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ザルツブルク音楽祭、ポリーニのベートーヴェン、30・31・32番のソナタの境地

 8月19日夜、ザルツブルク音楽祭祝祭大劇場で行われたマウリツィオ・ポリーニによるベートーヴェンのソナタ303132番のリサイタルから先程帰ってきた。いやはや、さすがというべきか、凄い演奏。

 このブログを読んでくださっている人はお気づきだと思うが、私は実はほとんどピアノソロの曲は聴かない。ピアノが嫌いというわけではない。協奏曲や室内楽はピアノの入っているものを聴く。ただ、ピアノ独奏となると辛い。そんなわけで、私としては久しぶりのピアノソロ。そして、ピアノソロ曲について批評めいたことを言う資格は、ほかの曲以上に、私にはまったくない。今回演奏された三つのソナタも、もちろん何度も聴いたことがあるが、交響曲や協奏曲やヴァイオリンソナタほどに繰り返し聴いてなじんだ曲ではない。それゆえ、きわめて素朴な印象だけを書かせていただく。

 いやはやポリーニも歳をとったと思った。悪い意味ではない。私が初めてポリーニの演奏をCDで聴いた時のような激しく緊張感にあふれる演奏ではなかった。音もかつてのような輝かしく強い音ではなかった。老チェリストがバッハの無伴奏を自由な境地で演奏するように、ベートーヴェンの最晩年のソナタを演奏して見せてくれていると思った。

 とりわけ32番の終楽章の変奏曲。変奏をいつくしみ、楽しみ、これまでと違った高みを描いてくれる。力まず、巧まず、自然に深い境地を流れるように描く。そして、それがベートーヴェンの最晩年の境地と重なる。そして、もちろん爆発するべきところは爆発する。しかし、そこに深い思いが重なっている。私は何度か魂が震えた。この私がピアノソロに動かされることはめったにないのだが、まさに魂が震えた。

 そうか、ベートーヴェンの最後の境地というのはこんなものだったのか…と思った。

 2曲、アンコールされたが、ピアノ曲に強くない私は何の曲かは知らない。ベートーヴェンだとは思うが。知らないながら、これらにも十分に感動した。

 私は最前列。ポリーニがまさに目の前。好んでとった席ではないが。それに、こんなことを言うとバチが当りそうだが、初めのうちポリーニ自身の鼻歌が気になってピアノの音に集中できなかったが、ともあれポリーニの生の姿をしっかりと味わうことができた。

 それにしても、ポリーニは、登場し、演奏し、演奏が終わって退場するまで、ずっと暗い表情をしている。笑っても、むしろひきつったような笑いに見える。観衆におびえながら、ただ音楽に救いを求めている・・・というようにも見えた。

「ラ・ボエーム」と「カルメン」の二つのオペラに少々不満が残った後だったので、とても満足。幸せな気分で眠ることができそう・・・

 

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