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元日以降、録画しておいたオペラやドラマを見た

 元日から、あまり根をつめてはいないが、夕方までは仕事をしている。が、ほぼ毎日、夕方以降テレビ放送を録画したオペラ公演やドラマを見たり、CDで音楽を聞いたりしていた。4日に3月刊行予定の本と雑誌記事の原稿をほぼ仕上げてメールで送信して、一息ついているところ。とはいえ、1月末までに、薄めの本2冊分の原稿を仕上げなければならないので、送信してすぐから次の仕事にかかっている。

 その間に見たオペラとドラマの録画について、簡単に感想を示す。

・「ドン・ジョヴァンニ」(12月25日放送)

 2011年開幕公演。オールスター・キャストの本当に素晴らしい公演。歌手陣はみんなが最高! 私はとりわけ、アンナ・ネトレプコのドンナ・アンナ、バルバラ・フリットリのドンナ・エルヴィラ、ブリン・ターフェルのレポレッロに感動したが、もちろん、ペーター・マッテイのドン・ジョヴァンニもよかった。

演出は、ロバート・カーセン。かなり妥当なもので、特に自己主張の強いものではなかった。ドンナ・アンナは、ドン・ジョヴァンニと自ら逢引をしていたという解釈だが、これは最近では珍しくない。フリットリとネトレプコの二人の競演をまさしく堪能。オーケストラも見事。しなやかで色彩的。ずっと前、ドイツ的ではない音にかなり違和感を覚えた記憶があったが、今回はどれを聴いても、とてもきれいだった。

・モンテヴェルディ「オルフェオ」(12月26日放送)

なかなかおもしろかった。このオペラは、かつてアーノンクールの指揮した映像で何度か見たので、覚えのある旋律も多かった。初めの30分ほどは、心が洗われる思いがし、あまりのすばらしさに圧倒され、これからモンテヴェルディのCDやDVDを買いまくって聴きまくろうと思ったほどだった。

が、修行が足りないというべきか、モーツァルトやワーグナーやシュトラウスなどのオペラを聴き慣れた耳には、30分もすると、この古めかしい音楽はさすがに退屈に感じられてきた。とてもおもしろかったが、やはり現代人が感動して聴き続けるのは、ちょっと難しいように思えた。それとも、もう少し聞き慣れればもっと感動できるのだろうか。

ゲオルク・ニールのオルフェオ、ロベルタ・インヴェルニッツィのエウリディーチェ、リナルド・アレッサンドリーニの指揮については、まったく文句はない。ロバート・ウィルソンの演出もおもしろかった。

・「ラインの黄金」(12月27日放送)

ミラノ・スカラ座2010526日公演。ルネ・パーペ(ウォータン)をはじめ、すべての歌手陣が実にいい。ただファフナーを歌った歌手がちょっとだけ弱かったが、それでも十分に満足できた。シュテファン・リューガマーのローゲもヨハネス・マルティン・クレンツレのアルベリヒも、ユン・クワンチュルのファゾルトも、ドリス・ゾッフェルのフリッカも実に立派。ギー・カシアスの演出についても、とてもおもしろかった。登場人物の心理や状況が、ダンスと背景の色で表現される。最近のドイツの演出のように、自己主張の強い解釈があるわけではなく、色彩やダンスにそれほど「意味」は付与されていないようだ。むしろ、美しさを見せようとするもの。安心して楽しめた。ともかく、色彩感覚が実にいい。

「ワルキューレ」(12月28日放送)

ミラノ・スカラ座2010.12.7。歌手も最高レベル。指揮ももちろん、本当に素晴らしい。堪能した。

歌手はまさしくオールスター。ヴォータンを歌ったヴィタリ・コワリョフだけが、ルネ・パーペの代役だということで、最後のほうでかなり息切れするが、それでも十分に穴を埋めている。風格もあり、声も美しい。ただ、ちょっと歌い回しが明瞭でない気がしたが、ドイツ語のよくわからない私には正確なことは言えない。ジークリンデのワルトラウト・マイアーとフンディングのジョン・トムリンソンはかなりの年齢だと思う。10年以上前にベルリンやバイロイトで聴いたころと比べて、声の輝きは失われた気がするが、全体的にはそれほど衰えた感じはない。相変わらずの表現力。フリッカを歌ったエカチェリーナ・グバノーヴァとジークムントのサイモン・オニールも素晴らしい。

