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メトロポリタン・オペラの「ニーベルングの指環」DVD

 台風の被害もなく、無事、通り過ぎた。今日は朝から近くの病院で「人間ドック」。結果はしばらく後になるが、まあ心配なさそう。

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1週間、少しずつ、メトロポリタン・オペラの「指環」全曲のDVDを見ていた。演出はロベール・ルパージュ、指揮は「ラインの黄金」と「ワルキューレ」はジェイムズ・レヴァイン、「ジークフリート」と「神々の黄昏」は、ファビオ・ルイージ。METライブビューイングで公開されていた映像。

 私は、METライブビューイングの「指環」のうち、実際に見ることができたのは、「ワルキューレ」だけだった。ほかは、日にちが合わずに見られなかった。8月に再上演されたが、その際も、ちょうどザルツブルク・バイロイトに行っている時期と重なっていた。そんなわけで、ほかの3作は初めて見た。

 全体的に、予想にたがわず素晴らしい。バイロイトなどのヨーロッパのワーグナー上演が演出偏重になって、「読み替え」が盛んなのに対して、こちらはかなり穏当な演出なので、安心して見ていられる。歌手は超一流。しかも、メトロポリタン歌劇場管弦楽団も、一昔前に比べてぐっとレベルが上がって、ヨーロッパのオケにまったく引けを取らない。

 ただ、やはりヨーロッパのワーグナーに比べて、あまりに散文的な演出と演奏であることは間違いない。歌手たちの顔の表情もまさしく人間ドラマを思わせる。ヴォータンを歌うブリン・ターフェルやブリュンヒルデを歌うデボラ・ヴォイトの表情豊かな演技は、まるでハリウッド映画、あるいはもっとはっきり言ってしまうとディズニーのアニメを思わせる。ヴォイトは楽天的で余裕のある顔つきなので、どうも切迫感を感じないし、そもそも神話世界という感じがしない。バイロイトの演出は敢えて脱神話的にしている傾向を感じるが、メトロポリタンのものは根っから世俗的。

 とはいえ、ルパージュの演出は本当に見事。ほとんど台本通りに物事が起こるが、古臭さはまったく感じない。数十枚のパネルを使った仕掛けも実におもしろい。パネルに様々な映像が映し出され、様々に変容する。森の中の生命の動き、火のめらめらと燃え上がる様がパネルに映し出される。まるでパネルが生命を得たかのよう。世界全体が命を吹き込まれて生きている。まさにアニミズムの世界。「神々の黄昏」では、木の年輪がパネルに大きく映し出され、まさしく「生命の円環」を象徴する。ハリウッド的なエンターテインメントの路線を守りながらも、そこにしっかりとワーグナー特有の世界を打ち立てている。

 音楽に関しては本当に非の打ちどころがない。まず、レヴァインの指揮がいい。スケールが大きく、劇的でダイナミック。ワーグナー的なうねりにあふれている。ルイジの指揮はレヴァインの比べるとスケールは小さいが、つぼを押さえて、しっかりと盛り上がる。レヴァインに比べるとかなり鋭角的で現代的。繊細なところが特に素晴らしいが、ちょっと昔ながらのワーグナー演奏とは異なるのは間違いない。

 歌手たちは脇役に至るまで、ほとんどが素晴らしい。とりわけ驚いたのは、ヴォータンを歌ったターフェル。初めてのヴォータン役だというが、まさしく堂々たる歌。ただ、先ほども書いたとおり、演技があまりにマンガじみている(演出なのか、意識的な演技なのか、それとも単にそういう癖があるのか不明)気がするが、歌に関しては、ただただ圧倒される。そのほかの歌手たちも、いずれも見事。歌手の選択に容姿も加わっているようで、見た目も麗しい人が多い。逆に言えば、容姿もよいのに、まったく歌の面でも損なわれないところが、さすがにメトロポリタンだと言えるだろう。

 

 それぞれの楽劇ごとに簡単に感想をまとめる。

「ラインの黄金」については、私は歌手たちの見事さに舌を巻いた。エリック・オーウェンズのアルベリヒ、ブリン・ターフェルのヴォータン、ステファニー・ブライズのフリッカ、リチャード・クロフトのローゲ、ウェンディ・ブリン・ハーマンのフライアをはじめ、すべてがそろっている。

