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バイエルン国立歌劇場「ローエングリン」はちょっと物足りなかった

 9月25日、NHKホールでバイエルン国立歌劇場公演「ローエングリン」をみた。指揮はケント・ナガノ。演出はリチャード・ジョーンズ。ローエングリンは、カウフマンがキャンセルになって、代役はヨハン・ボータ。

 第一幕の前奏の出だし、あの精妙なはずの弦の音が、あまり精妙ではなかった。第三幕への前奏も炸裂しないまま。合唱もバランスが崩れることが何度かあったし、オケと歌手の微妙なずれも何度か感じた。ともかく、全体がぴしっと決まらないままだった。

 本番中は、もしかしてまだオケ団員達の時差ボケしているのか、それとも、CDで聴くとあんなに素晴らしいケント・ナガノの実力というのは、こんなものなのだろうかと思っていたが、その後、放射能汚染を理由に、バイエルン国立歌劇場の団員100人が来日を拒否したというニュースを聞いた。そのせいで、オケがうまく機能しなかったのかもしれない。彼らの実力がこんなもののはずがない。

 とはいえ、もちろん、悪くはない。ボータのローエングリンも、容姿の上でのカウフマンとの差は限りなく大きいが、歌唱の面では、遜色ない。が、そうは言うものの、このオペラでの主役の容姿はかなり大きな意味を持つ。150キロのボータがどたどた歩いても、少しも高貴に見えないのが苦しい。

エルザのエミリー・マギーは、きれいな声で、悪くないのだが、あまりに線が細い。テルラムントを歌ったアフゲニー・ニキーチンは真面目な悪役ぶりがおもしろい。伝令を歌ったマーティン・ガントナーもとてもよかった。ハインリヒ王のクリシティン・ジークムントソンはちょっと期待外れだった。もっと太い声がほしかった。

圧倒的だったのは、オルトルートを歌ったワルトラウト・マイヤー。ちょっと声のコントロールが全盛期ほど完璧ではないと思ったが、声の迫力と存在感は相変わらず。

ただ、第二幕の悪役二人が復讐を誓う暗黒の場面は、ナガノの指揮、あるいはオケの精度のせいか、不燃焼気味だった。もっとどす黒い悪の世界を聞かせてほしかった。

演出はあまり好きではない。あまりに単純。この物語全体を、エルザが家を建てようし、それをローエングリンが手伝うものの、オルトルートとテルラムント二人の悪役によって邪魔される・・という話にまとめている。従来の形而上学的な解釈を否定して、あくまでも形而下的な物語にしようということだろう。そして、この家は、労働者階級の夢としての家ということらしい。手伝うのが、Tシャツを着た労働者階級っぽい人々。テルラムントの仲間たちはネクタイ姿のプチブル階級として描かれる。労働者階級の夢であった家の建設(もしかしたら、社会主義国家の建設というかつての東ドイツの夢が重ねられているのかもしれない)が、ブルジョワ階級の手先によって邪魔され、崩れてしまう物語といえるだろう。

この「ローエングリン」をそんな下世話の話にしてしまったら、つまらなくなってしまうと思うのは、きっと私が昔のワーグナーにとらわれすぎているせいなのだろう。が、そうは言いつつ、ドイツで放射能が大きな話題になっている中、来日してくれたことには感謝するばかり。

 少し不満を抱きながら、帰った。

 ついでに愚痴を。帰りに新宿の駅ビルのベトナム料理屋に一人で入って、フォー(ベトナムうどん)の定食と生ビールを注文したら、生ビールは来ないまま、伝票にだけビール代金が加算されていた。結局、ビールはキャンセルした。フォーは箸で食べようとすると、切れてしまって口に入らないほどふやけていた。味自体は悪くないが、箸で食べられないフォーなんて、聞いたことがない。仕方がないので、スプーンですくって飲みこんだ。しかも、支払いにずいぶん待たされた。忙しい時間帯だったのかもしれないが、苛立ちを覚えた。

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コメント

樋口さん、こんばんは!

バイエルン来日公演、行かれたのですね。

ナガノの実力はあんなものではありません!7月にミュンヘンで「トリスタン」を聴きましたが、ナガノは完璧な統率力を示し、大ブラヴォーをさらっていました。新国での大野和士の演奏が翳んでしまいました…。(バイロイトなど論外。)

オーケストラの実力も、ザルツブルクにおけるティーレマン&ウィーン・フィルと並び、私が聴いた中では当代最高だと思います。メータ時代はなんともモッサリしていましたが。

今回の来日は、態勢が万全ではなく、評判は絶賛とまでは行かないようですが、ナガノには感謝したいです。

あと、イヤミっぽくなってしまうのですが、ブロムシュテット&N響も凄かったです…。未完成&ブルックナー7番ともに、晩年のヴァントを凌いでいたと思います。チェコ・フィルとの8番も大いに感激しましたが、今回はそれ以上でした。もちろん、昨年の読売&スクロヴァチェフスキ以上。終演後はブラヴォーが鳴り止みませんでした。ブロムシュテットは、とんでもない巨匠に化けたと思います。

あと、樋口さんに質問なのですが、ティーレマンって日本と海外では別人のようですよね?コンサートではなく、シュトラウスのオペラを振れば、日本での評価が一変するのに…。ザルツブルクでの「影のない女」は最高の名演で、今後同じ演目を聴くのが怖いくらいです。

投稿: ねこまる | 2011年9月26日 (月) 19時38分

ねこまる様
ナガノの実力はあんなものではないでしょうね。そう思います。万全の状態で聴いてみたいものです。
ブロムシュテット、聞けなかったこと、悔やんでいます!! 
ティーレマンは、日本では3回聴いたのですが、いずれもそれほど感動するような演奏ではありませんでした。
初来日の「オランダ人」は悲惨な出来で、私はティーレマンを、実力もないのに昔風の演奏をするために人気が先行した三流指揮者と思ったものでした。2回目と3回目はブルックナーでした。「オランダ人」よりはずっと良かったのですが、そして、みなとみらいで聴いたミュンヘン・フィルとの8番はかなり良かったのですが、驚嘆するほどではありませんでした。
ティーレマンがすさまじい指揮者だと認識させられたのは、バイロイトの「リング」でした。そして、今年のザルツブルクの「影のない女」。本当に日本での演奏と同じ指揮者とは思えません。一つ一つの音、そして指揮ぶりからして、まったく違いますよね。
時差ぼけに弱い人なのか、日本の風土と合わないのか、日本に来るとついよからぬ所に行って遊んでしまうのか、日本人がクラシックを理解できるはずがないと思って手を抜いているのか…不思議です。私もバイロイトやザルツブルクで聴いていなかったら、今でも、「ティーレマンは過大評価されている」と思っていたかもしれません。近いうち、多くの日本のファンに実力を知らせてほしいですね。「影のない女」を持ってきてくれると嬉しいのですが。

投稿: 樋口裕一 | 2011年9月27日 (火) 09時37分

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