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「サロメ」「カプリッチョ」「カルメン」の映像

 明日以降、また忙しくなるが、昨日から少しだけゆっくりしている。ちょっとした時間を使って、いくつかオペラの映像を見た。簡単に感想を記しておく。

778 まずは、シュテファン・ゾルテス指揮、バーデンバーデン祝祭劇場の『サロメ』のBD(ブルーレイディスク)。DVDからBDに切り替えつつある。今回もBDを見た。

かなり前に売り出されているのをレコード店の店頭で気づいていたが、すでにオンラインで予約注文していたので、到着を待っていた。オンラインでほかのCDと一緒に注文したら、その発売日が遅かったため、なかなか届かなかった(これは、オンラインで買う時に注意しなければいけないことだ!)。

 全体的にはとても良かった。サロメを歌うのはアンゲラ・デノケ。実に立派な歌唱。細身なのに、しっかりした声を出し、歴代のサロメ歌いにまったく引けを取らない。容姿もいいし、大歌手になったものだと思った。ただ、そそるような色気がなく、もちろん少女には見えない。先日、NHK-BSで放送された昨年のザルツブルク音楽祭の「マクロプロス事件」(私は、この実演をザルツブルクで見て、演出のひどさに憤りを覚え、そのことをこのブログにも書きつけた!)でもそうだったが、デノケにもう少し色気が出てきたら、正真正銘の大プリマドンナになるだろうにと思った。

 ヘロデを歌うキム・ヘグリー、ヘロディアスを歌うドリス・ゾッフェルも実にいい。ヨカナーンのアラン・ヘルドは少し弱いと思った。声も演技もヨハナーンに思えない。不思議なヘアスタイルをしていたが、何か意味があるのだろうか。

 ニコラス・レーンホフの演出は、今となっては極めておとなしいもの。現代に近い時代に設定されており、卑猥な踊りがあるわけではない。シュテファン・ゾルテスの指揮ももちろん、悪くないのだが、はっとするような鋭さはなかった。むしろ、音楽的な美しさを重視しているようだ。が、私は『サロメ』には、もっと「衝撃」を求める。とはいえ、先日の二期会のコンヴィチュニーのような独りよがりのスキャンダラス演出はご免こうむりたいが。

 

798 ・アンドリュー・デイヴィス指揮 メトロポリタン歌劇場の「カプリッチョ」

 本当にメトロポリタン歌劇場のこのところの充実ぶりには驚く。ヨーロッパのオペラハウスがすべて奇をてらった演出を売り物にしているのに対して、穏当な演出、最高レベルの歌手陣をそろえ、誰にも満足できるオペラを見せてくれる。

「カプリッチョ」は、パリ・オペラ座のDVDも良かったが、それに劣らず素晴らしい。マドレーヌを歌うのは、ルネ・フレミング。これはもうほかの人は考えられないほどのはまり役。シュヴァルツコップを超えたマドレーヌ歌いだと思う。最後のアリアなど、実にしみじみとして、シュトラウス晩年の味をしっかりと出している。フラマンのジョセフ・カイザー、オリヴィエのラッセル・ブローンも実にいい。演出はジーン・コックス。ちょっと当たり前すぎると思うが、ともあれ安心して見ていられる。この不思議なテーマのオペラが実に自然に楽しく展開される。

161 ・ヤネック・ネゼ=セガン指揮 メトロポリタン歌劇場の「カルメン」DVD

 私は「カルメン」好きではないので、それほどたくさんの映像を見たわけではないが、これまで私が見た「カルメン」の映像の中で最も感銘を受けた。カラヤンのものよりクライバーのものよりもいい。

 カルメンを歌うエリーナ・ガランチャとドン・ホセを歌うロベルト・アラーニャ、ミカエラを歌うバルバラ・フリットリが、歌唱も演技も容姿も理想的。エスカミーリョがちょっと魅力に欠けるが、もちろん悪くない。脇役も実にしっかりしている。

そして、何よりも、ネゼ=セガンの指揮が素晴らしい。生きがよく、ぐいぐいと音楽を引っ張っていく。厚みがあり、エネルギッシュな官能性がある。自由奔放で悪に魅力にあふれるカルメンを描くのにぴったり。メトロポリタンなので、演出も極めて妥当なもので、すべてにおいて納得がいく。いたずらにエロティックにしていないが、十分にエロスを感じさせる。

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コメント

今回案内していたDVDは、樋口先生の文を読むといずれも観たいという気にさせられますが、特に『カプリッチョ』に興味が湧きます。フレミングのマドレーヌは他にもあるのを観ましたが、それがパリ・オペラ座のビデオでしたか?あれもある意味特撮を用いた、恐らくはテレビ用ならではの面白い演出ですが、今回のMET盤がライヴなら、実演でのフレミングのマドレーヌも聴きたいですね。去年のMET来日公演は大物歌手が何人もキャンセルしたという残念な事はありましたが、良かった事の一つとしてオーケストラの充実が挙げられます。しかしぼくが聴いたのはヴェルディとプッチーニ(残念ながら『ルチア』は聴きませんでした)で、大編成オケならではの迫力を活かした響きの曲ばかり(もちろんあの2曲は、それだけではありませんけれども)でした。しかし『カプリッチョ』は各パート一人ずつの弦楽アンサンブル始まり、オケ全体の人数も少ないので、ロマン派以降だけではなく、古典派にも通じる、デリケートな美しい響きが絶対条件です。大味というイメージが強いアメリカのオケに、R.シュトラウス特有の繊細な音が出せるかと疑問がないでもありませんが、最近のメト管の充実ぶりからすれば、そちらも期待して良さそうですね。

投稿: 崎田幸一 | 2012年3月20日 (火) 08時26分

崎田幸一様
コメント、ありがとうございます。
おっしゃる通りだと思います。しばらく前に来日した時、メトのオケを聞いて、一流オケとはかなり差があるように感じたものでした。が、最近はまったくそれを感じません。それどころか、実に厚みがあり、精緻さ、機敏さを感じます。この十年前後に力量を高めたオケの一つではないかと思います。
「カプリッチョ」も、特に意識して聞いたわけではありませんが、最初の六重奏もとてもきれいで晩年のシュトラウス特有の精妙さを感じました。期待して良いと思います。

投稿: 樋口裕一 | 2012年3月21日 (水) 21時26分

ルネ・フレミングの「カプリッチョ」は、樋口先生のおっしゃるとおり、素晴らしかったですね。以前、彼女がマルシャリンを演じた「バラの騎士」を観た時には、シュワルツコップのイメージが強かったためか、おきゃんな姉ちゃん的なマルシャリンの印象がありましたが、「カプリッチョ」では多大な進化に圧倒されました。歌唱力も抜群で、今やR.シュトラウス歌いでは他の追随を許さない存在です。しかも、METの演出は安心して観ていられるのもいいですね。

投稿: 白ネコ | 2012年3月24日 (土) 11時51分

白ネコ様
コメント、ありがとうございます。
おっしゃる通り、私もマルシャリンに関しては、まだまだシュヴァルツコップには及ばないと思ったのでしたが、マドレーヌに関しては、ほかの人は考えられないという領域にまで達しているように思います。
このオペラを見ると、どうしてもテーマについての違和感が残り、普遍的な楽しめるオペラにはならないと感じてしまうのですが、今回の映像に関しては、「ばらの騎士」などとまったく同じように楽しめました。演出、指揮の力量のおかげもあるでしょうが、ルネ・フレミングの功績も大きいと思います。

投稿: 樋口裕一 | 2012年3月25日 (日) 08時37分

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