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ネマニャ・ラドゥロヴィチ週間が近づく!

 私は、ネマニャ・ラドゥロヴィチのファンクラブ「プレピスカ」(この若きヴァイオリニストの故郷であるセルビアの言葉で「交流」を示す)の会長をしている。昨年からファンクラブ結成を呼び掛け、今年の春に結成したのだった。現在では、優秀なスタッフのおかげで会は着実な活動を行っている。

そのネマニャが来週22日の兵庫県立芸術文化センターでのリサイタルを皮切りに、東京でも何回かコンサートを行う。私は22日から1週間、彼を追いかけることになる。26日の午後には、私たちのファンクラブでも、ネマニャに来てもらい、ミニコンサートをファンとの交流を行うイベントを予定している。

127  そのネマニャのCDが昨日、やっと届いた。「五季 the 5 Seasons」と題されたもので、ヴィヴァルディの「四季」と、もう一曲、アレクサンダー・セドラー作曲の「日本の春」という新曲が含まれている。

 ヴィヴァルディの四季は、今年の春の私たちが開いた3月のファンイベントで聴いた時の記憶の蘇る演奏だった。

 私が初めてネマニャの演奏を聞いたのは2007年ナントでのことだった。ネマニャは1985年10月の生まれなので、当時まだ21歳だったはず。彼の演奏は、激しいリズムにあふれ、劇的で激情的で白熱していた。当時から研ぎ澄まされた音だったが、それ以上に聴く者の身体を揺り動かし、魂を揺さぶる激情性が印象的だった。

が、今年の春に聞いた26歳のネマニャは、かなりの変貌を遂げているように思えた。ひとことでいえば、もっとずっと研ぎ澄まされた音になっていた。この上なく透明で硬質な音といってよいかもしれない。今年の春は、悪魔のトリルと呼ばれる弦楽5重奏団を従えての演奏だったが、弦楽器の音によるキャンバスに、ネマニャの鋭くて透明な一筆によって人間の魂、音楽の魂が揺れ動いているかのような印象を受けた。

 今回のCDは、録音であるがゆえにいっそう研ぎ澄まされた冷静さが奥にある。しかも、そのような音によって白熱した演奏を行う。「白熱」という言葉はふさわしくないかもしれないが、ほかに思いつかないので、とりあえず白熱と呼ぶことにする。鋭くて透明で研ぎ澄まされた音による白熱は、熱を帯びるというよりも、神秘的というほうがふさわしい。どこまでも透明でどこまでも研ぎ澄まされた音による魂の奥の蠢きをえぐり出すようなドラマティックな音楽。若きネマニャの白熱も素晴らしかったが、大人になったネマニャの神秘的で冷静な白熱も魂に刺さる。

今回のCDの「春」の第一楽章からネマニャの世界が広がる。雄大でドラマティック。しかも限りなく美しい。とりわけ私が好きなのは「夏」だ。第一楽章のけだるさから嵐へと向かう部分がまず圧巻。暑い夏の中に、冷たい風が吹き抜け、それが嵐になっていく。びしっと焦点のあった写真を見るかのような明晰さの中に神秘の白熱がある。この人はこんなに若いのに、これほど人生をわかっているのか!と驚いてしまう。少年時代に戦争を体験し、肉親を失ったというが、それが音にも反映しているかもしれない。

 セドラー作曲の「日本の春」は、ネマニャの依頼によって作曲されたもの。とはいえ、平和な春の歌ではない。まさしく3・11の津波とその後の日本へのメッセージを表明した音楽だ。

ライナーノーツに次のように書かれている。(かつてフランス語を学んだので、フランス語から訳そうとしたが、ちょくちょくわかりにくい個所があった。英訳の文章も載せられており、そのほうがわかりやすかったので、わかりにくいところは英訳を参照しながら日本語に改める。ただし、あまり翻訳技術は用いないで、直訳にする。久しぶりの翻訳なので、誤訳があったらご容赦を!)

ヴィヴァルディの「四季」の補足として、ネマニャは同国人であるアレクサンドル・セドラーAleksandar Sedlar 作曲の「春の日本」を録音した。これは、彼のために作曲されたものであった。ネマニャは、今年の3月、日本に滞在していた。CNNで津波の映像を目にして、アレクサンダーに電話をかけ「ぼくは無力だけど、何かをしたくなった。ぼくは、この国に結び付けられている。この国の人々は素晴らしいと思うんだ」と話したのだった。こうして、「日本の春」が誕生したのだが、この曲はまた気候変動に対する彼の懸念にこたえるものでもある。「第一部は恋の歌であって、日本の影響を受けている。ついで津波を前にしたサイレンの鋭いテーマがヴァイオリンによって現れる」。次に「大惨事の後のような」完璧な平穏がやってくる。そして、超絶技巧によって幸せへの希望を語るフィナーレになる。ネマニャにとって、アレクサンダー・セドラーの偉大なところは、聞いてすぐに耳に残るこのフィナーレのような、誰にとっても普遍的な訴えかけの音楽を書けることだ。

 日本的な音調で始まり、サイレンを模した音が聞こえ、津波が暗示される。そして最後には希望にあふれた音楽に変化する。それをネマニャが鋭いヴァイオリンが描き出していく。名曲かどうかはわからない。ただ、日本、そして日本の津波が西洋人にこのような印象を与えたことを考えさせられる。日本人へのオマージュであり、励ましでもあるだろう。そして何よりも、私たちとともに生きようというメッセージだろう。まさしく、私たちのファンクラブの名称にある通りの「プレピスカ」(交流)!

 ともあれ、来週はネマニャ週間になる。体調に気をつけたい。

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