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六本木男声合唱団倶楽部「最後の手紙」の衝撃

 7月18日、サントリーホールで六本木男声合唱団倶楽部第11回定期公演、三枝成彰作曲「最後の手紙」を聴いた。一昨年の初演、昨年の再演に続いて、これで三度目だ。第二次大戦で死んだ様々な国の兵士たちが愛する人に出した最後の手紙に三枝さんが音楽をつけたもの。今回も大いに感動した。いやはや凄い曲だ。

 六本木男声合唱団は政界、財界、メディア界の有名人の集まるアマの合唱団だ。だから、決して上手ではない。ただ、「最後の手紙」を聴いた感動のあまり、私も入団したくなって練習に行ったが、いくら上手ではないとはいえ、やはり私にはついていけそうもないと実感して、そのままになっている。

二度目、三度目とだんだんと合唱団は上達し、今回は、プロの合唱団と比べて、切れの悪さ、高音の苦しさをのぞけば、気になるところはなかった。音程はかなりしっかりしている。初演の際には、合唱団の中には口パクに近い人もいそうな気がしたが、今回はそのようなことはない。全員がしっかりと、心をこめて歌っているのが伝わってくる。CDで繰り返し聴くには、この演奏は辛いと思うが、実演で聴くには何の不満もない。いや、死んだ兵士たちの最後の手紙という題材であるだけに、むしろ素人臭さが説得力を持つ。真摯でリアルな歌に聞こえる。一般の人の平和の祈りという事実がじかに伝わってくる。

 初演の際にも思ったが、やはり詩とメロディの悲痛さに言葉をなくす。前回、アメリカと朝鮮の人の手紙につけた音楽に心を揺さぶられた。今回もやはりその二つが最も良かった。そのほか、ポーランドの手紙もイギリスの手紙も感動的だった。

そして、最後の片山日出雄氏の言葉はことのほか、強い感動を呼ぶ。「心ならずともこの不愉快な立場に置かれて、私を処刑しなくてならない皆さまに心から同情申し上げます。どうか深刻にお考えならないようにして下さい」という最後の言葉と、そこにつけられた音楽の衝撃は大きい。一つ上の次元に達した精神といえるだろう。

 今回、演奏する側と同様、聴いている私にも余裕ができて、三枝さんの作曲技術などにも耳で追うことができた。専門的なことはわからないが、この合唱団にはかなり難しいはずの技法があちこちに使われているようだ。耳に優しいメロディだが、実は様々な高度な技術が使われているのだろう。現代において、わかりやすい音楽を書くのは、難解な音楽を書くよりもずっと高度な技術を要することなのだと思う。

 終演後、パーティが予定されており、私も招待されていたが、雷が鳴り始めたので、あわてて帰った。出演なさった方の話を伺いたかったが、私の自宅はかなり遠い上、明日は1時限から授業なので、ゆっくりしていられない。

また、この合唱団に入りたい気持ちが起こってきた・・・

ところで、三枝さんが2月に特攻隊を題材にした新しいオペラを発表するとのこと。三枝ファンの私としては、とてもとても楽しみだ。

きわめて個人的な願いだが、三枝さんが辺見じゅんのノンフィクション大賞受賞作「収容所〈ラーゲリ〉から来た遺書」をオペラにしてくれたら、こんなうれしいことはない。これは、シベリア抑留者たちの苦しみと努力と家族への祈りの物語で、涙なしでは読み進めることのできない本だ。三枝さんのオペラにピッタリの題材だと思う。立教大学で教えを得た山本顕一先生のお父様が、この物語の主人公であるために、この本の存在を知ったのだったが、そうした個人的事情は別にして、この題材につけた三枝さんの音楽をぜひ聞きたいと心から思う。

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コメント

この合唱団は著名人に混じって、プロの声楽家も参加している、と聞いたことがあります。それゆえ最終的にはそれなりに充実した演奏ができるのだと思います。

投稿: 通りすがり | 2012年8月 5日 (日) 13時28分

通りすがり様
六本木男声合唱団には、確かにプロレベルの方が混じっておられるようです。そして、第一回目には、そのような方の声ばかり聞こえるような気がしました。が、すでにそのレベルは超えているのではないかと思います。速いパッセージでは、ついていけずにいる声が聞こえますが、全体的にはかなりしっかりと歌っているように思います。一度、ナマでお聞きになってみてください。

投稿: 樋口裕一 | 2012年8月 8日 (水) 21時11分

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