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ライブビューイング「ワルキューレ」のカウフマン

新宿ピカデリーで、METライブビューイング「ワルキューレ」を見てきた。実は、METライブビューイングは初体験。映画でわざわざオペラを見ることはなかろう、映像だったらDVDを自宅で見たい時に見ればいいのだから・・と思っていたのだが、「ワルキューレ」は凄いからぜひ見るべきだと知人に言われて、重い腰を上げたのだった。

一言で言って、ジークムントを歌うカウフマンの凄さに圧倒された!! カウフマンはCDやDVDで凄さの片鱗は知っていたが、映画館の大型スクリーンで、しかも高価な音響設備で見ると、それがもっとリアルにわかる。声の美しさ、音程の良さ、歌い回しの正確さ、そしてもちろん容姿のいずれも最高。これほどすべてのそろったジークムント歌いはこれまでいなかったのではないか。ドミンゴはワーグナーを歌い始めたのが遅かったので、カウフマンはジークムントに関してはすでにドミンゴを超えている。

それにしても、今回のメトロポリタン公演でキャンセルになったのが残念。この人のドン・カルロを聴けたらどんなにすごかっただろう。

ジークリンデはエヴァ=マリア・ヴェストブルック(これまで、このブログでは、ウェストブロックと表記してきたように思う)。フンディングはハンス=ペーター・ケーニヒ。第一幕のこの三人の場面は歴史に残る名演だと思った。ヴェストブルックも容姿、歌ともに素晴らしかった。ケーニヒはもちろんいつも通り芸達者で、深い声は最高!

ブリュンヒルデはデボラ・ヴォイト、ヴォータンはブリン・ターフェル。ともにいい歌手だと思うし、よく歌っていると思うが、いかにもアメリカ的な歌い回しと演技だった。歌も顔の表情もとても豊かなのだが、あまりに人間的で、神々の話に思えない。そんな演出だといえば、その通りなのだが、もう少し人間離れした迫力ある演技と歌であってほしい。その点、フリッカのステファニー・ブライスのほうが説得力があった。

指揮はレヴァイン。ちょっと説明過多で散文的すぎると思うが、スケールが大きく、細かいところまで神経が行き届いている。私のもっとも好きなタイプのワーグナーではないが、十分に堪能できる。演出はロベール・ルパージュ。大がかりな機械を用いたものだが、十分に機械を使いこなしているとは思えなかった。せっかくの機械なのに、それほど活躍していない印象。演出に関しては、ヴァレンシア・リングのカルルス・パドリッサにはるかかなわないと思った。

とはいえ、「ワルキューレ」第3幕は、「神々の黄昏」第3幕や「トリスタンとイゾルデ」全幕とともに私の大好きな部分。声をあげて泣きながら見た。高校時代から大好きな場面だったが、20数年前に我が家に娘が生まれてからというもの、この場面は涙なしに見ることができない。娘を案じる父親の気持ちが痛いほどわかる。

映画館でオペラを見るのも悪くない。それに、やはりメトロポリタンオペラのレベルは本当に高い。これからちょくちょく見に行こうと思った。

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コメント

樋口先生

ライブビューイングの「ワルキューレ」をご覧になったんですね!
実は私は、この「ワルキューレ」を5月にNYCのMETにて2度実際に観てきました。
とにかくカウフマンの声というのは(ドイツオペラではアーテム(息)というのだそうですが)あのメトロポリタン歌劇場の4300人の観客を包み込むような不思議な空気、倍音を持っているのです。まさにAmazing Voiceです。
フィデリオ第2幕冒頭やマスネの彼のppもすごいです。シビレます。

私はとにかくカウフマンの大ファンなので、ジークムントに魅了され、ジークリンデに感情移入し、第2幕後半の「高貴なあなたに抱かれる資格はない」というところでは嗚咽を押さえるのに必死でした。

ライブビューイングでは、バックステージのインタビューも楽しいですね。
今回カウフマンにインタビューしたのはドミンゴ。
新旧ドンカルロ対決?などと思いながら楽しませてもらえました。

