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エベーヌ弦楽四重奏団の圧倒的な演奏に感動

 11月1日、武蔵野市民文化会館でエベーヌ弦楽四重奏団の演奏を聴いた。前半にモーツァルトの弦楽四重奏曲第19番「不協和音」とボロディンの弦楽四重奏曲第2番。後半にブラームスの弦楽四重奏曲第2番イ短調。凄まじい演奏。連日の武蔵野市民文化会館での弦楽四重奏のコンサートだったが、どちらも素晴らしかった。今日のほうが、昨日よりも一層感銘を受けた。

 精密で研ぎ澄まされていて、音程がびしっと決まってアンサンブルが完璧。が、ひところはやったような、技術をひけらかすタイプではない。繊細で圧倒的に美しい。ショーソン・トリオやモディリアニ弦楽四重奏団ら、フランスの若い演奏家たちと似たスタイルの演奏といっていいだろう。

 エベーヌヌ弦楽四重奏団は、2006年と2007年のラ・フォル・ジュルネでモーツァルト、フォーレやバルトークを聴いた。何の演奏の時だったか、感動してサインをもらった記憶がある。が、それ以上の圧倒的な団体になっていた!

 モーツァルトが始まったときには素晴らしいと思ったが、コンサートを聴き終わった後では、モーツァルトが一番、感銘度は薄かったかもしれない。研ぎ澄まされた音なので、ちょっときつくなりすぎるきらいがある。ただ第三楽章の短調の部分の悲しみと美しさは比類がなかった。

ボロディンは文句なくすばらしかった。第三楽章の美しさもさることながら、全体的に香りにあふれていた。ロシアの香りというのとは違うと思う。もっとずっと繊細。あまり土臭くない。だが、それはそれでみごと。弦と弦の繊細なからみが何とも言えない。ボロディンのこの曲、たぐいまれな名曲だと、改めて思った。

 後半のブラームスはとりわけ圧倒的だった。前半の2曲は美しさや繊細さ、悲しさが前面に出ており、迫力という点では不足していたが、ブラームスは徐々に熱してきて、まさしくドラマティック。音と音が重なりあい、興奮を呼び、胸が高鳴ってくる。これこそ現代のブラームス演奏だと思った。一昔前のブラームス演奏に比べて、もやもやしたところがなく、芯が強くて筆致が鋭い。が、そうでありながら、ブラームスらしい抒情がある。なにはともあれ、一つ一つの音があまりに美しい。私は大いに感動した。

 ところで、観客にマナーについて考えさせられることがあった。

 私の斜め左前に40歳前後に見える男性が座っていた。3曲ともスコアを見ながら聴いていた。その男性、私の右隣に座っていた初老の男性の咳払いが気になるらしく、何度も振り返って睨みつけていた。初老の男のほうはそれにまったく気付かないようで、相変わらず音を出し続けていた。

 で、私はというと、実は右隣の初老の男はそれほど気にならず、それよりも、むしろスコア男のほうをずっと迷惑に感じていたのだ。確かに右隣の初老の男の声も気にならないわけではない。だが、目の前でスコアを開かれて、白いページがちらちらするのはそれ以上に気になる。ページを繰る手の動きも気が散る。ページをめくる音も時々聞こえる。初老の男が咳払いをするごとにその男がいちいち振り返るのも気になる。が、もちろん、そのスコア男は自分が他人の迷惑になっているなどとは、まったく思ってもいないのだろう。

 人間、他人を迷惑に思うばかりで、自分が人様の迷惑になっているなどとはまったく思わずにいるものなのかもしれない。私ももしかすると、誰かほかの人に迷惑に思われていたのかもしれない。そう思うと怖くなる。

