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新国立劇場「コジ・ファン・トゥッテ」への違和感

6月5日、新国立劇場公演「コジ・ファン・トゥッテ」を見てきた。一言で言って、かなり満足できる出来栄えだった。が、不満もないではない。

このオペラ、中学生のころにレコードを買って以来、45年以上にわたって聞いてきた。が、大好きなオペラというわけではない。それどころか、ずっと違和感を覚え続けてきた。

私が買ったのは、当時有名だったベーム指揮、フィルハーモニア管弦楽団、シュヴァルツコップやクリスタ・ルートヴィヒ、アルフレード・クラウス、ヴァルター・ベリーらが歌ったレコードだった。今から考えるに、私の違和感を一言で言うと、「こんなありそうもない話なのに、いかにもリアルに、生真面目に恋の悩みを歌うなんて、おかしくないか?」ということだったと思う。とりわけ、当時、私が大好きだったシュヴァルツコップの歌唱に、それを感じた。

もちろん、とてつもなくうまい。許婚者がいながら、別の男に魅かれてしまった女心をしっとりと激しく歌う。ルートヴィヒも同じように、力強く恋心を歌う。まさしく、近代的自我の持ち主の歌だ。指揮も張りがあって素晴らしい。が、そうであればあるほど、話がリアルでないので、ギャップを感じてしまう。しょっちゅう会っている人がちょっと仮装しただけなのにまったく気づかず、女中が男のふりをしても信じ込んでしまい、しかも、あまりに図式的に話が進んでいくオペラの中で、こんなに知的に歌われても、聴いているほうは困ってしまう、そう思っていた。

そして、10年ほど前、初めてクイケン指揮、ラ・プティット・バンドのピリオド楽器によるCDを聴いた。目からうろこが落ちる思いがした。ここで歌われるのは、近代的な自我を持った女の心ではなかった。もっと類型的な人物、いわばコメディア・デッラルテのような登場人物だった。前近代的な人物、近代的な自我に目覚める前の、深い心理を持ったわけではない、もっと図式的な人物だった。だが、そうであるだけに、いっそう生き生きとしていた。そして、そうやって歌われる重唱やアリアは、むしろ別の意味のリアリティを持っていた。その時、「これこそが、『コシ・ファン・トゥッテ』の魅力なんだ!」と思ったのだった。

そして、今日の公演。

何と、舞台は現代のキャンプ場。フィオルディリージもドラベッラも貴族の令嬢ではなく、キャンプ場の客。ドン・アルフォンゾは、キャンプ場のオーナー。まさしく、このオペラを普遍的な話として描いている。

それはそれで、悪いとは言わない。それなりに面白い。現代の服を着た若者が、チェンバロの伴奏でレチタティーヴォを歌い、モーツァルトのゆっくりとしてメロディを歌うというのは妙な感じがしないではないが、このごろの演出の中では、悪くないほうだと思う。

歌手陣もかなり健闘。だが、舞台が現代であるだけに、徹底的に近代以降の自我を持った登場人物たちの心の葛藤として音楽を描いていく。私がずっと聴いていたベーム、シュヴァルツコップの録音よりももっと近代的、現代的に描いている。私がずっと抱いていた違和感が、またしても頭をもたげてきた。

私としては、心の深い悩みなどを深刻に歌うのでなく、もっとあっけらかんと類型的に歌ってほしかった。前近代のドタバタ劇のようにして歌ってほしかった。少なくとも、そのほうが私の好みだ。

歌手は粒ぞろいといってよいと思う。図抜けた人はいなかったが、全員が高レベル。私は、ドラベッラを歌ったダニエラ・ピーニとグリエルモを歌ったアドリアン・エレートが気に入った。ドン・アルフォンソを歌ったローマン・トレーケルは、バイロイトでも何度も聴いた好きな歌手だが、ちょっと気まじめすぎると思った。もうすこし、笑いがこみあげてくるような歌い方をしてくれるほうが、私は楽しめる。

新国立劇場の公演の際に常に感じる通り、今回も指揮については、かなり不満に感じた。じっくりと歌わせようとしているのか、全体的にかなり遅いテンポで、音楽を推進していかない。もっとぐいぐいと引っ張ってくれていいのではないか。東フィルについては、もう少し情感のある音がほしいと思ったが、大きな失敗もなく、しっかりとつけてくれた。

不満は感じたし、割り切れなさは残ったが、このレベルのオペラを日常的に見られるというのは、凄いことだ。改めて、新国立劇場の力のほどを知った。それにしても、いつの日にか、私が理想とするような「コジ・ファン・トゥッテ」の公演を見たいものだ。

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音楽」カテゴリの記事

コメント

はじめまして。
コメントを楽しく拝見させて頂きました。
この新国のコジの公演前に、
舞台美術のトークがあったので、着てきていながら、忙しく見にいかれず、このコメントを見て、ふむふむ、と(^^)

私どももオペラの制作をしております。
そして、11月にコジを行ないます。
フォルテで最近よくご出演の、小山陽二郎氏が音楽監修をしています。勿論、出演もします。
演出の松本重孝さんのコジの解釈、大変納得させられての上演です。宜しければ、ご覧になって、またコメントを頂きたいと思いまして、、、ちょっとお邪魔を。。(*^_^*)
いかが、当方の公演のブログです。宜しければ。

★はなみがわ風の丘HALL★
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投稿: 風の丘mimi | 2011年6月12日 (日) 10時38分

大澤ミカ様
コメント、ありがとうございます。
ご活動の様子、ネットで拝見しました。とても素晴らしい活動をなさっているんですね。知りませんでした。11月にはぜひうかがおうかと思います。
もしかすると、理想の「コジ」と出会えるかもしれません。

投稿: 樋口裕一 | 2011年6月13日 (月) 14時25分

早々のコメントを頂き恐縮です。ありがとうございます。嬉しいです!!
はい、せひいらしてください。私も大変期待をしております。
notes

投稿: 風の丘mimi | 2011年6月14日 (火) 12時31分

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