新国立劇場の「ラ・ボエーム」
1月22日、新国立劇場で「ラ・ボエーム」を見た。
このブログにも何度か書いたとおり、私はプッチーニが苦手。マーラーほど大嫌いというわけではないが、少しもおもしろいと思わない。が、シーズンセット券を買ったので、苦手なオペラのチケットもついてくる。まあ、こんなことでもなければいつまでもプッチーニを見ることはないと思って、これを機会に出かけた。
ミミを歌うのはヴェロニカ・カンジェミ。清澄な声で好感は持てるのだが、それほどの感銘は受けなかった。ムゼッタを歌ったアレクサンドラ・ルブチャンスキーも悪くはないのだが、期待ほどではなかった。
期待以上だったのがロドルフォを歌った韓国人歌手ジミン・パク。しっかりと通る美声は素晴らしかった。まだ歌のコントロールという点では未完成という感じがするが、若いのでこれからの人だろう。マルチェロを歌ったアリス・アルギリスもなかなかよかった。萩原潤、妻屋秀和らの日本人歌手も主役たちにまったく遜色なかった。
指揮のコンスタンティン・トリンクスは、私は丁寧さを感じなかった。前半、意味なくオケの音が大きくて、ある種のうるささを感じた。東京交響楽団は音がよく出ていると言えるが、もう少しセーブしないとバランスが取れないと思った。第三幕の四重奏の部分も、精妙に声が絡み合わなかった。とはいえ、まだ若いので、これからの人だろう。
粟國淳の演出はオーソドックスながら、群衆シーンなど、細かいところまでしっかりと気が配られていた。第一幕と第四幕、若者たちがふざけるところと恋愛に関わる神妙なところのバランスが難しいと思うが、きちんと処理していた。見事。数度目の公演でこなれてきたということなのかもしれない。
とはいえ、やはり私はこのオペラには感動しない。台本はイタリアオペラにしてはよくできているとは思うのだが、プッチーニの音楽に私の心は反応しない。第四幕のミミの死の場面も、一度もしんみりしたことがない。私は結構涙もろいほうなのだが、プッチーニの音楽がかかると、まったく共感できなくなってしまう。
そんなわけで、プッチーニ不感症の自分を確認して帰ってきた次第。
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コメント
樋口さん、こんばんは。
なんか、新国立劇場低調ですよね。
来シーズンの演目もパッとしない(笑)
『ペレアス』『ヴォツェック』『イェヌーファ』『エジプトのヘレナ』『ダフネ』『後宮からの誘拐』『サムソンとデリラ』『リア王』『ドン・カルロ』『マクベス』……もっとやってほしい(やるべき)オペラがたくさんあります。「『アイーダ』再演なる!」って、「NHKイタリア歌劇団」の時代じゃあるまいし、いつまでもドル箱頼みでは駄目ですね。『ルサルカ』をやると、珍しいと話題になるくらい「保守的」な東京ですから、まあ仕方ありませんが。
年末、ウィーン国立歌劇場に出張してきましたが、ヤナーチェク『死の家から』(メスト指揮)、『ダフネ』(ヤング指揮)、『ばらの騎士』(シュナイダー指揮)など素晴らしい出来映えで、わが国のオペラハウスの水準に絶望すら覚えました(「やんなっちゃった」って表現がピッタリです)。決して「本場モノ信仰」ではないのですがね…。
投稿: ねこまる | 2012年1月23日 (月) 00時42分
ねこまる様
来シーズンの演目、確かに寂しいですね。シュトラウス、ヤナーチェク、プロコフィエフに、まだまだよいオペラがたくさんあるのですから、ぜひともやってほしいですね。「ピーター・グライムズ」はうれしい知らせでしたが。
ウィーンに行かれたんですか。演目も指揮者もとても魅力的ですね。きっと素晴らしかったでしょう。
日本でもそのレベルの指揮者が演奏してくれると違うんでしょうが。難しいんでしょうね。
投稿: 樋口裕一 | 2012年1月25日 (水) 08時58分