ターフェルへインタビューしたディドナートが、「ジークムントになんてことを!」と楽屋でヴォータン役のターフェルの胸を叩くのですが、私も同じ気持ちでした!(笑)

METでは、ドイツ語と英語の字幕を両方出して贅沢に鑑賞できるのですが、
帰って来てライブビューイングで観ると、リラックスできますし気づかなかった細かいことがよくわかってこれまた最高です。

演出では例えば、ジークリンデがフンディングに怯えながら食事を出す場面では、セットの手前からチラチラと微かにかまどの火がジークリンデの顔にあたるのです。ジークリンデの言葉にできない感情が良く出ていると思いました。
私がワグナーをもっと勉強していれば演出家のいろいろな伏線に気づくかもしれないです。

ブライス演じるフリッカはすごい迫力。怖かったですね!
神々の長であるヴォータンがフリッカに頭が上がらないところも、おそらくフリッカがあのイスにどっかり座っていることで上下関係を演出しているのだと思いました。

演出ですが、あの「マシン」は今期の「ラインの黄金」から来季の「神々の黄昏」までのリング・チクルス全編で使用されるのだそうです。
あの「マシン」が、トネリコになったり、小屋になったり、雪山になったり、騎行の馬になったりとするところが私はすごい演出だと思うのですが、チクルス全部観ると面白いかもしれないです!

私は、このワルキューレをMETで2回、ライブビューイングで2回行きましたが、もう1回観たいです!実は、前日にNHKホールでMETのドン・カルロを観たのですが、それよりもライブビューイングのワルキューレに興奮してしまったくらいです。
前回の来日ではそこまで思わなかったのですが、実際にNYCのメトを経験すると、リンカーンセンターで観なければメトロポリタンオペラではない、というのが生意気ですが正直な感想です。

ドン・カルロは、ROHでの配役、カルロにカウフマン、ロドリーゴにキーンリーサイドであれば、友情の二重唱が最高です。これで来日はまずムリですね。こちらから行くしかないですね。

先生のブログに興奮してしまい、駄文で長々と失礼いたしました!

投稿: Tamaki | 2011年6月14日 (火) 23時10分

Tamaki様
コメントありがとうございます。
あのライブビューイングを見ると、何度も見たくなる気持ちはわかりますね。男でも、カウフマンのジークムントを見るとうっとりするのですから、女性でしたらなおのことでしょう。「高貴なあなたに抱かれる資格はない」、確かにぐっと来る場面でした。私は第二幕では、子どもを宿したことを知ってジークリンデが生きる気力をよみがえらせるところ、しばしば声をあげて泣いてしまいます。今回もそうでした。
それにしても、カウフマンとヴェストブルックだと「双子」という設定に説得力がありますね。かつてのDVDでは、ペーター・ホフマンとジェシー・ノーマンというのもありましたが。
リンカーンセンター、ぜひとも行きたくなりました。リングを通して上演する機会があったら、今度はぜひ足を運びたいと思っています。

投稿: | 2011年6月16日 (木) 15時32分

>かつてのDVDでは、ペーター・ホフマンとジェシー・ノーマンというのもありましたが。

かつてのメトのDVDなら、ゲイリー・レイクスとジェシー・ノーマンです。

この初演出時はペーター・ホフマンとジャニーヌ・アルトマイヤー。バイロイト1980年のDVDと同じでした。

投稿: | 2011年7月13日 (水) 08時38分

投稿者様
いつの間にか、ホフマンとノーマンだったと勘違いしていたようです。そういえば、そうでした。失礼しました。訂正、ありがとうございました。

投稿: 樋口裕一 | 2011年7月14日 (木) 08時16分

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» METライブビューイング ワルキューレ シンプルな演出と巧妙なセリフまわしが生み出す、より深い解釈。 [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
2週間近くも前に見たのに、今更ここで取り上げるのは、実は前のエントリーと関係が。 今回のMETライブビューイングで今回最も刺さったのが、3幕でのヴォータンと娘ブリュヒンデ(写真)のやり取り。 ヴォータンの決定的な自己矛盾をはらんだ指示を、娘ブリュヒンデが...... [続きを読む]

受信: 2011年6月25日 (土) 05時44分

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