「ワルキューレ」は、ジークムントを歌うヨナス・カウフマンとジークリンデを歌うエヴァ=マリア・ヴェストブルックがあまりに魅力的。第一幕は本当に夢のように進んでいく。第二幕以降のターフェル(ヴォータン)、ブライズ(フリッカ)、ヴォイト(ブリュンヒルデ)もいいが、これについては、先ほど書いたとおり、あまりに表情豊かな人間ドラマであることに、私は少々違和感を抱いた。

「ジークフリート」は話題の新人ジェイ・ハンター・モリスがジークフリートを歌っている。あまりヘルデンテノールらしくない声なのが気になる。欲をいえば、もっと透明でよく通る高貴な声であってほしいのだが、ちょっとザツな感じ。だが、まあそんなジークフリートだと思えば、それもいいだろうという気にはなる。第三幕は圧巻。モリスとヴォイトの掛け合いが素晴らしい。モリスは実にタフで、くたびれることなく大声で歌い続ける。ミーメを歌うゲルハルト・ジーゲルもいい。

「神々の黄昏」もほかの作品に劣らず素晴らしい。ヴォイトとモリスのほか、ハーゲンを歌うハンス=ペーター・ケーニッヒ(ファフナー、フンディンク、ハーゲンを一人で演じている!)が太い声で悪漢を歌いあげる。イアイン・ペイターソンのグンターも、ウェンディ・ブリン・ハーマー(「ラインの黄金」ではフライアを歌っていた)のグートルーネも文句なし。最後は、舞台いっぱいに木目が広がり、そこに火が燃え移る。そして、水が押し寄せてすべてが水中に没して終わる。

 ルイージの指揮も、ドラマティックできびきびしていて実にいい。もう少し凄味があるともっといいのだが、そこまで要求するべきではないだろう。ただ、ここでも歌手たちにやはりアメリカらしさを感じた。形而上学的なところまで行かず、あくまでも人間ドラマで終わってしまう。それにヴォイトの顔の表情に余裕がありすぎて、ブリュンヒルデの悲劇が伝わらない。とはいえ、これほどの演奏、これほどの演出を非難したら罰が当たるだろう。

 ともあれ、これまで発売されてきた「指環」の映像の中では、最も充実した一つであることは間違いない。私は大いに満足した。そして、「指環」を見にメトロポリタンに行きたくなった!!

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コメント

今年5月にニューヨークで観賞しました。メットはやはり大きい。
舞台装置はよく考えられている装置でした。ただ、変化するときに音が気になりました。1階席の場合ですが、2、3階席は気にならなかった。すべて同じ席で取ることができずに1,2、3階と移動しましたが、2階席のバルコニーが一番すべて見やすい。歌手がターフェルが一番良くほかの人は細かく言えば?の人もいました。レヴァインさんが指揮すればまた違う印象を持ちのですがすべてルイ-ジさんで統一されDVDは指揮者が2人だからやや統一感が欠けている感じを受けました。メットは台本から逸脱しないから安心できる。ドイツの演出は理解するのが難しい。バイエルンやバイロイトのものは???なのです。もう少し台本を考えて演出してほしい。2014年からはドイツオペラハウス来日があるでしょうから。

投稿: ササキ | 2012年11月 3日 (土) 17時16分

ササキ様
コメント、ありがとうございます。
おかげさまで映像を見ているだけではわからない様子を、知ることができました。そうですか。ターフェルのヴォータン、映像でも圧倒的ですが、実演でもそうなんですね。
実はメットには一度も行ったことがありません。話に聞く通り、異様に大きいのでしょうね。会場の広さとしては、バイロイトくらいが最も適していると思います。でも、やはりぜひとも行ってみたいものです。次、ワーグナーを見に行くとしたら、バイロイトではなく、メトロポリタンにしたいですね。

投稿: 樋口裕一 | 2012年11月 5日 (月) 09時01分

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