« METライブビューイングのグノー「ファウスト」は期待通り | トップページ | 新国立劇場の「ラ・ボエーム」 »

ベーンケの四つの最後の歌に感動!

 1月17日、サントリーホールで上岡敏之指揮、読売日本交響楽団のリヒャルト・シュトラウスのプログラムを聴いてきた。

 上岡の指揮は二度目。最初は、2007年、ヴッパータール交響楽団によるブルックナーの7番だった。多くの人の高い評価にもかかわらず、私は受け入れられなかった。あまりに遅く、あまりにいじりまわしており、音楽が壊れていると思った。この人のブルックナーは二度と聴くものかと決心したほどだった。私の大嫌いなタイプのブルックナーだった。

 が、今回は、リヒャルト・シュトラウスなので、あれこれいじってくれかまわない。いや、いじってくれるほうがおもしろくなる。しかも、私の大好きな「四つの最後の歌」が曲目に含まれている。そんなわけで足を運んだのだった。

 曲目は、前半に「死と変容」と「四つの最後の歌」。後半に「ドン・ファン」と「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」。私は、大のシュトラウス好きだが、聴くのはもっぱらオペラと歌曲と室内楽が少々で、大人になってからはあまり交響詩は聴かない。久しぶりのシュトラウスの交響詩だった。

 結論から言うと、やはり上岡さんは私には受け入れられなかった。もちろん、はっとするところはたくさんある。鮮烈な音、カルロス・クライバーを思わせるような切れの良さ、スケールの大きな盛り上がり。しかし、なぜ、そこでそんなに繊細にする必要がある? なぜそこで一呼吸置く? なぜそこで意味なく盛り上げる???・・というように、あちこちで納得がいかない。「あざとい」と思ってしまう。そうこうしているうち、私の感覚では音楽が崩壊してしまう。

 読響は、上岡さんの指揮によくついていると思った。ホルンなど、素晴らしく美しい部分がたくさんあった。そして、ところどころ、びしっと決まる。まさにオケが炸裂する。

 今回最高に素晴らしかったのは、アンナ=カタリーナ・ベーンケのソプラノによる「四つの最後の歌」。

 声の威力で押すタイプではない。微妙で繊細。細かいニュアンスをつけて歌う。まさに歌曲のような歌い方。シュヴァルツコップの録音を思い出す。ただし、シュヴァルツコップほど人工的ではない。

 ベーンケは、先日新国立劇場でマルシャリンを聴いた。とてもよかった。もう少し若い人かと思っていたら、近くで見たら、かなりのお歳に思えた。このように微妙に歌うには、それなりの年齢を重ねる必要があるのだろう。

 私の好きなのは第3曲「眠りにつこうとして」なのだが、今回はそれ以上に、第4曲「夕映えの中で」がとてもしっとりとした情感が表出されて、とても素晴らしかった。それにしても、奇跡のように美しい音楽だ。

 私は前から5列目で聴いたが、後ろの席ではどうだっただろう。この微妙なニュアンスは後ろのほうには伝わっていないのではないかと心配になった。

 上岡さんも、さすがにあまり個性的には振らなかったので、私にはこの伴奏はとても素晴らしく聞こえた。色彩的で、様々な楽器が微妙に重なり合って、実に美しい。このくらいに抑えてくれると、私も上岡さんの音楽がとても好きなのに。

|

« METライブビューイングのグノー「ファウスト」は期待通り | トップページ | 新国立劇場の「ラ・ボエーム」 »

音楽」カテゴリの記事

コメント

私は19列目で聴きました。
四つの最後の歌は、確かに前列にいた方が、より繊細なニュアンスが感得できたのかもしれないと思うような、実に微妙な表情がある歌いぶりだったと思います。
クラシック音楽のド素人ながら私もこの歌は大好きで、ベーンケの歌はすばらしいととても感動しました。これだけコンサートで感動した経験はあまりないくらいです。
実のところ日本のオケがこの微妙な音楽の伴奏を破綻なくやれるんだろうかと不安でしたけど、とても集中した危なげない良い演奏をしてくれたと感じました。
最初の「死と変容」は確かにちょっとピンと来ない演奏でティンパニのリズムは全然聞こえないし、全体にエンジンがかかっていない感じがしましたし、確かになんでそこで一呼吸?というのは私もときどき感じました。しっくり乗れていないようなちぐはぐな印象でした。
読響はあまり聴いたことがなかったのですが、ホルンをはじめ金管群は日本のオケらしくない立派な技量なのに驚きました。パーカッションの奏者もみんなセンスが良いと思います。シンバルは一回失敗していましたが、良い演奏をしてくれてかなり気に入りました。

