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新国立の「ピーター・グライムズ」について

 108日、新国立劇場でベンジャミン・ブリテン作曲のオペラ「ピーター・グライムズ」を見た。このオペラの映像はいくつか見た記憶があるが、実演を見るのは初めて。なかなかおもしろかった。

 歌手は最高レベルでそろっている。ピーター・グライムズを歌うのはスチュアート・スケルトン。バイロイトだったか、ローエングリンを見た記憶がある。理想的なピーターだと思った。孤独で武骨な漁師をうまく演じている。最後の幕の錯乱した歌もなかなかいい。声もしっかり通って文句なし。エレンを歌うスーザン・グリットンも、ヴィブラートの少ない澄んだ声でしっかりと歌う。バルストロード船長のジョナサン・サマーズもアーンティを歌うキャサリン・ウィン=ロジャースも実にいい。日本人では、セドリー夫人を歌う加納悦子が嫌味な老女を実に的確に歌って、外国人勢に負けない日本歌手の実力を見せてくれた。そのほかの日本人歌手も合唱もすばらしい。

 リチャード・アームストロングの指揮については、私はブリテンのオペラについて云々する知識も見識も持ち合わせていないが、とてもよいと思った。東京フィルも、この難しい曲をしっかりと演奏していた。

 ウィリー・デッカーの演出もとても美しい。ずっと舞台は傾いている。表現主義的な雰囲気。背景も暗く、登場人物の全員が黒い服を着ている。ゴヤの暗い絵のシリーズを思わせるような雰囲気。とても説得力のある舞台だった。最後の場面で、エレンまでもがピーターの苦しみに目をそむけ、疎外する側に回ることがほのめかされる。

 ただ、正直に言うと、私はブリテンという作曲家にはあまり感銘を受けない。

 私はこのオペラを見ながら、ヤナーチェクを思い出していた。田舎の社会の閉塞的で息苦しい状況は、「カーチャ・カバノヴァ」や「イェヌーファ」に通じる世界だ。だが、音楽はヤナーチェクほど緊迫感にあふれていないし、ヤナーチェクほど息苦しくも重苦しくもない。ヤナーチェクほど狂気に至るまでの凄まじさがない。英語という言語のせいかもしれないが、音楽の中に、どこか理知的で客観的な要素が強く残っているような気がする。

 私はそのあたりに中途半端さを感じてしまう。良き市民の中にとどまろうとしている雰囲気がブリテンの音楽にはある。もちろん、私はブリテンについて何も知らず、音楽もそれほど聴いたことがないので、なぜそのように感じられるのか説明はできないのだが、そう感じてしまう。群衆のヒステリックな叫びもピーターの狂乱も、ベルクのヴォツェックやヤナーチェクのカーチャやコステルニチカほどの迫真力を私は感じることができない。

 逆にいえば、そのあたりの中途半端なところが、ブリテンの魅力なのかもしれないとは思うが、私にはベルクやヤナーチェクのほうがずっと魅力的に思える。

 が、ともあれ、よい演奏で珍しいオペラの実演に接することができて、とても満足。その意味では文句なしの上演だった。

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コメント

木曜日のマチネーに行ってきました。このオペラは、むか~しコヴェントガーデンがコリン・デービスに率いられて初来日した際、ヴィッカースのピーターで見たのが最初でした。
最後の「船を沈めるんだ」との衝撃的なセリフと、1幕冒頭や幕切れで奏でられる田舎の海岸風景を思わせる音楽に魅せられ、演奏会形式も含めて何度か舞台に接しました。
今回もすばらしい出来栄えだったと思います。特にすばらしかったのが指揮者です。聞いたこともない名前の方でしたが、オーケストラや合唱のアンサンブルがピタリと決まっていましたので、相当な力量の指揮者なのではと思いました。
ピーターをうたったスケルトンというテナーもすばらしかったです。この声ならワーグナーも歌えると思ったら、すでにバイロイトでローエングリンを歌っていたのですね。やはりという感じです。
演出もこれならいいです。妙な読み変えなどやらず、作品に寄り添った舞台で音楽の感動を高めていたと思います。すっかりいい気持で新国立劇場を後にしました。

投稿: ル・コンシェ | 2012年10月11日 (木) 22時09分

ル・コンシェ様
コメント、ありがとうございます。おっしゃる通り、見事な上演だったと思います。演奏、演出とも、とても満足のできるものでした。
ただ、私は実はイギリス音楽がかなり苦手で、エルガーもディーリアスも、退屈でしかたがないのですが、ブリテンに関しても、好きな作曲家になれそうもない気がしました。エルガーやディーリアスよりはずっとおもしろく感じるのですが、でもやはりそれらの作曲家に近いものを感じてしまいます。単に、聴き慣れていないだけなのかもしれませんが。

投稿: 樋口裕一 | 2012年10月12日 (金) 22時08分

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