そして、何よりもブリュンヒルデを歌ったシュテンメが凄い。マルシャリンやイェヌーファを持ち役にしているので、ブリュンヒルデは荷が重いのではないかと思っていたが、そんなことはない。かつてのフラグスタートやニルソンに比べるとずっとしなやかで女性的なブリュンヒルデだが、十分に勇ましくて強靭。

指揮も実にいい。ダイナミックにうねり、大きな見せ場を作る。しかも、きわめて内面にまで響く音。ただ、第二幕の後半、ちょっと緊張感の不足を感じたが、演出や見る側の私の気分の問題だったかもしれない。

演出は「ラインの黄金」と同じギー・カシアス。色彩的で、見た目に美しく、しかもドラマティック。過度な「意味」を付与しないところがいい。CGもうまく使って、心象風景を描き出している。

・マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」、レオンカヴァッロ「道化師」(12月29日放送)

ともに、とてもおもしろかった。「カヴァレリア・ルスティカーナ」はトゥリッドゥを歌ったサルヴァトーレ・リチートラがいい。事故死したのが実に残念。サントゥッツァを歌ったルチアーナ・ディンティーノもとてもいいが、歌い回しがリアルであるだけに、私がトゥリドゥでも、うっとうしくてローラに心移りしてしまうだろうな、などと不謹慎なことを思った。

とはいえ、何よりもハーディングが凄い。イタリアオペラが単なる娯楽でなく、まるでヤナーチェクやベルクのような雰囲気になって、切り込んでくる。田園ののどかな祭りの中で起こる悲劇の恐ろしさが伝わるような指揮だった。

「道化師」も同じように感じた。カニオのホセ・クーラがやはり圧倒的。ネッダのオクサナ・ディカも強い声で、容姿もなかなか妖艶。トニオのアンブロジオ・マエストリも声に張りがあり、演技も達者。そして、これもハーディングの指揮がリアルでドラマティックで、魂をえぐる。

・「魔笛」(12月30日放送)

指揮のローラント・ベーア、演出のウィリアム・ケントリッジ、ともに初めて名前を聴いた。それどころか、歌手陣も、知っている名前がなかった。若手による演奏なのだろう。

指揮のベーアは、勢いがあってとてもいいのだが、もう少ししなやかであってもいいのではないかと思った。歌手陣も悪くはないのだが、みんな硬さがあって、面白みや凄味がほんの少し欠ける。夜の女王のアリビナ・シャギムラトワもびしっとは決まっていなかった。とはいえ、そこはモーツァルト。改めて、素晴らしい曲だと思った。

そのほか、連続ドラマも録画したまま見ていなかったものを続けてみた。その感想も記す。

・「坂の上の雲」

 役者、演出ともにとても充実。戦闘場面も実に迫力ある。大変おもしろく見た。私は司馬遼太郎の歴史観について論じる資格はないので、とりあえず、これを日本の歴史として考えると、たかだか明治維新から30年ほどでこれほどまでに近代化し、国民の間にナショナリズムが定着し、意識として近代人になっていることに驚く。同時に、日露戦争がそのまま日中戦争、太平洋戦争へと直結していることも痛感。

・「トンイ」

 NHK・BSで放映中の韓国歴史ドラマ。しばらく前、ひょいとテレビをつけて、女優さんたちの美しさに惹かれてほんの10分ほど見ているうちにやめられなくなって、毎週予約までしてみている。数年前に、これまた同じような理由で見始めて夢中で最後まで見た「チャングムの誓い」同様、実におもしろい。ただ、同じパターンで執拗にドラマを展開させる作劇テクニックには少々うんざりする。梶原一騎や橋田壽賀子とよく似た作劇法。どこまでも卑怯な敵とけなげな主人公が対立し、これほど主人公たちが正しいことをし、悪を暴いても、なかなか運命に恵まれない。同じことを主人公たちが行うとひどい目に合うのに、なぜか不思議な理屈で悪漢たちが生き残ってしまう。が、そうは言いながら、手の内はわかりつつも、つい見てしまう。それにしても、ヒロインのトンイを演じるハン・ヒョジュ、悪役のヒビンを演じるイ・ソヨンが実に魅力的。衣装も素晴らしい。それに韓国の役者さんたちの演技のうまさ! クラシックの世界の演奏家といい、俳優といい、このままでは日本は大きく水をあけられそうで、日本男児としては少々焦る。