 ともあれ、満ち足りた気持ちで会場を後にした。エベーヌ弦楽四重奏団はこれからの時代を担うことだろう。頼もしい限り。

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コメント

武蔵野市民文化会館は、とても良いホールで、私も気にいっています。

聴衆のマナーの話、同感です。思い出したのは、30年ほど前なので、もう時効のことですが、さる高名な音楽評論家で、演奏会へいつもミニチュアスコアを持参して、演奏が始まると、最初の数ページはめくっているのだが、すぐさま深い眠りに入られてしまうのが有名でした。
ある時、たまたま隣りにある作曲家が座ったのだが、曲の進行と違うページが気になって、つい、手を伸ばして、めくってしまい、演奏会を楽しむどころではなかった、と作曲家本人から聞いたことがありました。
やはり、スコア対応の鑑賞は、自宅か、リハ以外は、周りの迷惑でしょう。

投稿: 白ネコ | 2011年11月 3日 (木) 12時29分

昨夜、ヤマハホールでエベーヌ弦楽四重奏団のコンサートを聴きました。前半 ドビュッシー、ブラームスの2番 後半がクロスオーバーアルバム”Fiction”から。あまりの素晴らしさに今も茫然としています。誰か感想を書いているかな、とみていて、こちらのサイトに行き当たりました。
「エベーヌ弦楽四重奏団はこれからの時代を担うだろう」とのご感想に同感です(アルカント弦楽四重奏団と並んで?)

武蔵野でブラームス2番が素晴らしかったとのこと、同曲は昨夜も白眉でした。渋いけれどなかなか良い曲ーという程度の認識だったのですが、曲の面目を一新した感あり。情熱的で、時に激情的というくらいですが、常に瑞々しく、美しい。驚異的なレベルの演奏でした。

後半も、いわゆるクロスオーバーの安易なイメージとは異なる素晴らしい内容です。英語で親しみやすく、かつ真摯なコメントがあり、彼らにとってJAZZが大切な音楽であること、そのことを正しく伝えたい思いがよく分かりました。マイルスデイビスのSO WHAT など、音楽的に充実した素晴らしい演奏でした。アンコールではディズニーのJAZZ定番で、コーラスまで披露しーこれが余興ではなくて、本当に美しい。

あらためて彼らについて調べたところ、wikipediaによれば音楽院時代にJAZZ専攻であったと。エベーヌ、恐るべし。

投稿: はじめまして | 2011年11月 3日 (木) 14時34分

白ネコ様
コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、スコアを見るのはリハーサルか自宅でCDを聴くときくらいにしてほしいですね。演奏中はむしろ、目で見て耳で聴くことに集中するほうがよいように思うんですけどね。作曲家と評論家のエピソード、面白く読ませていただきました。

投稿: 樋口裕一 | 2011年11月 4日 (金) 20時32分

はじめまして様
コメントありがとうございます。
エベーヌ・カルテット、本当に素晴らしい演奏でしたね。本文に書くのを忘れましたが、私が聴いた日も、アンコールはフィクションの中の一曲でした。言葉をなくすほどの演奏でした。が、ブラームス好きの私としては、2番の弦楽四重奏曲で終わってもよかったと思ったのでした。私にとっては、モディリアニ・カルテットと双璧をなす現代屈指の弦楽四重奏団です。

投稿: 樋口裕一 | 2011年11月 4日 (金) 20時40分

お元気ですか?テレビで見たエベーヌカルテットの演奏があまりにも良くて、検索をしていたら、ネマニャの時と同様、先生のブログがヒットして、とても嬉しく思い、思わず投稿してしまいました!!!
是非、次回は会場に足を運んでみようと思いました!!!

投稿: 高橋亜紀 | 2012年2月22日 (水) 00時40分

高橋亜紀様
ご無沙汰しています。
エベーヌSQ、本当に素晴らしいと思います。ネマニャとは、まったく別の魅力ですが。
テレビ放送、実は録画しただけで見ていないのですが、実演のすごさが伝わっていましたか。ぜひ次の機会は実演をお聴きになってみることをお勧めします。私も、エベーヌの来日ごとに追いかけたい気持ちになっています。
今週は京都で仕事です。ついでに関西でコンサートを聴こうかと思っていたのですが、仕事が忙しくて、その時間がとれずにいます。

投稿: 樋口裕一 | 2012年2月23日 (木) 08時39分

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