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バイエルン国立歌劇場来日公演「ロベルト・デヴェリュー」のグルベローヴァに大感動!

 10月1日、バイエルン国立歌劇場公演「ロベルト・デヴェリュー」を見た。言うまでもなく、この演目は、エリザベッタを演じるエディタ・グルベローヴァを見るためのもの。予想にたがわず、素晴らしかった。

 私が初めてグルベローヴァの名前を知ったのは、1970年代のFM放送によるザルツブルク音楽祭のカール・ベーム指揮、「ナクソス島のアリアドネ」だった。昨日のことのように覚えている。

私の大好きな「アリアドネ」をベームが振り、しかもカラヤン指揮のサロメ録音で圧倒的な歌唱を聴かせてくれたベーレンスがアリアドネを歌うというので、期待に胸を膨らませてFM放送を聞いたら、ベーレンスはさほどではなく、ツェルビネッタを歌ったグルベローヴァが凄まじかった。いっぺんにグルベローヴァのファンになった。

 その数年後の1980年のウィーン国立歌劇場来日公演でグルベローヴァは来日し、ベーム指揮で当たり役のツェルビネッタを歌った。上野の文化会館全体が、グルベローヴァの歌声でビンビンと響き渡った。あれほどまでの声の力にうち震えたのは、私の経験では、あの時のグルベローヴァとジェシー・ノーマンの2回だけだ。終演後、会場を歩いていたらオーストリアのテレビ局にインタビューされた。通訳を通して「ベームはどうでしたか」と聞かれたので、「ベームもよかったが、それ以上に、グルベローヴァの素晴らしさに圧倒された」と答えたのを覚えている。が、放送されたかどうかわからない。その後、出口で待ち構えて、バスに乗り込むグルベローヴァにサインをもらった。

 知り合いの演奏家と前もって約束をしているとき以外には楽屋を訪れたり、出口で待ち構えたりすることのない私としては、サインをもらったのはごくまれなケース。その時の感動がいかに大きかったかわかろうというものだ。

 次にグルベローヴァの実演に接したのは、2000年。ウィーン国立歌劇場公演の、今度もまた「ナクソス島のアリアドネ」。シノーポリ指揮だった。80年ほどの凄まじさではなかったが、この時も素晴らしかった。

 今回はそれ以来のグルベローヴァ。イタリアオペラでのグルベローヴァは初めてだった。

 30年ほど前に比べると、声の輝きにはだいぶ衰えがあると思えた。80年の声はこんなものではなかった。が、65歳の女性の声とは思えない。相変わらず、声の迫力は素晴らしい。グルベローヴァが歌うごとに感動に震えていた。

 ほかの歌手たちも粒ぞろい。ロベルト・デヴェリューを歌ったアレクセイ・ドルゴフも、ノッティンガム公爵のデヴィッド・チェッコーニも音程もしっかりし、声も美しく、外見も申し分ない。サラを歌ったソニア・ガナッシも太めの声で迫力満点。ロベルトの召使役のニコライ・ボルチェフも端役ながら素晴らしい美声だった。

 指揮のフリードリヒ・ハイダーもなかなかよかった。グルベローヴァの伴奏家にして夫君という認識しかなかったが、なかなかいい指揮者ではないかと思った。きびきびした音づくりで、要所要所で十分にドラマを堪能させてくれる。

 演出はクリストフ・ロイ。DVDで販売されているものと同じ演出だ。あまり演奏の邪魔にはならないが、特におもしろいとは思わない。というか、私は、このオペラに関しては、DVDでこの演出を見て、あとはマルチェロ・ロータ指揮、テオドシウが歌うCD(これもなかなかの演奏!)を聞いたくらいなので、演奏や演出についてあれこれ言う資格はない。

 ドニゼッティの作曲なので、底が浅いと言えば、その通り。ワーグナーやシュトラウスを聞き慣れた耳には、ストーリーの安易さもドラマとしての浅さもオーケストレーションの弱さも感じないわけにはいかない。が、美しいメロディ、歌手たちの圧倒的な歌唱があれば、十分に楽しめる。

 ともあれ、グルベローヴァの歌声で胸をいっぱいにして帰途についた。

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コメント

樋口さん、おはようございます。

演出は、ザルツブルクの「影のない女」で、「ティーレマンと歌手は最高だったが、演出を理解できたのはたったひとりしかいなかった」と悪評を書かれたロイでしたか(笑)

彼は変態ですが、才人だと思います。

投稿: ねこまる | 2011年10月 2日 (日) 02時16分

はじめてコメントします。
昨日の公演は私も観にいきましたが、凄い迫力でした。グルペローヴァは通勤の友としてi-Podで聞いておりましたが、やはり本物は素晴らしい。私にとってはじめてオペラでしたが冥土の土産と言ったところです。

