エリシュカ指揮、N響の「シンフォニエッタ」は絶品
1月14日、NHKホールでラドミル・エリシュカ指揮、NHK交響楽団の定期公演を聴いた。曲目は、スメタナの交響詩「ワレンシュタインの陣営」、ヤナーチェクの「シンフォニエッタ」、ドヴォルザークの交響曲第6番。
一言で言って、いぶし銀の演奏。音の質感が何とも言えない。私はエリシュカの演奏を聴くと、フェルメールの「牛乳を注ぐ女」の絵を思い出す。絵画と音楽の違いはあるが、そこに同じような「質感」を感じる。別の表現を用いると、使いこんでしなやかになったなめし皮のような質感とでもいおうか。NHK交響楽団もしっかりとエリシュカ特有の音をしっかりと出している。素晴らしい。
特に個性的な解釈があるわけではない。激しい感情の表出があるわけでもない。オケを煽ることもない。すべての音を的確にコントロールし、程よい音量と音質で楽器を鳴らす。行きすぎを抑え、楽器ごとの最良のバランスを捉える。多分、エリシュカはそのことばかりを考えている。その結果、しっかりと地に足をつけ、虚飾がなく熟成した豊かな質感を持った音楽がたちあらわれる。
今の時期、こんなしっかりした音楽を聞かせてくれる指揮者は少ない。これぞ本物の指揮者だという感じがする。
スメタナの交響詩「ワレンシュタインの陣営」は、初めて聴く曲。わけのわからない曲だった。次から次に力いっぱいのメロディが現れ、それがたち消えると、次のメロディが現れるといった感じで、途方に暮れているうちに終わってしまった。
私は、スメタナという作曲家が好きではない。「モルダウ」もおもしろくないと思ってきた。が、「ワレンシュタインの陣営」を聴くと、それに比べると「モルダウ」は間違いなく傑作だと思う。この曲の時点では、私はエリシュカの美質をあまり見つけられなかった。
次に演奏された「シンフォニエッタ」は圧倒的名演だと思った。これまで、私はとりわけマッケラスの指揮するかなり切れのある鋭い演奏を好んできたが、エリシュカの手にかかると、もっとしなやかになり、ひなびた音楽になる。
私は、日本ヤナーチェク友の会の会員であり、ヤナーチェクのファンだ。2007年には、プラハ、ブルノを回り、ヤナーチェクの生誕の地フクバルディを訪れたことがある。エリシュカの「シンフォニエッタ」を聴くと、あの光景、あの匂いが現れてくる。
最終楽章は圧巻。冒頭のファンファーレがくんずほぐれつし、民族の賛歌、そしてそれを超えたもっと普遍的な生命の賛歌になっていく。魂が震えた。
後半はドヴォルザークの交響曲第6番。これぞまさにいぶし銀のような質感の演奏。エリシュカの美質が最高度に発揮された。ドヴォルザークらしく、懐かしく、親しみやすい。第3楽章がおもしろい。フィナーレは大いに盛り上がった。ちょっと曲そのものの弱さを感じたが、演奏としては大満足。
終演後、ヤナーチェク友の会のメンバー6人とベトナム料理の店で懇親会。以前、何度か来たことのある店だったが、以前ほどおいしくはなかった。ちょっと残念。
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コメント
14日(土曜日)の演奏を、3階自由席で聴きました。ドボルザークの6番という曲は初めて聴きました。自分は音楽の素人ですので、曲の構成とか全然わかりませんし退屈な曲かとは思いましたが、とても感動しました。途中涙腺がゆるむ音楽体験となりました。エリシュカさんという方の力によるものだったのでしょう。是非他の曲で聴いてみたいものです。
投稿: 小野 | 2012年1月15日 (日) 11時29分
小野様
コメント、ありがとうございます。
私も特にエリシュカの追っかけというわけではないのですが、数人の知人が熱心にすすめるので、聴いてみたところ、ほんとうにドヴォルザークにピッタリの演奏でした。私は今回が2度目のエリシュカ体験でした。
まさに涙腺が緩むという感じの演奏ですね。私もぜひまたほかの曲を聴いてみたいと思ったのでした。
投稿: 樋口裕一 | 2012年1月16日 (月) 08時01分