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「黄金時代のカリスマ指揮者たち」、クレメンス・クラウスのこと

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 「黄金時代のカリスマ指揮者たち」(音楽之友社)と題されたムックが先日発売になった。フルトヴェングラー、トスカニーニ、ワルターをはじめとして、日本で言うところの「明治時代」に生まれた20人の大指揮者たちについて、「聴き巧者が熱く語」っている。フルトヴェングラーを故・吉田秀和先生(ただし、これは書き下ろしではなく、再録)、ムラヴィンスキーを宇野功芳先生が担当するなど、現代を代表する評論家たちが執筆者の大半を占めている。

 音楽関係以外の執筆者はごく少数だが、この私も執筆者の一人に名を連ねている。そのような音楽界の大御所の間にずぶの素人である私が加わることに気が引ける思いをしながら、クレメンス・クラウスについて書かせていただいた。

 実は、中学時代から、フルトヴェングラーとともにクレメンス・クラウスが大好きだった。最初に聴いたのは、クラウスがウィーンフィルを指揮した「サロメ」全曲盤だった。中学3年生のころ、このレコードを聴いて天と地がひっくりかえるような驚きを覚えた。リヒャルト・シュトラウスの交響詩もクラウスを通して知った。70年代末には、バイロイト音楽祭の54年のライブ・レコードを入手した。これも圧倒的な名演奏だ。

 クレメンス・クラウスは典雅で気品にあふれた演奏をすることで知られている。だが、私はクラウスの求心的で緊迫感あふれるドラマ作りが好きだ。ときに、疾風怒濤としか言いようのない激しい表現をする。私はそれがクラウスの最高の魅力だと思っている。その点があまり知られていないので、それについて書いた。いつかクラウスについて書きたいと思っていたので、このような機会が与えられて、実にありがたい。

 残念ながら、私は極度の音楽的才能の欠如のために、音楽家にも音楽評論家にもなれなかった。自分の才能のなさに気づいてから、音楽はあくまでも趣味にとどめようと思った。が、音楽を愛し、音楽によって人生を決定づけられ、音楽によって人生を支えられてきたことは、誰にも負けないと思っている。そのような思いをこの文章の中に書いた。

 よろしかったら、お読みいただきたい。

見本が届いたので、ほかの執筆者の部分も読ませていただいた。ここに取り上げられた20人の指揮者の演奏は、私もこれまでずいぶんと聴いてきた。トスカニーニ、ワルター、クナッパーツブッシュ、クレンペラー、ミュンシュ、ベーム、セルについては、夢中で聴いた時期がある。フルトヴェングラーとヴァントは今も最も好きな指揮者だ。

どの指揮者を取り上げた文章も、執筆者の思いがこもっていてとてもおもしろい。私だけでなく、これらの執筆者にとって、音楽が人生の中心にあり、音楽によって人生が変わったことがよくわかる。そして、ここに取り上げられている指揮者がその人の人生の中心を彩っていることも納得がいく。音楽を愛する人のほとんどがこのような体験と歴史を持っているのだろうと思う。強い連帯意識を覚えた。

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コメント

クラウスはあと10年健在でしたら今とはかなり評価が違ったと思います。ウィーンフイとの1956年の北米ツアーはもちろん、ひょっとしたら1959年の日本公演にも同行してくれたかもしれません。バイロイトやニューイヤーコンサートは常連となり、ステレオ録音もいろいろとしてくれたでしょう、ひょっとしたらショルティあたりが任されていたオペラ録音のいくつかはクラウスがしていたでしょう。それを思うと本当に残念でなりません。彼の遺されたライブ録音は極力世に出してほしいと思ってます。

あと日本におけるクラウス=Jシュトラウスというイメージ。たしかに悪いというわけではないのですが、特に晩年顕著にあらわれ樋口先生もおっしゃられてる凄みという部分がかなり欠落しているように思われてしかたありません。今回の本でクラウス再評価のきっかけになるとよいですね。(近くの本屋に無かったので少し遠征します)

それにしてもクラウスの特にウィーンフィルとの録音。どんなに録音が古くても他の指揮者に比べて驚くほど音が鮮明に収録されているのにいつも驚かされます。クラウスの実演におけるオケの音。ひょっとするととんでもないくらい美麗かつ鮮明明晰な音がしていたのかもしれませんね。

投稿: かきのたね | 2012年7月27日 (金) 23時07分

とても面白そうな本ですね!
ぜひ読ませていただきます。
ただ、内容を調べていたら、カラヤンが入っていないことに気づきました。
朝比奈やヴァントが入っているので、世代的には入っていていいと思うんですが。
「その他の指揮者」に押し込められてしまったのかな?
ファンとしては若干寂しい気も…。

投稿: 通りすがり | 2012年7月30日 (月) 03時33分

かきのたね様
コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、もう少し長生きしていたら、クラウスはもっと大きな存在として知られていたでしょうね。もしかしたら、ものすごくきれいな音だったのかもしれません。言われて初めて、その点に気づきました。まさにその通りですね。

投稿: 樋口裕一 | 2012年7月30日 (月) 14時57分

通りすがり様
コメント、ありがとうございます。
このムックにカラヤンが含まれていないのは、「19世紀的カリスマ性がない」という理由のようです(17ページと222ページ)。しかし、もしこの本がある程度売れたら、カラヤン、バーンスタインを扱うムックも出るのではないでしょうか。期待したいところです。

投稿: 樋口裕一 | 2012年7月30日 (月) 15時06分

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