・「相棒」

 実は初回放送から楽しみに見ている。つい見るのを忘れた回も何度かあったが、それらは再放送で見たので、きっとすべての回を見ている。複数回見ているものも少なくない。今回のシーズンはちょっと低調で、物足りない思いをしていた。社会性を表に出しすぎたため、肝心の推理面が手薄になり、辻褄が合わなくなり、様々の点で必然性がなくなっている。が、元日スペシャル「ピエロ」についてはかなりおもしろかった。細かいことを言うとおかしなところがないでもないが、全体の辻褄はしっかりと合い、社会的なメッセージもあり、役者さんたちの演技、そして演出も申し分ない。レオンカヴァッロの「道化師」の公演のシーンで始まるので、もっとこのオペラが意味を持つかと思って期待していたが、そのあたりは期待外れだった。

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コメント

私も相棒のファンで、再放送も録画してみています。
相棒を知ったのはシーズン4くらいで、シーズン1~3はあまり再
放送がないようなので、初めの頃の回を見逃しているのが残念で
す。
元日のスペシャル、予告編に出ていた「大物」俳優さんが実際は今一つ活躍の場が少なく、若手の役者さんの好演技が目立った回のように見えました。
普段よく行く近くの珈琲館に相棒が撮影に来たそうで、2月1日に
放映されるとのこと、今シーズンも楽しみです。

投稿: mitsu | 2012年1月 8日 (日) 16時55分

mitsu様
コメント、ありがとうございます。
「相棒」の元日スペシャル、おっしゃる通り、若手俳優がとても魅力的でした。犯人役の方の名前をネットで調べてみたほどでした。私が知らないだけで、かなり有名な方のようでしたが。大橋のぞみもとてもよかったですね。
今後もこのレベルのものが次々と放送されると嬉しいですね。

投稿: 樋口裕一 | 2012年1月11日 (水) 08時59分

年末年始はNHK、Bsのスカラ座バレンボイム「ラインの黄金」と「ワルキューレ」(特に「ワルキューレ」は深夜25:00を超えてからの放映!)、FMでは恒例のバイロイト放送(ここ40年ほど毎年欠かさず聴くが、仕事との時間調整が大変です)が、今年は時間的に重なった部分があり、クラシカの「第9」特集、ゼンパーオーパーでの昨年のティーレマンのレハール抜粋ジルヴェスターと、体力勝負でした。一部は年始に再度拝見。なかでもFMバイロイト「ローエングリン」のネルソンズの指揮ぶりは映像が見えないだけに、例の悪趣味ともいえる演出に煩わされず,かえって指揮のうまさを堪能出来ました。

「トンイ」、樋口先生もご覧になられていますか。実はふと見た時にあまりにも美しい女優さんに魅せられて、つい見てしまいます。復権した王妃役の女優さんなぞ、ちあきなおみのような妖艶な口元が気に入って、毎週時間の許す限り観ています。

投稿: 白ネコ | 2012年1月11日 (水) 19時48分

白ネコ様
コメント、ありがとうございます。
FM放送まで追いかけておられるとは! 私はかなり前からFM放送の受信はやめています。ときどき情報を得て、心動かされますが。確かに、バイロイトの放送は、ひどい演出を見なくて済む分、楽しめるかもしれませんね。
「トンイ」の元王妃も、おっしゃる通り、魅力的ですね。「ちあきなおみ」と似ていると感じたことはありませんでしたが。

投稿: 樋口裕一 | 2012年1月16日 (月) 07時57分

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