新国立劇場「さまよえるオランダ人」にはかなり不満を抱いた
3月11日、新国立劇場で「さまよえるオランダ人」の公演を見た。かなり不満を感じる舞台だった。
オランダ人を歌ったエフゲニー・ニキティンとゼンタを歌ったジェニファー・ウィルソンはかなりよかった。ウィルソンのほうはちょっとコントロールしきれずにいるところを感じたが、ニキティンはさすがにしっかりしている。エリックのトミスラフ・ムツェックもしっかりしたきれいな声だった。
ダーラント役のディオゲネス・ランデスはだんだんと調子が上がってきたものの、ずっと本調子でない様子だった。とりわけ第一幕は音程も不安定。マリーの竹本節子、舵手の望月哲也は主役にまったく劣っていなかった。このダーラントくらいの歌手は日本人に何人もいるのではないかと思った。
私が大いに不満を抱いたのは、指揮のトマーシュ・ネトピルだった。序曲の冒頭は少し期待を抱かせたが、その後がいけない。歌わせどころになるとぐっとテンポを落として、抒情的にしてしまう。第二幕のゼンタのバラードも、途中からゆったりとしてテンポにして、イタリアオペラの「歌」の雰囲気になる。これではワーグナーにならない。
しかも、緊迫感がなく、音量を上げるところも迫力が出てこない。私には弛緩しているようにきこえた。ワーグナーのうねりがなく、深みも厚みもない。まるでベッリーニのようだった。もしかしたら、これまでのワーグナーの演奏を改めて、ベッリーニ風のワーグナーにしたかったのかもしれない。
だが、「オランダ人」は、その後のワーグナーの傑作群とは完成度もドラマとしての迫真力も比べようのない作品だとはいえ、それでもワーグナー作品には違いない。それをこのように演奏されると、ワーグナー好きとしては、かなり怒りを覚えてしまう。
東京交響楽団は頑張っていたが、金管群がときどき苦しそうだった。せっかくのオランダ人のアリアやゼンタのバラードなのに、指揮のために、私は少しも感動できなかった。歌手は悪くなかっただけに残念。合唱はとてもよかった。今回の公演は、合唱によって救われた感じがした。
演出はかなりオーソドックス。ただ、ところどころで台本と異なるところがあるが、わざわざ変える意味がよくわからなかった。第二幕の、台本では、オランダ人に初めて会って驚く箇所は、なぜかオランダ人の肖像画が落ちて驚くことになっていた。幕切れは、ゼンタを乗せたオランダ人が船に乗らないで地上に残され、そこで死を迎える(つまり、永遠の劫罰から救われる)という設定。意図はわからないでもないが、目の前で死を迎えるのを見ていると、それを「救済」とは感じられなくなってしまう。
今日は、3・11。あれから1年がたつ。新国立劇場で上演前に黙祷があるのかと思ったが、行われなかった。こうして、時間が過ぎていく。
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