投稿: kincyan | 2011年10月 2日 (日) 05時26分

今回のミュンヘン・オペラは予算の都合上全く行けませんでしたが、昨日のと同じ演出の『ロベルト・デヴェリュー』はDVDで観た事があります。ハードボイルドの要素を取り入れたのは面白いと思いますが、歌詞は変えられないから、どうしてもつじつまが合わないところが出ますね。ただ、エリザベッタがかつらを取るのはグルベローヴァのアイディアだそうで、その素晴らしい歌唱と同時に鬼気迫る迫力に圧倒されました。しかしこのオペラは実在人物が主役ですし、オリジナル通りエリザベス一世時代に設定した演出も観てみたいですね。尚グルベローヴァのエリザベッタとハイダー指揮による『ロベルト』は、一昨年ウィーン国立歌劇場日本公演で、演奏会形式で上演されましたが、これも大変な名演でした。やはりグルベローヴァが歌うフィナーレは感動しました。確かにドニゼッティのオペラは声主体なので、今ひとつ深みが不足している様には聞こえますけれどもオーケストレイションは弦が主体なので、ウィーンフィルのメンバーがほとんどのオーケストラには合っていました。ぼくがグルベローヴァをナマで聴いた機会は、他にも樋口先生と同じくシノーポリ指揮による『アリアドネ』を初めいくつかのオペラやコンサートですが、テクニックも芸術性も別格で、失望しながら帰った事は一度もありません。来週日曜日にサントリーホールで開かれるリサイタルには行く事にしており、先生と投稿された方のお話を聞くとますます楽しみになります。
それにしても樋口先生はベーム指揮でも『アリアドネ』を聴かれた、とは羨ましいですね。尤もベームが亡くなる前の年の事で、TVで観たウィーンフィルとのコンサートや『フィガロの結婚』同様衰えが感じられたのではないでしょうか?しかしベームはリヒャルト・シュトラウスと大変親しかったので、やはり貴重な機会をお持ちになった事には違いありませんね。シノーポリ指揮の時は、グルベローヴァはもちろん他の歌手もオーケストラも素晴らしく、シノーポリ特有の解釈もたっぷり味わいましたが、まさかこれが、日本での最後の指揮になるとは、本人はもちろん誰も予想してはいなかったでしょう。しかしこの『アリアドネ』の超名演は、未だ心に残っています。

投稿: 崎田幸一 | 2011年10月 2日 (日) 08時24分

 初めてメールさせて頂きます。グルベローヴァに感激なさったとのお話ですが何よりでございます。「Roberto Devereux]、このドニゼッティの聞きなれない題名のオペラでグルベローヴァが素晴らしい歌を聞かせてくれると聞いたのは今世紀に入って間もなくのころだったと思います。そのグルベローヴァがウィーン国立歌劇場で再びエリザベッタを歌うと聞いて飛んで行きロージェに座ったのもこんな出し物は日本では聞けないと思ったからでした。その歌と演技は期待にたがわぬ物でした。ウィーン国立歌劇場で観劇した出し物の中でもベスト5に入る物でした。まさかコンサート形式で一回、オペラの舞台で一回と日本でグルベローヴァの歌唱でロベルト・デヴェリューのエリザベッタが聞けるとは思いもしませんでした。日本に居ながらにして最良の物を聞ける幸せ、こんな贅沢が許されて良いのだろうかと思ってしまいます。どの演奏が一番良かったのかは聴く人それぞれに感じ方も違うでしょうから感想は差し控えさせて頂きますが、グルベローヴァが素晴らしい歌手であることは自明の理だと称賛するばかりです。確かに皆さんがおっしゃる様にツェルビネッタを歌ったのを聞いて以来グルベローヴァには感動させられ続けています。歌手としては高齢の域にありますがこれからも頑張って欲しいものです。
 初めてのメールで失礼がありましたらお許しください。

投稿: ウィーン | 2011年10月 2日 (日) 21時28分

ねこまる様
コメント、ありがとうございます。
今回の演出、「影のない女」よりは、かなり分かりやすかったと思いますが、でも、確かに考えてみれば、雰囲気は似ていますね。時代は現代、女王ではなく、女社長という雰囲気。全体的には何をしているのかよくわからないけれど、まああまり音楽の邪魔をしない・・・といったところでした。
が、演出保守主義の私としては、これを認める気持にはなりません。

投稿: 樋口裕一 | 2011年10月 3日 (月) 07時56分

kincyan様
コメント、ありがとうございます。
初めての実演のオペラが、あの公演だったということ、うらやましく思います。
私のオペラ実演初体験は、1968年だったか、大分市で開かれた大分フィル(もちろん、アマオケです)による大分県民オペラの「フィガロの結婚」でした。歌ったのは、フィガロの立川澄人(当時はこのような表記だったと思います)だけがプロで、ほかは県内の音楽の先生たちでした。現在のアマではなく、1960年代のアマですから、どんな音だったか想像していただけると思います。聴きなれていたジュリーニ指揮のレコードとのあまりの違いに愕然としました。
しかし、逆に言いますと、最初に今回のような上演を見てしまうと、これに超えるものになかなか会えずに、これから見るものが色あせてしまうかもしれませんね。

投稿: 樋口裕一 | 2011年10月 3日 (月) 08時06分

崎田幸一様
コメント、ありがとうございます。
80年のベームは、確かにあまり覇気がなかったのを覚えています。当時の友人たちとこっそり悪口を言ったのを覚えています。が、当時は、ベームが来てくれるだけで日本のクラシックファンの大半は感動していました。特にベーム好きでなかった私もそのようなファンの一人でした。その時、私がベームを聴くのは3回目くらいだったと思いますが、とても満足した記憶があります。
シノーポリ、本当に残念でした。好きな指揮者の一人でしたし、最後に聞いたベートーヴェンの第九のとてつもなく知的な演奏にも圧倒されました。

投稿: 樋口裕一 | 2011年10月 3日 (月) 08時19分

ウィーン様
コメント、ありがとうございます。
「ロベルト・デヴェリュー」を見に、わざわざウィーンにいらしたんですね! それまでほとんど耳にしなかったこのオペラをグルベローヴァが歌いだして大評判になっていたころのこと、覚えております。イタリアオペラ好きではない私は、さすがにウィーンにまで行こうという気持にはなりませんでしたが、確かにその価値があったでしょうね。10年ほど前のグルベローヴァは、もっと素晴らしかっただろうと思います。
私も、今回、久しぶりに彼女の実演を聴いて、その偉大さを改めて痛感しました。実演を何度か聴けたのは、本当にうれしいことです。

投稿: 樋口裕一 | 2011年10月 3日 (月) 08時28分

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