ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2012 最終日(5月5日)
最終日にしてやっと快晴。ラ・フォル・ジュルネらしくなってきた。広場に人だかりができ、屋台の前に行列ができ、人々でごった返す。こうでなくっちゃ。
今日は7つのコンサートを聴いた。大満足の一日だった。ごく簡単に感想を記す。
・ドミトリ・マフチンのヴァイオリン、児玉桃のピアノでプロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第1番 とチャイコフスキーの「憂うつなセレナード」(ヴァイオリン・ピアノ版)
素晴らしかった。知的なアプローチでありながら、プロコフィエフではかなりスケール大きく演奏。構成感もしっかりしているため、「なるほど、こんな構成になっていたのか」とあちこちで発見があった。児玉桃さんのピアノも素晴らしい。しっかりと寄り添っている。
・ジョセフ・スヴェンセンの指揮、パリ室内管弦楽団の演奏でストラヴィンスキー「弦楽のための協奏曲」、タチアナ・ヴァシリエヴァのチェロが加わってショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番。
ストラヴィンスキーはあまりおもしろくなかった。今回、ストラヴィンスキーの曲をいくつか聴いたが、どうも私はなじめない。一時期、「春の祭典」をかなり聴いたが、考えてみると、一度もストラヴィンスキーを好きになったことがない。今回聴いても、やはり退屈だった。
ショスタコーヴィチの協奏曲は凄まじい演奏だった。今回聴いたほかのどのチェリストよりも、いやどの演奏家よりもショスタコーヴィチらしい演奏。若い女性にはショスタコーヴィチの世界を作り出すのは無理なのではないかと思っていたのだが、とんでもない。ショスタコーヴィチの怨念の世界を激しく描出してくれた。ひとりの世界に入り込み、激しい思い込みを抱き、世界に対する怒りを鬱積させていく・・・そんな迫力があった。圧倒された。もしかしたら、フランス人チェリストよりも、日本人チェリストよりも、ヴァシリエヴァのほうがずっと辛酸をなめ、怨念を持っているのかもしれない。こんな演奏は、豊かな社会で育った人間にはできないと思った。
・ジャン=ジャック・カントロフの指揮、シンフォニア・ヴァルソヴィアでチャイコフスキーのバレエ組曲「白鳥の湖」、アブデル・ラーマン・エル=バシャのピアノが加わって、プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番。
カントロフは指揮者としても素晴らしい。「白鳥の湖」はこの通俗名曲を実におもしろく演奏してくれた。協奏曲は、明快で知的なアプローチ。エル=バシャのスタイルかもしれないが。もう少し派手にやってもよいのではないかと思った。が、くっきりとした輪郭も見事な演奏。
・ジョセフ・スヴェンセンの指揮、パリ室内管弦楽団の演奏で、ストラヴィンスキーの「プルチネルラ組曲」、イェウン・チェのヴァイオリンが加わって、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番。
「プルチネルラ組曲」はほかのストラヴィンスキーの曲よりはおもしろかったが、やはり退屈した。イェウン・チェは、韓国人の若い女性のヴァイオリニスト。ひたむきで我が強く、かなり思い切りのよいアプローチ。むしろショスタコーヴィチにふさわしい個性に思えた。が、なかなかおもしろい。私はこんなヴァイオリニストは大好きだ。
・フェイサル・カルイの指揮、ベアルン地方ポー管弦楽団で、ショスタコーヴィチのバレエ組曲第1番、児玉桃のピアノが加わってチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。
カルイの指揮がおもしろい。踊るような指揮ぶり。オケのメンバーも乗りに乗って、まるで「のだめカンタービレ」の映画のように、途中で立ち上がったり、身体を揺らしたりして、面白おかしく演奏。メリハリの付いた楽しい音楽になった。ショスタコーヴィチも楽しい音楽を書けるんだ!とびっくり。
チャイコフスキーもかなり鮮烈な演奏。児玉さんはきわめて知的なアプローチ。情緒に流されないが、鳴らすところは鳴らし、実にダイナミック。知的なロマティズムが鳴り渡った。素晴らしい。
・ジャン=ジャック・カントロフの指揮、シンフォニア・ヴァルソヴィアの演奏で、グリンカの「ルスランとリュドミラ」序曲、川久保賜紀のヴァイオリンが加わって、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。
カントロフの指揮はしっかりとつぼをわきまえている。シンフォニア・ヴァルソヴィアも見事。川久保賜紀さんのヴァイオリンは音の処理がほれぼれするほど美しい。そのため、高貴で清潔な音楽になっている。チャイコフスキーの情緒的なところがかき消され、高貴な音楽になっている。すがすがしい感動を覚えた。
・オリヴィエ・シャルリエのヴァイオリンとエマニュエル・シュトロッセのピアノでプロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第1番、アンリ・ドマルケットのチェロが加わってショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲第2番。
最後の最後で最高の演奏にぶつかった。シャルリエは本当に素晴らしい。プロコフィエフのソナタは、朝、マフチン+児玉桃で聴いたのと同じ曲。マフチンも素晴らしかったが、シャルリエはもっとずっと繊細に、そして高貴に演奏。マフチンがロシア流だとすると、シャルリエはフランス流。どちらも素晴らしい。シャルリエは、フランス的に盛り上がり、激しく燃える。このようなアプローチもあるのだと納得。
もっとすごかったのがピアノ三重奏曲。凄まじいの一語に尽きる。ショスタコーヴィチ流の怨念とは少し違うような気がする。もっと普遍的。まるでベートーヴェンの大フーガのロシア版だと思った。激しい音をたたきつける。それがショスタコーヴィチの個人の怨念を離れて、人類の人生に対する思いに重なる。第四楽章はあまりの凄さに涙が出てきた。圧倒された。
(次のコンサートまでの間、「ボリス・ゴドゥノフ宮廷の音楽」のコンサートをのぞいてみた。前日、よみうりホールで聴いたコンサートだが、あまりにすばらしかったので、もる一度聴いてみたいと思った。それに、前日、空席が目立ったので、もし今日も空席が多かったら、日本人の一人として大変申し訳ないと思い、ひとりでも客が多いほうがよかろうとも思ったのだった。ほぼ満員だったので安心。やはり素晴らしい演奏だった!)
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