失礼致します。プッチーニがどうも馴染めない私にとっては大変力強い味方がいるようで嬉しい限りです。オペラ好きな知人との会話の席でも私がプッチーニを聞かないのは周知の事です。「いまだにプッチーニは聞きませんか。」と時々言われます。又、プッチーニが分らないならオペラを語る資格は無いと悪しざまに言われた事もありますが、なぜプッチーニに馴染まないのか私にも良く分りません。ヴェルディやドニゼッティなどは大好きですのでイタリアオペラを聞かない訳ではありませんし自分でも不思議に思います。
しかし、そんな私ですがプッチーニを観劇して感動した事が2回程ありました。プッチーニを実際の舞台で見たのは実にこの感動した2回だけですから、100%の的中率でプッチーニの舞台を楽しんだ事になります。2回ともヴィーン国立歌劇場で「トスカ」と「ラ・ボエーム」でした。その時ばかりはプッチーニの音楽が素直に私の心に流れ込んで来ました。今でもささやかな奇跡だと思っています。ひょっとして素晴らしい演奏にめぐり逢えたならプッチーニに馴染める様になるのでしょうか。
先にコメントをお寄せになった方はヴィーン国立歌劇場で「薔薇の騎士」を楽しんで来られたようですが、誠にヴィーン国立歌劇場で聴く「薔薇の騎士」は独特の香りに満ちて他では聞けない雰囲気がありますね。私もヴィーン国立歌劇場の「薔薇の騎士」には酔ったものです。2回のプッチーニもヴィーン国立歌劇で聞いたから感動したのでしょうか?一度なぜプッチーニに馴染めないのかお話を聞かせて頂けたら私自信が分らない事が分るかも知れないと思いました。
長々と失礼致しました。
投稿: ハンドルネーム:ウィーン | 2012年1月25日 (水) 21時36分
ハンドルネーム:ウィーン様
先ごろ、自分の好きなオペラ・ベストテンを友人と語りました。
私自身ワーグナーは甲乙付け難いほど、すべて好きなため、ベストテンにはあえて「ワーグナー以外での」という制約で出したところ、やはりプッチーニは1作品も入っていませんでした。
内外でいくつもプッチーニ作品の舞台に接しておりますが、好まない理由を自分なりに分析するならば、以下が挙げられます。
①ストーリーが気に入らない。「ラ・ボエーム」「トゥーランドット」「蝶々夫人」etc...
②プッチーニの旋律の特徴が好みではない。平たく言うならば、プッチーニ節。あくまでも好みの範疇ですが。
以上は私の私見です。他の方は異なる理由があるかもしれませんね。
投稿: 白ネコ | 2012年1月27日 (金) 20時55分
御回答ありがとうございます。なるほどと納得する部分もあります。ストーリー、旋律といずれも好みの部分もあると思いますが、言われてみればと考えさせられました。私なりに気が付いたことがありましたら又、御報告させた頂きます。重ねて御礼申し上げます。
投稿: ハンドルネーム:ウィーン | 2012年1月28日 (土) 09時23分
ウィーン様
白ネコ様
コメント、ありがとうございます。
私の場合、ベストオペラ20はワーグナー、シュトラウス、ヤナーチェク、モーツァルトが中心で、イタリアオペラは1本も入らないと思います。20位を過ぎてから、ヴェルディ、ロッシーニ、レオンカヴァッロがいくつか入ってくる程度です。
私は、プッチーニのオペラのストーリーとメロディにも違和感を覚えるのですが、それ以上に「つまらない」と思ってしまうのは、オーケストレーションです。とりわけ、歌の旋律をオケでなぞっていくところ。あれを聴くと心が萎えてしまって、どんなに感動的な場面でも白けてしまいます。いかにも「お涙ちょうだい」の安っぽい音楽に聞こえてくるのです。
とはいえ、私も、ネトレプコのミミを聴けばきっとプッチーニにも感動できる人間になるのではないかと思い、今年のザルツブルクを目指そうかと画策しているところです。
投稿: 樋口裕一 | 2012年1月28日 (土) 23時04分