのあるべき姿なのだが、今後、ラ・フォル・ジュルネを続けるにあたって、曲目によっては少し考え直さなければならない問題だと思った。

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2011年ラ・フォル・ジュルネ」カテゴリの記事

コメント

先生、今ごろは鳥栖のLFJを楽しまれている頃でしょうか?

ラストコンサートは客電がついてもずっと拍手がなりやまない状態でとても心打たれました!
皆、心はひとつ。LFJが大好きなのです。
スタッフの皆様お疲れ様でした。

ラスト曲は庄司さんのバッハ・シャコンヌBWV1004と勅使河原さんのダンスです。
庄司さんの演奏にはまたまた深く感動しました!
この曲は苦しくなるので苦手だったのですが、真摯な演奏を聞いているうちにふと 「あ、バッハが描きたかった世界はこれか」
という感じ方に変わりました。苦手意識が抜け落ちニュートラルな聞き方ができました。

VOSES8は人をハッピーにするグループ。客のハートを開かせ一つにさせてしまう天才♪
有料公演もとってもハートフルでした。愛や生きる喜び、楽しさが歌に表れているのです。

5日に聞いたブラ・ピアノ四重奏1番は、確かに先生の仰るとおり(笑)でした。しかしそれでも最初は抑え目にしてたみたいです。
最終楽章は圧倒的な超絶技巧でテンポもどんどん早くなり、とってもワクワクしました♪ 初心者の私は十分楽しめました。

ダルベルトとアンリのチェロソナタ、、当日券が奇跡的に入手でき、見ることができました。まずダルベルトのピアノに感動。。一流の音。ブラ・チェロソナタは勢いがあるのですがちょっと雑な感じがして私は??でした。でも次のシュトラウスは一転落ち着いていてじっくり深く奏でられていておお~でした。

今回のLFJはこの状況の中、来日してくれたアーティスト・スタッフ・お客さんの思いが集まり、また違った大きな感動を頂いたのでした。ありがとうございました。
先生もいつもレポート楽しく拝見してました。仰ること確かにその通りだなと思うことが多く(笑)
また楽しみにしています。長々とありがとうございました!

投稿: とぴか | 2011年5月 6日 (金) 13時24分

僕は家でFMで「今日は一日ラフォルジュルネ三昧」という番組を聴いていたんですが、夜中に放送した山田和樹と横浜シンフォニエッタが演奏したマーラー編曲のベートーヴェンの弦楽四重奏曲オケ版の演奏がもう実に実に実に(笑)スリリングでした。
先生もナントのラフォルジュルネで山田を聴かれたみたいですが、彼は全く驚くべき才能ですね。
山田は最近評判ですけど生来へそ曲がりな自分はマスコミが変に持ち上げてるのが胡散臭くて敬遠して一度も聴いた事が無かったんですが・・・いやはや圧倒させられました。
素直に脱帽です。

FMでシャーンベルクの「ピエロ」も放送してたんですが、あの曲を聴いて心から楽しめる人間て世の中に存在するんでしょうか(笑)?
僕はシェーンベルクでも「グレの歌」や「モーゼとアロン」は好きなんですが「ピエロ」って終始人間の神経を逆撫でするだけの音楽な気がします・・・ダンスみたいな視覚的な効果が伴えばそれなりに興味が続くのかもしれませんがう~ん・・・。
しかも大人ならともかくあれを子供に聴かせるなんて拷問と一緒ですね。

>このような演奏会に連れてくると、子どもを音楽嫌いにしてしまいそう。

確かに。
無理やり好きでもない音楽を無理やり聴かせられて退屈させられたら尚更クラシック嫌いを増やすだけになりそうです。
そもそも子供にクラシックを聴かせれば情操教育になるみたいな考え方はおかしいと思いますね。
子供には好きなアニメでもロックでも歌謡曲でもその子の好きな曲を聴かせるのが一番いいんじゃないでしょうか。

投稿: k | 2011年5月 6日 (金) 22時05分

とぴか様
庄司さんのシャコンヌ、ナントでも聴きませんでした! そんなことなら、東京のラストコンサートにも行くんだった!! 勅使河原さんのダンスも評判が良かったようですね。が、やはり、個人的には、バッハには視覚は要らないと思うんですけどね。
ともあれ、今年のラ・フォル・ジュルネもとても充実していました。もう今から来年が楽しみです。

投稿: 樋口裕一 | 2011年5月 8日 (日) 18時21分

k様
コメント、ありがとうございます。
私がナントで聴いた山田和樹の演奏は、ブラームスの二重協奏曲(庄司さんとヴァシリエヴァのソロ)でした。私は何よりも、ドミトリー・リスから山田さんに指揮が変わった途端に、ウラル・フィルからブラームスらしい音が出てくるのに驚きました。そして、小手先ではない骨のある音が出てきました。協奏曲でしたので、山田さんの個性は十分に出ていなかったかもしれませんが、只者ではないということは十分にわかりました。
シェーンベルク、それはそれでおもしろかったと思います。ただ、30分近くですと、かなりつらいですね。私も、実はこのタイプの曲は好みではありません。子どもたちが本当にかわいそうでした。きっと、親は、「ダンス」と書かれていたので、子供でも楽しめると思って連れてきたのでしょうが。もう少し、前もってプログラムに説明を加えてほしかったですね。
子どもにクラシックを聴かせるのはとても良いことだと思いますし、ラ・フォル・ジュルネはそのための音楽祭でもあると思うのですが、外で走り回るのが大好きな子どもに無理やりクラシックを聴かせると、クラシック嫌いの子ができてしまいそうです。そのあたりが難しいところですね。

投稿: 樋口裕一 | 2011年5月 8日 (日) 18時35分

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