投稿: 幹十四 | 2012年1月18日 (水) 18時11分

ベーンケの公演、知らずに惜しいことをしました。彼女の元帥夫人は私も観ました。地震直後、浦安に住んでいる私は、東京からすぐ近くだというのにトイレも風呂も使えない異常な生活で正直音楽どころではなかったのですが、それでも気を取り直して「ばらの騎士」を聴きに行き、あまりの美しさに泣いてしまいました。本当に私の人生の中でも特別なオペラになってしまいました。フランツ・ハヴラタの素晴らしいオックス男爵と共に、生涯忘れることはないと思います。

投稿: 猫またぎなリスナー | 2012年1月18日 (水) 23時58分

上岡さんのそのブルックナーは私も聴きました。この作品が二楽章しかない交響曲でしかもそれがブルックナーの絶筆だったら成立したようなその演奏に、正直何ともいえないものを感じてしまいました。やってることはシンブルなんですけど体内時計が晩年のチェリビダッケ状態といいましょうか…。今回パスしてしまったのは、そのときの印象が気持ちを後ろ向きにしてしまっためなのですが、今回の読んでいていろいろな意味で聴いておけばよかったかなとちょっと後悔しています。

昨年この時期の大野さんとはもちろん違う意味でですが。

余談ですが来月はベルトラン・ド・ビリーがシューベルトの「グレイト」を、ボリショイバレエがソローキンの指揮で公演を、それぞれ演奏&公演します。そして3月にはフルシャがプラハフィルと来日という、なんかようやく演奏会レベルでは311の後遺症が癒えてきたような気がします。

投稿: かきのたね | 2012年1月20日 (金) 23時21分

幹十四様
コメント、ありがとうございます。
「4つの最後の歌」は大好きですので、時間が許す限りコンサートを聴いているのですが(ただ、残念ながら、先日のフリットリは聴けませんでした!)、ベーンケを聴いての感動は、30年ほど前のジェシー・ノーマン(伴奏は小澤征爾指揮の新日フィルだったと記憶します)以来でした。本当に素晴らしい歌だったと思います。
19列目で聴くよりも、前のほうですと、もっと微妙なニュアンスを味わえたかもしれません。信じられないほど繊細でした。読響はとてもよいオケですね。私もそんなにたくさん聴いているわけではありませんが。

投稿: 樋口裕一 | 2012年1月21日 (土) 07時56分

猫またぎなリスナー様
コメント、ありがとうございます。
新国立の「ばらの騎士」、とても評判がよいようですが、私は推進力のない指揮が好きではありませんでした。歌手たちはとてもよかったのですが。その中でもベーンケは注目するべき歌手だと思ったのですが、「4つの最後の歌」は、そんな私の期待をはるか上回るものでした。「とてもいい歌手」というレベルではなく、今、この曲を最も美しく歌える最高の歌手だと思いました。

投稿: 樋口裕一 | 2012年1月21日 (土) 08時02分

かきのたね様
コメント、ありがとうございます。
チェリビダッケ晩年のブルックナーは、当時、夢中になって追いかけて聴きましたが、後にCDで聴いて、ついていけないという気持ちになりました。上岡さんのブルックナー、遅さはチェリビダッケ並みでしたね。が、チェリビダッケについては、必然的に遅くなってるように感じたのですが、上岡さんは若いだけに、わざとらしさを感じてしまったのでした。
とはいえ、上岡さんもこれからの指揮者だと思います。近いうちに感動させてくれることでしょう。

投稿: 樋口裕一 | 2012年1月21日 (土) 08時07分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/532807/53761669

この記事へのトラックバック一覧です: ベーンケの四つの最後の歌に感動!:

« METライブビューイングのグノー「ファウスト」は期待通り | トップページ | 新国立劇場の「ラ・ボエーム」 »