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新国立「ルサルカ」はとてもよかった

 12月3日、新国立劇場公演「ルサルカ」を見た。かなりのレベルで、とりあえず、満足。

「ルサルカ」の実演を見るのは三度目だと記憶する。2005年ころ、国立プラハ劇場だったか、本場ものの公演を浜松まで見に行って、ちょっとがっかりしたのを覚えている。今回は、それよりはずっと良かった。

 指揮はヤロスラフ・キズリンク。明るめの音色で、初めのうちちょっと違和感があったが、きっと意図的にそうしているのだろう。オーケストラ(東京フィルハーモニー)をしっかりとコントロールし、きれいな音をひきだして見事だった。

 ルサルカはオルガ・グリャコヴァ。先日の新国立の蝶々夫人を歌った歌手。だが、今回、ちょっと大味なところを強く感じた。とりわけ有名な第一幕のアリアは、声のコントロールが完璧ではなく、ときとしてがなりたてる感じになっていた。不調だったのかもしれない。とはいえ、徐々に良くなった。美しい容姿を含めて、このくらい歌ってくれれば、まったく文句はない。王子はペーター・ベルガー。この人も声のコントロールがときどき甘かったが、全体的にはきれいな声で、この役についても十分に満足。ヴォドニクを歌うミッシャ・シェロミアンスキーは、私は特に気に入った。飽和力のある美声。

 そのほか、イェジババを歌うビルギット・レンメルト、外国の公女のブリギッテ・ピンター、脇を固める日本の歌手陣(井ノ上 了吏、加納悦子、安藤赴美子、池田香織、清水華澄、照屋 睦)もいつものように素晴らしい。そして合唱もとてもよかった。

 演出のポーラ・カランはとりわけ素晴らしいと思った。冒頭とフィナーレのおとぎ話の家もよくできているし、第二幕の舞踏会の場面、ルサルカが人間界に違和感を覚える様子を美しく、切なく描いていた。

 どこといって不満があるわけでもなく、すべてにおいて満足できるレベルだったが、残念ながら爆発的な感動には至らなかった。指揮か主役格がもう少し並はずれていたら、もっと感動を呼んだかもしれない。

 それにしても、妖精の世界が月に象徴され、水の精が人間界に行くと声を失い、人間の情熱に違和感を覚える・・・という設定がおもしろい。ただ、ワーグナーのような象徴的な意味は含まれてなさそう・・・

 人間界で声を失ったルサルカを見ながら、声が出なくなった自分と重ね合わせていた。確かに声が出ないと、周囲に溶け込めず、強い違和感を覚えるものだ。一人ぼっちにされた気分になる。妖精が人間界に行くと声を失うという設定にしたのには、きっと異界をまたぐには何らかの犠牲を伴うことを示すと同時に、ルサルカの孤独感を表現したいという理由があったのだろう。

 とはいえ、私の声の調子は治療のおかげで、かなり良くなった。あと2、3日もすれば完全に回復するだろう。

 結局、本当に声が出なかったのは2日間くらいだった。そのころは、咳をしても、コホンコホンとお姫様のような無声音の咳だったが、昨日あたりから、ハスキーヴォイスながら、とりあえず、話をしている。ともあれ、ありがたい。

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