ヒラリー・ハーンの圧倒的なヴァイオリン。パーヴォ・ヤルヴィ+フランクフルト放送響のこと
6月2日、横浜のみなとみらいホールで、パーヴォ・ヤルヴィ指揮、フランクフルト放送交響楽団の演奏を聴いてきた。
前半はヒラリー・ハーンのヴァイオリンでメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。これは凄まじい演奏だった。彼女らしい研ぎ澄まされ、精緻で凛とした演奏。技術は完璧。情緒に堕することなく、形を歪めることなく、びしっと決めるが、その結果、この上なく美しくロマンティックな世界が広がる。第二楽章の途中から、私はヒラリー・ハーン独特の世界に酔った。第三楽章はただただヒラリーの音に心をかき乱されていた。
バッハの無伴奏ソナタ第2番から2曲をアンコール。アンダンテとアレグロ。アレグロは圧倒的だった。一筋の透明な光が空高く生きて動いている。そんなイメージを持った。本当に素晴らしいヴァイオリニストだ。
あまりの素晴らしさゆえに、私の表現力では言葉にすることができない。
私は男性ヴァイオリニストでは、ネマニャ・ラドゥロヴィチ、女性ヴァイオリニストではヒラリー・ハーンの音楽が大好きだ。それぞれ方向性も音楽性も異なると、どちらにも心の奥底からゆすぶられる。
後半はブルックナーの交響曲第8番。
なかなか良い演奏だった。要所要所では魂が震えた。とりわけ、盛り上がる部分は素晴らしい。とりわけ個性を際立たせようとするわけではなく、じっくりと音楽を組み立ていようとしているのがよくわかる。以前聴いたハーディングのブルックナーなどとは異なって、古典的なブルックナーの様式は守ろうとしているように見える。その点、私はとても気に入った。
ただ、全体的にはところどころ何をしようとしているのかわからないところがあった。聴いている私は少しダレた。が、「ちょっとダレたなあ・・」と思っていると、その少し後で素晴らしい個所がある。
要するに、部分的には素晴らしいが、構成感が不足し、全体としてはまだ十分に完成されていない・・・というのが、私の正直な感想だ。もう少し手慣れたころにもう一度、この人のブルックナーを聴いてみたいと思った。きっと凄まじいブルックナーになっていることだろう。
オケは、ホルンがしばしば変な音を出していた。木管楽器の美しさは感じたが、ちょっと期待外れ。
アンコールに「悲しきワルツ」。これは実にうまい。父親のネーメの指揮ぶりを思い出した。実はパーヴォも父親譲りで小曲の名人なのではないかと思った。
仕事で猛烈に忙しい中でのひと時だったが、ヒラリー・ハーンに酔うことができて、実に満足。
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コメント
同じコンサートを聴きました。ハーンのヴァイオリンはさすがに圧巻でした。メンデルスゾーンは優雅で、バッハには泣けました。
ブルックナーのほうは、ご指摘のようにホルンの音はずしが耳だって、少し残念でした。3楽章のハープも響いてこないように思いました。昨年のシャイー/ゲヴァントハウスと比べてしまうと、全体の構成の弱さを感じました。今後に期待したいと思います。
投稿: 石田 雅美 | 2012年6月 3日 (日) 11時07分
石田雅美様
コメント、ありがとうございます。
同じように感じられた人がいたこと、とてもうれしく思います。とはいえ、あの場に居合わせた多くの人が同じように感じたのかもしれませんが。
それにしても、ハーンは素晴らしかったですね。忘れられないメンデルスゾーンとバッハでした。
投稿: 樋口裕一 | 2012年6月 3日 (日) 21時38分
アンコールもあって素敵ですね。
画家がアトリエで試行錯誤するように、自分のカラーを追求している途中なのでしょう。
まさに変遷に立ち会っていると思います。
投稿: やまりん | 2012年6月 4日 (月) 13時11分
同じコンサートを聴きました。
メンデルスゾーンはすばらしかったし、バッハももっと素晴らしかったです。テンポのいい楽章でも、ドライブ感と気品が共存する稀有なヴァイオリニストだと思います。
ブルックナーの方は、部分的にはハッとするところが多々あったのですが、全体としてはまだ練れてない印象でした。
投稿: | 2012年6月 5日 (火) 12時41分
やまりん様、そして名前を書かれていない方
コメント、ありがとうございます。
(一度、返事を書いたつもりだったのですが、慣れないパソコンからだったので、ブログに反映されていなかったようです)
あのコンサートに立ち会った人の多くが同じように感じたのだということ、改めて認識しました。ハーンのヴァイオリン、とりわけバッハのアレグロは素晴らしく、ヤルヴィのブルックナーは、よいところがありながらも未完成な印象でした。
投稿: 樋口裕一 | 2012年6月13日 (水) 10時06分